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浩一郎の過去(中編)



大学生活も、気づけば三年が過ぎようとしていた。

講義、レポート、サークル、試験、そして研究。

楽しいことも、苦しいことも、すべてが詰まった、かけがえのない日々だった。


そして今、少しずつ「未来」の足音が聞こえはじめていた。



加賀秀一と吉田影丸。

最初は面識のなかった2人も、浩一郎の紹介によって互いに知るようになっていた。


影丸「へぇ、お前が加賀くん? なんか理屈っぽい顔してるね!」


加賀「君が……影丸くん? ……なるほど、ノリだけで生きてるように見える」


影丸「ははっ、よく言われる!」


最初こそ会話はぎこちなく、価値観も真逆だったが、

共通の友人・浩一郎を通じて、互いを「認め合う存在」へと変わっていった。




その頃、浩一郎と加賀は同じ教授の研究室に所属し、類まれな才能を発揮していた。

理論と技術、分析と実行。

互いを補完しながら生み出す研究成果は、学生離れした完成度を誇っていた。


周囲からは「天才コンビ」と呼ばれ、教授陣からも一目置かれる存在となっていた。


だが、将来の道については三者三様に思い描いていた。


浩一郎「俺は……やっぱり、医者になりたい。現場で、人の命を救う側に立ちたいんだ」


浩一郎は静かに、だが力強く語った。


加賀「俺は、細胞や構造、人間そのものを解き明かしたい。

“なぜ人間は人間のままなのか、もっと強い存在にならないのか“という問いに、いつか答えたいんだ」


加賀は目を細めながら、まるでそれが“当然の欲求”であるかのように語る。


影丸「俺はなぁ……まだよく分かんないけど、動いてる方が好きかな。

体を動かす職業? 警備とか、レスキューとか、そういうのも悪くない気がする!」


影丸は相変わらずのマイペースだったが、自分の“得意”には素直だった。


未来は、まだ誰の手の中にもなかった。

だが、それぞれの視線は、確かに少しずつ異なる方向を見始めていた。




ある日のことだった。

3人はそれぞれ、別々の時間に学園長室へと呼ばれる。


応接室で待っていたのは、室田大学の学園長──室田宗治。

表向きは穏やかで理知的な紳士。だがその正体は、室田財閥の直系・室田銀治の次男であり、

財閥にとって“人材の選別と確保”を担う重要な人物だった。


最初に呼ばれたのは、加賀だった。


室田宗治「加賀秀一くん。君の研究論文、拝見させてもらった。……実に面白い」


宗治は微笑みながら、加賀の本質を突く。


室田宗治「人間を研究素材として見ているようなその視点。私たちが求めていた資質に、極めて近い」


室田宗治「そんな君にいい所がある。室田研究所の機密プロジェクトNラボ地下施設はどうかな?」


加賀「Nラボ地下施設ですか。面白そうですね!」


加賀の声に迷いはなかった。


加賀「私の知識が役に立つのなら、ぜひ参加させてください!」


加賀「それからお願いが、あるんです。緒方浩一郎も一緒に推薦してくれませんか?」


宗治は静かにうなずいた。

加賀にとって浩一郎は、価値観は違えど理解者として完璧な存在だった。




次に呼ばれたのは、浩一郎。


室田宗治「医師としての道を歩みたい。それが本音でしょう?」

宗治は見透かすように言った。


室田宗治「しかし、君にも研究者としての素質はある。加賀くんも推薦してるし。室田研究所に来ないか?それと、室田病院にもポストを用意してあげる」


室田病院と研究所の“兼任”


室田宗治「ただし、室田研究所は機密事項に触れる可能性がある。だから厳重な監視下での活動となる。それでいいか?」


浩一郎「人のためになるのなら」


人の為になる事をを信じて、浩一郎は頷いてしまった。

それが、数年後に自らの運命を縛る鎖となることも知らずに。




最後に呼ばれたのは影丸。


室田宗治「君の反応速度、筋力バランス、身体能力……どれも規格外だ。

室田警備会社に来てみないか? 本格的な訓練を受けてもらう」


影丸は驚きながらも、どこか嬉しそうだった。


影丸「え、俺が!なんか、楽しそうですね。やってみます!」


その笑顔を見ながら、宗治は口元にうっすらと笑みを浮かべていた。


室田宗治「では、ようこそ。室田の世界へ」




こうして、3人の道はそれぞれに決まった。


互いに交わることのない場所で、

互いに知らぬ“影”に近づいていく。


それが、後に悲劇を呼ぶとは、このとき誰も知る由もなかった。


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