僕のルームメイト
「起きろよ」
何かが僕を蹴飛ばした。
気がつくとそこに現れるあいつ。
決まって奴は僕が眠りに落ちるか落ちないかの時に手酷く蹴飛ばしてくる。
仕事で疲れていようがお構いなし。
薄ら瞼を開くと黒い水面に反射もせずに黒い脚が立っている。
…今日も現れた。
数年前から現れたこいつに僕は何の気無しに”悪魔”と名を付けた。
新聞配達のバイクの音が遠ざかる。
3時は過ぎた辺りだろうか。
寝ぼけた頭をペットボトルの中身でどうにか起こす。
「相変わらず愚鈍だな」
苛立たしげに足で小突いてくる。
光る板に手を伸ばすと3時22分と映し出してきた。
「いつまで寝ている。さっさと起きろ」
うるさい。仕事があるし、僕は眠りたいんだ。
何かが僕を蹴飛ばした。
「お前のせいでずっと起こされているこっちの身にもなってみろ」
思わず睨み付けてもそいつに顔らしいものはない。
ただ八つ当たりがしたいのだ。きっとそうに違いない。
僕が眠るから、その邪魔をしたいのだ。
霧の様な暗闇が広がっている誰もいないはずの部屋。
仕方が無いのでむくりと身体を起こす。
しかし起きたところで、明日も仕事だ。
寝なければならない。
そう言ったところで蹴飛ばされるだけに違いなかった。
…はぁ、僕に何をさせたいんだお前は。
「それが分かるまで起こしている」
また苛立たしげに小突いてくる。
分からないから質問をしていると言うのに。
ぬるくなった飲み物を一口、僕はパソコンをカタカタとやり始めた。
何か出来ると思うほど僕は自惚れちゃいない。他を当たってくれ。
何かが僕を蹴飛ばした。
「それが出来るならそうしている」
不運にも僕に縛り付けられているらしい。
平積みの本にどかっと腰を下ろすそいつ。
多分ひっくり返ったんだろう、すごい音がする。
近所付き合いなんてできない僕には謝りに行ける度胸もない。
…そろそろ集めた本も捨てないとか。
雪崩れた本を拾い上げゴミ袋横に平積みにしていく。
何かが僕を蹴飛ばした。
「そんなことをしろと誰が言った」
顔も無い癖に泣きそうな声をしている。
撫でてやりたくなったが、そこには誰も居ないのでやめておいた。
作業を中断してパソコンの前に戻る。
長らく書いてなかった自作の小説の続きを描き始めた。
今日も仕事があるのにな。
何かが僕を蹴飛ばした。
振り返ると、朝日に照らされた小さい頃の自分がいた。