4 昨今流行の
「それは、昨今流行の恋愛小説が原因でございます」
だから図書館で待ち合わせをさせていただいたのだ。
アネット殿下はマリーナが嫌がらせをされているのに気がついたのだ。
なので調べていたのだが……面倒くさいべ。本人から話聞いた方が早くないべか? となったのだ。田舎でまどろっこしいことしてたら、作物は台無しになるべさ。
クラスが違うとはいえ、己のクラスでも名指しでマリーナが「身の程知らず」などと噂になっていれば気になった。話をしていた貴族に何事かと問いただしても「まぁ、あの者ったらアネット殿下にまで取り入って」と斜め上のよくわからない返事。ちなみに、このクラスメイトは侯爵家の令嬢で「田舎の伯爵殿下」と、アネットのいないところではこっちも嗤ってくれている。何もなければアネットが最終的にはトーカロ伯爵家の跡取りのままだから、こうして侮ってくる輩もいるのだ。
一応王族なのだが、その辺りの感覚がまだまだ薄いアネットにも問題もあるから今は、放っておく。
先を解らぬ、察することができない相手など……。
――そのうちパンが、小麦が、自分とこの領地に届かなくなってもしらんからな?
マリーナのことは生徒会で顔見知りで、確かにこのクラスメイトよりよく話をしていただろうけども。
でも、アネットのマリーナへの印象は真面目で書類の整理も計算も丁寧な少女であっただけなのだが。さすが都会のお嬢さんは数字にも強いんだべなぁ、なんてこっそり。
そんなアネットもひっそりと施されていた教育で、書類の読み方は早い方。
この学園はクラスは主に二つに別けられる。
上位と下位、だ。
かつては成績順であったらしいのだが――上位貴族が同じクラスにいた下位貴族や平民を、権力を笠に着て召し使いのように扱うことが度々起きた。そんな問題が、毎年のように。
優秀な人材が、つまらない貴族の見栄でどれ程潰されたか……。
どれだけ「学園内では身分の~」などと校則にしても、暗黙のようなもの。学園から出た先のことを考えねばならないのだから。
そのため、学園は数年前にクラスを決める際に「上位貴族」と「下位貴族」で別ける方法をとった。
上位クラスには王族から公爵家、侯爵家、伯爵家の上位まで。
下位クラスには伯爵家の下位から子爵家、男爵家、準男爵等ふくめ、特例を受けた平民など。
年度によって子の数が違うからクラス数が増減することはあるが、この分け方は変わらない。この数年間は王太子たちの誕生日に合わせた貴族のベビーラッシュで多い方だ。
アネットは王族枠で上位だ。実家もぎり、上位に入る。領地があまりに広大なのでその分で。
マリーナは下位クラス。ラナも伯爵家だが家格から下位に。
なのでマリーナとはクラスは違い、領地も離れていて、接点はなかったのだが、生徒会で知り合った。
入学テストで首席となった子爵令嬢。
通例として成績上位者には生徒会役員も担って貰うことになっていた。それは内申書にもかかわり、卒業後の進路にも関わる。
なのでほとんどのものは喜んで役員になる。たまに家庭の事情などで辞退するものもいるにはいるが。
マリーナは何かしら理由を作って辞退すれば良かったと後悔している側だった。生徒会役員にと学園から呼ばれたときは、今のような状況になるとは思っていなかった。
ただ、学園で思うさま勉強できる、と――喜んでいて。
マリーナは自分が首席になるとは思っていなかったという……。
自分の識りたがりが、それにより学んだことが――まさか首席がとれるレベルだとは、思っていなかったのだ。
そう、マリーナは家族や友人たちからは「識りたがり」と。それは決して悪い意味ではなかったのに。
そんなマリーナに、噂はいったい何なのだ、とお声をかけてくださったのがアネット殿下。
これはこの状況を王族の方に知っていただける機会だと、マリーナも逃す気は無い。
クラス委員長としてたまたま生徒会に来ていたラナも説明の為にも一緒にと、そのお呼びに応じることにした。彼女の家格があれば、王族の呼び出しに対する子爵令嬢の付き添いにちょうどいい立場にあったのもある。
そして彼女らは図書館より借りてきた本を机に。
「悪役令嬢の虐めになんて負けません! 私が未来のお妃さま!」
「街でぶつかった嫌味な彼が王子様だったなんて!?それが運命の始まりなんて嘘でしょう!?」
「腹黒王子にお気に召されて~気がつけば外埋めされたわたしは溺愛されちゃいました~」
「白薔薇と黒百合の君に求愛されて。灰蕾姫と金の鉢シリーズ一巻」
「星に願う小さな恋。あの星の瞳のひとにまた逢いたくて入学試験も頑張ります!」
「……なんだべ?」
「こちらが一例です」
まだまだありますとラナも借りてきた本を机に。同じような題名が続いている。
「婚約破棄される前に断罪(以下略)」
「真実の愛のため(以下略)」
「(以下略)」
……まぶしいべ。
何だかきらきらした雰囲気がすると、アネットは目頭を押さえた。田舎者には解らぬ世界だ。
「これらがこの数年の流行でございます」
「私たちも理由がわかったときに、目眩がいたしました」
むしろ当事者のマリーナの方が大変だったろう。
「まさか、自分がこの手の小説のヒロインに当てはめられているとは……」
……まぶしいべ。
アネットはもう一度、心のなかでつぶやいた。
まぶしいの良き良き。僕は好きです。
(題名たち、頑張って捻り出したのですが、既存で同じこがありませんように…。