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第6話 陰謀の余燼と新たなる挑戦

 御膳の香が漂う王宮の食堂。朝靄の差し込む窓辺には、賑やかな食卓が広がっている。国王と美咲、そして元気に箸を動かすレオンの三人は、久々に揃って朝食を楽しんでいた。


「さて、今日は城下の診療所にお見えになる外国の医師をお迎えする日だ」

 父王が微笑みながら告げると、レオンは目を輝かせた。

「お医者様? どこからいらっしゃるの?」

「隣国ドラーヴィアからだ。彼の最新の外科技術を学べば、この国の医療水準も一段と向上しよう」


 美咲はゆっくりとうなずきながら、窓外に視線を移した。城下町の景色を一望できるこの席からは、新設の託児所や学舎、そして改修を終えた診療所の煉瓦の屋根まで見渡せる。


 ――開設からわずか数週間で、人々の命を救い、教育を与え、国全体の士気を高めた。しかし、その陰で、旧来勢力の不満の種はくすぶり続けている。


「継母様、本当に大丈夫? あの伯爵一派、まだ黙ってない気がするよ」

 レオンは真剣な表情で美咲を見つめる。

「心配しなくていいわ。彼らも今は表立っては動けない。しかし、油断は禁物ね」


 美咲は軽く笑い、テーブルに置かれた果物の皿からイチゴをひとつつまんだ。赤い粒は甘酸っぱく、今の自分たちを思わせる。


 正午。城下町診療所の前には、外交官や貴族、村長たちが集まり、隣国医師の到着を待っている。美咲は王家の特使として、白衣をまとった青年医師エリオットを笑顔で出迎えた。


「ようこそ、ドラーヴィアの名医エリオット様。遠路はるばるお越しいただき感謝します」

 エリオットは柔らかな物腰で頭を下げた。

「光の国の先進的な取り組みには以前より興味を抱いておりました。私も微力ながらお手伝いさせていただきます」


 やわらかな日差しが二人を包み、診療所の扉が開くと、なごやかな拍手が湧き上がった。子どもや庶民たちの顔には期待と安心の色が浮かんでいる。


 夕刻。学舎の講堂で、美咲は王都改革委員会の集まりに出席していた。議題は「農村への簡易医療隊派遣」と「次年度学費助成計画」。改革派の議員たちは積極的に意見を述べるが、保守派の貴族数名は険しい顔を隠さなかった。


「民衆の福祉も大切だが、国家財政を考えれば慎重にすべきでは?」

 老貴族のひとりが声を荒げる。

「継母令嬢のご提案は理想論に過ぎぬ。現実を見よ」


 美咲は鋭く相手を見据え、ゆっくりと口を開いた。

「理想を掲げてこそ、未来は描けます。初めは小さな一歩でも、やがて国全体を支える大樹となるのです」


 その言葉を、改革派はうなずきながら拍手で受け止めた。保守派も眉をひそめつつ、反論の手を抑えるしかなかった。


 深夜、書斎に戻った美咲は、王立図書館で翻刻した古い農村医療記録を広げていた。紙面には、百年前の疫病流行時の対策が克明に記されている。


「エリオット様の技術と、過去の知見を組み合わせれば、もっと効率的に救援できるはず……」


 微かな笑みを浮かべ、ペンを走らせる。隣の机の隅には、レオンからの手紙が置かれていた。


ーーーーーーーーーーーー

「継母様へ

 今日は学校で、みんなが僕の家族の話を聞いてくれました。みんな“継母令嬢”のことをすごいって言ってたよ。僕、もっとがんばるね!

 レオンより」

ーーーーーーーーーーーー


 読み終えた美咲の胸に、あたたかな温もりが広がる。手紙をそっと胸に抱き寄せると、瞳にそっと涙がにじんだ。


「あなたの笑顔のためにも、私は走り続ける……」


 窓外には流れ星がひとつ、静かに夜空を横切った。新たな課題に立ち向かうための静かな誓いを胸に、継母令嬢は再びペンを握りしめた。次の朝、城に届くのは、さらなる“ぬくもり”の種となる改革案だ。

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