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第5話 新たなる夜明けと約束

 宮廷の祝典後、城内には久々の穏やかな空気が漂っていた。薄紅に染まった朝陽が大理石の廊下を優しく照らし、美咲はゆっくりと深呼吸をした。


「やっと――静かな時間が戻ってきたのね」


 隣を歩くレオンは、まだ幼い手で新調した学院制服の裾をそっと握り締めている。胸には彼が初めて手にした「魔力制御証明書」が輝いていた。


「継母様、今日から僕、学校に通います」


 美咲は微笑み、そっとレオンの肩に手を置いた。


「ええ。まずは基礎学科よ。お城の学問所ではなく、新しく設立した“光の学舎”でね。そこでは魔法と学問が同時に学べるわ」


 レオンの瞳が一層輝きを増す。


「魔法だけじゃなく、算術や文学も? 楽しみだな…!」

「あなたにぴったりの環境だと思うわ」


 廊下の先、窓辺には王立書庫から運び込まれた新書がずらりと並んでいた。民間の学者たちと協力して設けたこの学舎は、幼いながらも王族としての学びを重視するレオンにとって、有意義な場所となるはずだ。


 午後。学舎の大講堂では入学式が始まっていた。壇上には父王が威厳をもって立ち、式を取り仕切る。


「本日より開校の光の学舎は、知識と魔法の未来を担う若き英才たちをお迎えいたします。皆、学び舎の名に恥じぬ志を胸に刻み、研鑽せよ」


 拍手が響き、レオンは胸を張って父王に敬礼した。美咲は控え席からその姿を見守り、微かな誇りとともに胸を熱くする。


 ――あの日、夜闇の中で手を取り合った二人が、今こうして同じ場所に立っている。苦難を越えた証しだ。


 夕刻。学舎から戻ったレオンは、満足げな表情で焼き菓子を頬張っていた。


「継母様、このお菓子、やっぱりおいしい!」

「よかったわ。今日は特別に、レオン用に蜂蜜とハーブを混ぜ込んでいるの」


 笑顔を見せる美咲の横顔に、ひとしずくの汗が煌めいていた。学舎設立や祝典の準備で忙殺される中、彼女はまだ休む間もなく民衆の声を聞き取り、次の城下改革プランを練っている。


「継母様、いつ休むの?」

「ふふ、あなたが寝静まった後、少しだけ読書の時間をもらっているわ」


 美咲は立ち上がり、ワインの入ったグラスを片手に窓辺へ向かった。外には静かな王都の夜景が広がる。


「この平和が、ずっと続くように。あなたと私と、皆の笑顔が失われないように」


 そう呟き、グラスをそっとレオンのミルクカップと合わせた。


「――乾杯、王子様」

「――乾杯、継母様」


 窓の向こうで星がまたたく。新たな夜明けとともに、二人は静かな決意を胸に刻んだ。次なる試練が訪れるその時まで、この穏やかな時を大切に――。


 ――家族の絆は、明日へと続く。

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