北の孤島
――翌朝。
鳥たちのさえずりが森に響き、澄んだ空気が一日の始まりを告げていた。
影丸が立ち上がり、空を見上げながら言った。
影丸「そろそろ、行こうか」
浩一郎「そうだな」
浩一郎も静かにうなずく。
浩一郎「行き方はわかってるのか?」
影丸「バッチリだ!」
仲間たちは、荷物をまとめて車に乗り込む。
その車は、まるでハイエースのような大型車両だった。
エンジンが唸りをあげ、旅が再び動き出す。
車は山を越え、谷を越え、無数の自然をくぐり抜ける。
⸻
数日が経ち、夜。
影丸が車を停めながら振り返った。
影丸「今日は、この辺で野営するか。夜人、京介、準備頼む」
夜人・京介「了解」
夜人と京介は素早く動き、テントや焚き火の準備に取りかかる。
その傍らで烈火が声をあげる。
烈火「鬼蔵! 狩りに行こうぜ!」
鬼蔵「行こう!」
2人は笑いながら森の中へ消えていった。
しばらくして、草をかき分けて戻ってきた2人の手には、丸々と太ったイノシシがあった。
烈火「イノシシ捕まえたぞー!」
ことは「じゃあ、焼こうか!」
ことはが笑顔で火の番を始める。
イノシシ肉を囲んでの夜のパーティー。
仲間たちの笑い声と、パチパチと肉が焼ける音が、星空の下に心地よく広がっていた。
⸻
そして、朝。
影丸が地図を広げながら宣言した。
影丸「今日で海を越えて、北の孤島に到着する予定だ」
浩一郎「もうすぐか……」
浩一郎は目を細めてつぶやく。
美香「どんなところなんだろう」
美香が空を見ながらぽつりと漏らした。
ことは「見た感じ、何もなさそうな島だった気がするわ」
ことはの言葉に、不安と期待が入り混じる。
やがて美香たちは船に乗り込み、荒れる波を越えて海を渡った。
潮風の中、船の揺れに身体を任せながら、目的の島を目指す――
⸻
北の孤島。
浩一郎「やっと着いたな」
船を降りながら、浩一郎が言った。
迅「しんど〜、疲れた」
迅がぐったりと倒れ込む。
島はまるで無人島のように静かで、人気がなかった。
美香「本当に、リツ一族なんているのかな……」
美香がぽつりと呟く。
ことは「いるかどうかは分からない。でも、目撃情報はたしかにあるのよ」
ことはの声は冷静だった。
そのとき、夜人の目が鋭く光った。
夜人「……影さん。この島、何かいます。普通じゃない何かが」
影丸「確かに。ヤバい気配がする」
影丸が険しい表情であたりを見渡す。
影丸「急ごう。鬼蔵、烈火、迅! 先行して探索するぞ」「
鬼蔵・烈火「了解!」
迅「この気配、さすがにやる気出すしかないか……」
影丸「いろは、あとは頼めるか?夜人、周囲の探知お願い出来るか?何か居ればすぐ報告だ!」
いろは・影丸「ラジャ!」
いろは「京介、いつも通りに頼むよ!」
京介「わかりました」
そのやり取りを聞いて、美香が前へと踏み出す。
美香「私も行きたい!」
浩一郎「えっ……美香?」
浩一郎が驚く。
美香「せっかく修行したのに、ただ待ってるだけなんてイヤ。私は行ける。だって、お父さんとお母さんの娘だもん!」
一瞬、浩一郎は言葉を詰まらせた。だが――
影丸「俺が見ておく。連れて行こう」
影丸が静かにうなずいた。
浩一郎「…すまない。頼んだ」
美香と影丸たちは、すぐに走り出す。
森の中へと消えていくその背中を、浩一郎は黙って見送っていた。
浩一郎の胸に不安だけを残して。