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浩一郎の過去(後編)



三人の進路が完全に定まったあの日から、季節はまた巡っていた。


浩一郎と加賀は、最難関ともいえる国家試験を難なく突破し、医師免許を取得した。

それは当然の結果だった。ふたりとも、学生時代からすでに「医師以上の実力」を備えていたのだから。


影丸も、就職を見据えて本格的な体力作りと筋力トレーニングに励んでいた。

ふざけたように見えて誰よりも真面目。誰よりも努力していた。


そして迎えた卒業式。

「伝説」と称された三人の学生生活は、多くの人に影響を残し、幕を下ろすこととなった。

清々しい顔で、それぞれが別の道へと歩き出した。




勤務初日。


浩一郎は、室田病院に新任医師として配属された。

事前の成績と評判から「天才が来た」と話題になっていたが、その一方で――


「生意気そうよね」「若いくせに天才って……鼻につく」


と、陰口も囁かれていた。

天才とは孤独な称号。称賛と嫉妬は、常に表裏一体だった。


一方、加賀は室田研究所の機密部門へ。

そこは外部から完全に遮断された地下施設で、極秘の人体研究が行われている場所だった。


加賀「フフッ……ようやく始まる……俺の理想が、目の前にある」


研究員たちからも歓迎され、夢のような研究設備と自由な環境に、加賀は高笑いが止まらなかった。


影丸は警備会社の初日研修に参加。

基礎体力テストでは他の参加者を圧倒する結果を叩き出し、トレーナーたちから驚きの声が上がった。


「こいつ……レベルが違う……!」


「いや、化け物かよ……!」


影丸は笑って答えた。「体力だけは自信あるんで!」


数日が経ち


病院勤務の浩一郎はというと、

天才という名で扱われながらも、その実態は「監視付き」であり、

常に目のある環境の中、息苦しさを感じながらも患者を救っていた。


それでも患者が次々に運ばれてくる現状に、ふとした疑問が芽生える。


(どれだけ治療しても、患者の数が減らない……なぜだ?)


そんなある日、上層部からこう告げられた。


「研究所では、病気にかからず、傷つかない、完璧な身体を持つ“人間”の開発を目指している。

病院は治療。だが、研究所では“未来の人体”を創るのだよ」


浩一郎は、何を言われているのか理解出来ていなかったがその異常さだけは伝わってきた。




──勤務開始から1年が過ぎた頃。


ある“リツ”と呼ばれる女性実験体と出会う。

それが「ひまり」との出会いだった。


拘束具に包まれた彼女は、研究員たちの冷たい視線の中で静かに言った。


ひまり「あなた……他の人と違う。ここにいる人たちは、みんな冷たい目をしている。けど、あなたは……違う」


その言葉に、反応はしなかったが妙にひまりの事が気になっていた。


それから、少しずつ見かける頻度が増え顔見知りになっていった。


次第に、浩一郎とひまりは惹かれ合い、心を通わせるようになっていった。

それは、純粋な愛だった。


そんなある日、上層部からの命令が届く。


「病院を辞め、専属の研究員として“リツ”の研究に当たれ」


命令に従うかたちで浩一郎は病院を退職。

それ以降、ひまりと共に過ごす時間が増えていった。




そしてある日――


ひまりの身体に変化が現れた。

検査の結果、浩一郎との間に子供ができたことが分かったのだ。


驚き、困惑し、しかしそれ以上に――嬉しかった。


ひまり「浩一郎……」


ひまりは少しだけ寂しそうな笑みを浮かべながら言った。


ひまり「リツ一族ってね……今、ここに捕まってる人たちだけじゃないの。

外のどこかに、隠れて生きてる人たちもいる。

もしかしたら……何かあった時、きっと役に立つかもしれない」


浩一郎は黙ってその言葉を受け止めた。

その日から時の流れが急に早まったように感じた。


そして──無事に、美香が産まれた。


赤子を抱きながら、ひまりは浩一郎に優しく言った。


ひまり「美香は……普通の人間として生きてほしいの。

あなたの娘でもあるから……きっと、大丈夫だよね」

ひまり「それから私を私たち一族を解放して欲しい。」


その願いを胸に、浩一郎は研究所を去る決断をした。


浩一郎「必ず、迎えに来る。約束する」


そう言い残し、娘を抱いて逃げた。

すべてを敵に回してでも、守ると決めた。




──現在。


静かな部屋で、美香は真剣に父の話に耳を傾けていた。

これまで知らなかった出生の真実、母のこと、自分の運命。


話が終わった頃、外はすっかり朝の光に染まっていた。


浩一郎「……もうこんな時間か。朝ごはんにしようか」


浩一郎は、少しだけ照れくさそうにそして悔しそうに立ち上がり、部屋を出ていった。


美香は、まだ何も言葉を発せなかった。

ただ、その背中を目で追いながら、胸の奥に沸き起こる想いを、静かに噛み締めていた。

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