村の異変
島の中心部へと向かった美香たち。
ジャングルのように生い茂る木々の奥に、異様な光景が姿を現した。
そこには巨大な岩壁がそびえ、中央にぽっかりと穴が開いていた。まるで何かを飲み込もうとするかのように。
影丸はその前で足を止め、重くつぶやいた。
影丸「この穴から……感じるな。嫌な気配が」
美香「どのくらい……ヤバそう?」
美香が小さく尋ねる。緊張からか声が震えていた。
迅がため息をつく。
迅「怖いなら、ここで待っててもいいんだよ?」
美香「……大丈夫」
美香は拳を握りしめ、一歩前へ出た。
影丸「行こうか」
影丸の合図とともに、一行は岩の穴へと足を踏み入れた。
⸻
穴を抜けた先には、まるで隠された集落のような場所が広がっていた。だがその村は――
半壊していた。
家屋は崩れ、焼け焦げた痕跡があり、かつて人が暮らしていた気配だけが濃密に残っている。だというのに、肝心の人間の姿はどこにもなかった。
影丸「…何があったんだ?」
影丸は周囲を警戒しながら呟いた。
影丸「リツの暴走か?」
そう言うと、影丸は部下に指示を飛ばす。
影丸「烈火、鬼蔵、迅は周囲の状況確認と住人の捜索だ。美香は俺と一緒に来い」
烈火・鬼蔵「ラジャ!」
迅「了解!」
美香もうなずき、影丸の後を追った。
村の中には、まだ温もりすら残る食事の跡、干しっぱなしの洗濯物、火の消えたばかりのかまどがあった。だが――
影丸「…おかしいな。ついさっきまで人がいたような……」
その瞬間だった。
背後から、ぞっとするほどの殺気が襲う。
「――吉田影丸ッ!!」
怒声と共に、一陣の風のように現れた影。
影丸は咄嗟に反応し、美香を背後に庇った。
影丸「! 誰だ!?」
その声の主は、黒の軍装に身を包んだ壮年の男――第四部隊隊長、不破ばしんだった。
影丸「…なぜお前がここにいる!?」
不破「上からの命令だ。まさかこんな辺境でお前と鉢合わせるとはな」
不破は美香の姿を見やる。
不破「ふむ。後ろの娘が例の“ミカ”か……」
影丸「…チッ。見えてやがるか」
影丸は歯噛みする。
影丸「ここでお前を倒しておかないとな。美香、隠れろ!」
不破「ほう……俺に勝てるつもりか?お前、序列を忘れたようだな」
その頃、散開していた部隊員たちにも、異変が起きていた。
⸻
村の外れ。
烈火が立ち止まり、前方に立つ人影を見て声を上げる。
烈火「お前か! 黒霧亜蘭!」
長身でマントを纏い、顔半分を仮面で覆ったその男がニヤリと笑う。
黒霧「ほう、名前を覚えていたとはな。意外だ。お前、頭空っぽだと思ってたよ」
烈火「うるせぇーよ!!」
烈火が叫び、拳を握りしめる。
一方――
鬼蔵の前にも、異形の男が立ちはだかる。
鬼蔵「誰だ貴様ッ!」
即座に殴りかかる鬼蔵。だが相手は軽く受け流す。
異形の男「誰かも分からず殴るとは、相変わらずだな、鬼蔵」
そして迅の前には、双子のように瓜二つの男が現れていた。
迅「はぁ、願わくば誰にも会いたくなかったのにな。よりによってお前らかよ……」
双子のどちらかが嘲笑した。
双子の男「なんだその覚え方! まぁいいさ、ザコはザコらしくさっさと沈んどけ!」
迅が首をゴキリと鳴らす。
迅「そーだな。一瞬で終わらせてくれ。面倒くさいのはごめんだ」
⸻
村には住人の姿はなかった。
だが、代わりに現れたのは直属部隊――室田財閥直属の、精鋭部隊たちだった。
影丸「 始めるか」
影丸が刀を抜く。
同時に、他の場所でも刃が交わり始める。
かつての仲間同士、もしくは顔見知りとの戦い。
だが、今は容赦などできない。
それぞれの信念と命が、交錯する。
そして――
死闘が始まった。