修行
浩一郎「俺からも、ひとつ訊いていいか?」
研究デスクに向かっていた浩一郎が、ふと影丸に声をかけた。
影丸「ん?なんだよ急に」
浩一郎は静かに言葉を紡ぐ。
浩一郎「昔、美香の母――ひまりが言っていたんだ。『リツ一族は全員が囚われてるわけじゃない。どこかに隠れて生きている者たちもいる』って。何か知らないか?」
影丸は腕を組んで少し考え込んだ。そして、ふと目を細める。
影丸「あー……そういえば……確証はないけど、北の孤島で妙な集落を見かけた気がするな。地図にも載ってないような場所だったから、逆に記憶に残ってる」
浩一郎「北の孤島か……。そこに行ってみる価値はありそうだな。何かがわかるかもしれない」
浩一郎は小さく頷くと、資料の山を見つめながら呟いた。
浩一郎「俺はとりあえず、美香の血の研究と“魔丸”の改良と治療方法について調べてみるよ。お前は、その孤島について調べてくれ」
影丸「任せとけ。信頼できる筋をあたってみる」
影丸は力強く返すと、すぐに動き出す様子を見せた。
⸻
その頃――小屋の裏では。
ことは「ケンカとかって、したことある?」
副隊長・ことはが、美香に笑顔で問いかけた。
美香「ないです……」
少し照れたように答える美香。
ことは「なら、まずは体力づくりからだね!」
ことははバシッと手を打つ。
ことは「大きな力を扱うには、体力が要るんだよ。まずは走る!全員で!」
「え⁉︎」
隊員たちは一斉に声を上げた。
迅「マジっすか!?副隊長!」
ことは「マジだよ!女の子ひとりだけ走らせるなんて、男の風上にも置けないだろ!行くよ、ほら!」
「はーい……」
全員が渋々ながらも走り出す。
足音が響く訓練場に、美香の息が混じっていた。懸命に走りながらも、その目には決意が宿っている。
少しして――
ことは「休憩ー!」
ことはの声に皆が一斉に立ち止まる。
京介「美香ちゃん、よく頑張ったね」
美香「ありがとうございます……!」
その様子を見ていた夜人が口を挟む。
夜人「この程度のランニングでバテるわけにはいきませんね……迅、君はサボってたのであと10周です」
迅「うっ……走らねーよ、めんどくさいし……」
夜人が黙って走り出す。
ことはは小さく笑い、「ああいう真面目なのも、一人くらいいた方がチームとしてはバランスいいかもね」とつぶやいた。
⸻
そして次のメニューへ。
ことは「よし、じゃあスパーリングいくよー!」
ことはが声を上げる。
ことは「夜人は少し休憩。他は2人1組。美香は私とやろう。まずは基本の打ち方からね。他の子たちは全力でいくよ!」
夜人はい!」
他全員「了解っす!」
迅「ええーっ、さっき走ったばっかじゃん……」
迅の不満が漏れるが、隊員たちは次々と準備を始めた。
その瞬間――
ドッ!!
訓練場から4人の姿が一瞬でかき消えた。
美香「え⁉︎どこ行ったの?」
美香は驚き、あたりを見渡す。
ことはが穏やかに言った。
ことは「目で見るんじゃなくて、耳で聴いてみて。集中して」
周囲には、姿は見えないのに拳がぶつかり合う音、足音、呼吸音が確かに響いていた。
美香「すごい……」
美香は目を丸くする。
美香「すごい人たちだとは思ってたけど……これは、本当に……!」
すると、空中から声が聞こえた。
烈火「だろ!?俺たちは最強だからな!」
鬼蔵「イテッ!バカ、よそ見するな!」
そのやり取りに、美香は思わず笑ってしまう。
ことはも笑いながら声をかけた。
ことは「じゃあ、美香も始めるよ!最初は、打つ形から。次に力の入れ方を教えるね!」
美香「はいっ!」
拳と拳がぶつかる音。
新たな決意が、その拳に宿っていた。