42話
【クエスト オブ サンハルト 42話】
「ぐぬっ⋯!?」
エビウスは、怪訝な表情を浮かべた。
握り潰したと思ったが、手応えがなかったのだ。
「メソメソすんな、2人とも」
「えっ!?」
サラとフュリスが驚いて、声がする方を向くと、そこにはケンジロウが笑って立っていた。
「ケンジロウ!」
「お兄ちゃん!」
「わったったっ!」
サラとフュリスは、一直線に駆け寄り思わずケンジロウに抱きついた。
「まーだ、決着はついてねぇ、喜ぶのはちっと早えぞ」
「そ、そうだったわ⋯」
「くすん⋯」
サラとフュリスは、慌ててケンジロウから離れた。
「お前⋯な、なぜ生きている⋯!?」
さすがのエビウスも、驚愕していた。
「あんた、手がデカ過ぎたのさ」
「何⋯!?」
「サラは生きていると信じて呼吸を整えて、爪を沙羅曼蛇で受け流し、指と指の隙間に入り込むことに成功した」
ケンジロウの右手は陽、左手は沙羅曼蛇を握っていた。
「そして、あんたが握り潰そうと力を込めた瞬間に脱出したのさ。間一髪だったけどな⋯」
「忌々しい奴め⋯!」
さすがのエビウスも苛立ちを隠せなかった。
「さて⋯フュリス、サラ、どうする? 決め手がねぇ⋯」
「そうね⋯切っても再生しちゃうし⋯」
「わたしたちも消耗がはげしいからいつかやられちゃうわ」
「だよな⋯」
ケンジロウ達は、攻めの決め手が無く困り果ててしまった。
一方、エビウスは⋯
(幾分か、力が戻ってきたな⋯! 再生もするようになってきた。奴らはジリ貧になるのは必定⋯持久戦に持ち込むか)
「フハハハハッ!!」
「急に笑いやがって⋯なんだよ?」
「この勝負⋯先が見えたのだよ」
「どういう事?」
「お前達には、決め手があるまい⋯だが、私はまだ余力があるぞ」
「う、うそをつかないでよ! はりせんぼん飲ませるんだから!」
「針千本⋯? ああ、お前達人間は、うっそついたら針千本飲〜ます♪とか言うのだったな⋯針千本飲んでも良いぞ⋯」
エビウスは、妙に歌が上手かった。
「えっ?」
「飲んでも痛手にはならぬよ。金属も美味いのだぞ⋯」
「ひっ⋯! う、うそでしょ⋯!?」
「竜が肉だけ喰うと思っておったか⋯? 木はもちろん、石や金属も喰えるのだぞ⋯鱗が鋼鉄よりも硬いのはその為だ」
「し、信じられない⋯」
「証拠を見せてやる」
エビウスは、岩を掴んでムシャムシャと食べた。
硬い岩もエビウスの鋭い牙で食いちぎり、破砕機の様な奥歯で粉々に噛み砕いて飲み込んだ。
「ご馳走様⋯!」
エビウスは、舌で口の周りを舐め取った。
「ひゃあ⋯」
サラが、目を丸くして驚き、フュリスは両手で口を覆い信じられない光景に呆然としていた。
「岩はうめぇのかい?」
「お、お兄ちゃん⋯?」
「な、何言ってるの⋯?」
「興味本位だよ」
(実は、手が無いか考えてんだけどな⋯)
「ほぅ⋯岩の味に興味があるのか?」
「まぁな!」
ケンジロウは、話しながら魔法の火文字で“決め手を考えろ”とエビウスに見えないようにサラとフュリスに伝えた。
サラとフュリスは、ケンジロウを見て頷いた。
「基本的には不味い。 だが、金は美味だ⋯食ってもあまり身にならんのがネックだがな⋯そなた達、人で言えばチョコレートと言ったところだ⋯」
「チョコレートって何だ?」
「私も知らん。食べたことは無いのでな⋯仲間達に聞いたらどうだ?」
「美味しいお菓子よ」
フュリスは、サラッと答えて手は無いか考えた。
「そうか⋯食ってみてぇな⋯」
(ん? 雨が降ってんのか⋯⋯そうか!!)
「サラ、フュリス、ちょっと耳を貸してくれ」
「うん」
ケンジロウは、何か作戦を思いつきフュリスとサラに耳打ちした。
「分かったわ!」
「よし! 勝負だぞ⋯これをしくじれば俺達の負けだ」
「⋯うん!」
「さ、行くぜ! エビウス!! 長期戦は俺達が不利⋯!」
「気付いておったか⋯お前達が勝つには短期決戦しかあるまい」
「そういうことだ⋯行くぜ!」
「来い!」
読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m