襲撃
力の覚醒。
目的の共有。
そして、心の絆。
美香「これからは、私がやる――」
そう誓った朝、美香と浩一郎の間に新たな“希望”が芽生えていた。
美香「じゃあ私は、能力の制御から始めるね」
浩一郎「うん。父さんは血液の研究を進めてみるよ。何か分かるかもしれない」
決意を交わしたふたりの顔は、晴れやかだった。
母の想いを継ぎ、室田財閥に立ち向かう未来。
遠いようでいて、今なら届きそうな気がした。
パンの焦げた香りも、果物の甘さも、いつもと同じなのに――
それが、どこか特別な味に思えた。
朝食を終え、皿を片付けようと立ち上がった瞬間――
ガシャッ!!
突然、窓ガラスが割れる音が鳴り響いた。
瞬間、部屋の中に何かが投げ込まれる。
美香「っ!?」
床に落ちたそれは、金属製の小さな筒。
次の瞬間、白い煙が勢いよく噴き出した。
浩一郎「美香、伏せろ!!」
浩一郎の叫びも虚しく、煙は一瞬で部屋中に充満した。
視界が真っ白になる。
呼吸が苦しい。
目も、喉も、焼けるように痛む。
美香「おと……っ」
美香の声。
それが最後だった。
ドサリ――
倒れる音。
浩一郎「美香!!」
浩一郎は咳き込みながら手探りで娘を探そうとした。
だが、足元はもつれ、意識が遠のく。
(くそ……何が……誰が……)
うっすらと見えた。
煙の中から現れる、漆黒の戦闘服に身を包んだ男たち。
顔には仮面。肩には白い紋章――。
(あれは……まさか……!)
浩一郎「貴様らは……“暗殺部隊”……!」
室田銀治直属の暗殺殺戮専門部隊。
敵対者や裏切り者を抹殺するために編成された非公式部隊。
その存在すら噂に過ぎなかった部隊が、今、目の前に現れた。
男1「この娘が確保対象か。思ったより華奢だな」
男2「今回の任務、楽勝すぎだろ。煙幕だけで眠らせられるとはな」
部屋の中央に倒れた美香を、2人の男が見下ろしていた。
浩一郎は意識をつなぎながら、言葉を振り絞った。
浩一郎「なぜ……ここが分かった……誰が……?」
男1「隊長はずっと見てたんだよ。お前らが逃げ出した時からな」
男2「でもな。隊長も命令には逆らえない。感情とか正義とか、そういうの関係ねぇんだよ」
浩一郎「お前ら……」
浩一郎の声は震えていた。怒りとも絶望とも言える感情が、混ざり合っていた。
浩一郎「美香はどうなる……俺は殺されるのか?」
男1「おっさんは、ここで死んでもらう」
男2「娘は連れていく。俺たちの任務は“確保”。生かすか殺すかは、その後の人間が決める」
浩一郎の表情が歪む。
言葉にならない悔しさが喉元まで込み上げていた。
浩一郎「お願いだ……娘の命だけは……助けてくれ……!」
男1それは……知らねえな」
男2「俺たちの任務は連れて行くだけ。それ以上でも、それ以下でもない」
そして――
男2「そろそろ、時間だな」
男のひとりが刀を抜いた。
無駄のない、殺意に満ちた動作だった。
ザリ――と畳を擦る刃の音。
それは、死を告げる合図のように響いた。
男2「じゃあ……死んでもらおうか、“元”天才医師さんよ」
刃が、浩一郎に振り下ろされた――。