決意の覚醒
父が部屋を出ていったあと、
美香はひとり、静かに窓の外を見つめていた。
夜が明け、朝が訪れていた。
でも、その朝はこれまでとはまったく違っていた。
自分の出生の真実。
母・ひまりがリツであったこと。
父・浩一郎が命を懸けて母と自分を救おうとしたこと。
そして――
母が父と交わした、最後の“願い”。
(リツ一族を……解放してほしい)
それはつまり、
リツたちを支配し、人体実験を続ける黒幕――
室田財閥を崩壊させることに、他ならなかった。
美香「お母さん……」
美香はそっと目を閉じ、深く息を吸い込む。
(あたしが……やる)
静かに、でも確かに心の奥で決意が生まれた瞬間だった。
カチャッ――
食器の触れる音が、台所から聞こえる。
父が朝食の準備をしているのだ。
パンの焼ける匂い。
ジュウとベーコンの焼ける音。
優しい音が、美香の心に沁みてくる。
コンコン、とドアがノックされた。
浩一郎「美香、朝ごはんできたよ。食べよ!」
浩一郎のいつもの声。
どこか安心感を覚える、穏やかな声だった。
美香「うん!」
美香は小さく頷き、部屋を出た。
食卓には、変わらない風景があった。
焼いたトーストの上にカリカリのベーコンと目玉焼き。
別の皿にはカットされたリンゴとキウイにヨーグルトがかけられている。
毎朝見慣れた、父が作る“いつもの朝ごはん”。
美香「いただきます!」
美香は嬉しそうに手を合わせ、朝食に手をつけた。
ベーコンの香ばしさが、少し疲れた身体に染みわたる。
ふと、口を拭きながら美香が口を開いた。
美香「お父さんは……お母さんとの約束、ちゃんと守れたよ。
あの地獄から、お母さんを……救い出せたんだよ」
浩一郎は、手を止めた。
浩一郎「……そうかな」
静かに、そう呟いたあと、彼の目からひとすじの涙がこぼれた。
その涙は、悔しさでも、悲しさでもない。
救えたという安堵と、何かを乗り越えたことへの感謝のような、
そんな涙だった。
そして、美香はゆっくりと父に向き直り、こう言った。
美香「私ね……お母さんの願いを、叶えるよ。
あんな地獄……もう二度とあっちゃいけない。
だから、室田財閥を崩壊させる。絶対に」
その言葉を発した瞬間――
美香の身体に、熱が走った。
鼓動が早くなる。
体の奥から、何かがあふれ出すような感覚。
身体が、明らかに変化していた。
皮膚は銃弾をも弾く強靭さを帯び、
指先には鋼のような力が宿る。
椅子を持ち上げようとしただけで、天井まで軽々と持ち上がった。超人的な力だった。
浩一郎は、目を見開いていた。
驚きと共に、何かを確信したような表情だった。
浩一郎「決意の力か、今までのリツたちは、あの地獄の中で希望も持てず何も決意する事がなかったから怪物化してたのか!」
それは新しい発見で力に関するトリガーだった。
これまで美香に宿っていた“変身能力”は、単なる幻影ではなかった。
それは――心が決意したときに、真に覚醒する能力だった。
浩一郎「美香……頼みがある」
浩一郎は真剣な目で、美香に向き合った。
浩一郎「君の血を……研究させてほしい。
もしかしたら、その力を解明すれば……
他の人にも、“目覚める可能性”を与えられるかもしれない」
美香「いいよ」
迷いはなかった。
父のために。
母のために。
そして、リツたちを救う未来のために。
今、ようやく2人は“同じ目的”を持った。
それはただの親子ではなく、
“闘う者同士”の――新しい絆だった。