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世の中、真面目に頑張るひとが報われることもある。  作者: イチイ アキラ


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21 彼女たちの事情

某所では名前もなかったとある女性の事情です。背景です。話が合わないと感じた方は速やかにブラウザバックを。事前にこう注意いたしました故に。

でも、タイトルの真面目に頑張るひと…は、彼女らにも。


「まずは三年! でも都会の水が合わなさそうなら無理しない!」

「抜け駆けはオッケー! でもお互いに紹介した相手は駄目よ?」

「何かあったらホウレンソウ大事に! 一人はみんなのために、みんなは一人のために!」


 王都に向かう乗合馬車の停留所にて。その近くの村に住む、幼なじみの三人娘の姿があった。





 その辺境の村は、悩みがあった。


 過疎化、だ。


 とりたて名産はないが、穏やかが売りの村。土地も貧しくはないが、畑で取れる野菜は珍しくもなくありきたり定番品。だけど遠いけども街の市場に持っていけばちゃんと買い取ってもらえるから、貧しくはなく。街の人々だっていつも流行の食材ばかり食べているわけでないから日常のお野菜は大事だから。


 そう、名産もない。

 穏やかしかない。


 良い村で、良い村人たちは確かなのだけど。


 セリカはそんな村を嫌いではなかった。むしろ大好きだった。

 幼なじみのターニャとナタリエも。


 だが、この数年、本当に問題が。


 過疎化で減ってきた村人。

 年頃の若者は仲良し三人だけ。

 そう、幼なじみのセリカとターニャとナタリエ。


 皆、女の子であった。





「婿、見つけてこい。種だけでもいい。できた子どもは母さんが何人でも面倒みてやるから」

 実の娘に何てこと言うのだという目で、実の父親が実の母親を見ているが――でも、止める言葉が出ないのは、父も状況のやばさを理解しているからで。


 この村や、近い村も同じような問題を抱えていた。

 村は――村人たちは。


 ――血が近すぎるのだ。


 父親と母親も従兄弟同士という関係だった。

 近隣の村から婿さんをもらおうにも、同じように祖父の姉や妹が嫁いでいたり、また相手も同様に伯父や甥がそちらに、と……ここ何年か繰り返して。


 血が近すぎる故に、近年ではその弊害が出始めていた。

 セリカには物心つく前に亡くなった、兄がいた。生まれつき体が弱かった兄は、それでもセリカを可愛がってくれていたと思う。


 おぼろげに、手を引いてくれたひとの記憶がある。


 あれはきっと兄だった。

 セリカは幸いにも体は弱くなく。兄の分も頑張って親孝行しようと――体を鍛えていた。セリカが元気でいることが、親孝行の一番だったから。


 そのうち――ふと気がつけばセリカは村一番の手練れになっていた。


 あれぇ? となったが、小さな村には獣を退治できる戦力は貴重。はじめは村人と一緒に棒きれや鍬を振り回していたはずが、いつのまにか槍になっていた。村長が「セリカちゃんに」とわざわざ特別に街で買ってきてくれて。

 そのうち「王都で修行してくるか?」と、ご隠居さまから提案された。

 この地方の辺境守備隊を引退して里帰りし、村の警護の長もしているご隠居さまは、かつてはその地方の守備隊の、中々の地位にいたとかで。今でも顔が利くとかで。


 それは「都会で婿を探してくるか?」が副音声でついていた。


 村の状況を、ご隠居さまも理解していた。

 村の男の若者が、ロイズくん五歳一人では。

 ちなみにご隠居さまのひ孫。

 ちなみにターニャが十九歳。セリカとナタリエは十七歳。

 この国ではそろそろ適齢期。

 さすがにちょっと、こう、あれだ。

 ロイズくんを狙ってません、安心してくださいご隠居さま。




 そうしてセリカの母の台詞となったのだ。

 さらになんと、幼なじみのふたりもセリカと共に上京することになった。ふたりも家で同じように。

 目的も同じ。婿探し。

 ターニャはセリカと状況は似ている。ただし、彼女の方が姉で、産まれたばかりの妹を亡くしている。

 その時の母の嘆きを覚えている。だから年下のセリカたちを妹のように思っていた。もしかしたら、彼女たちは妹の良き友になってくれただろうから。


 ナタリエは自分自身が、不妊の長きを両親があきらめていたときに、ひょっこりと身籠もった存在だと知っていた。

 ならば自分自身も子を授かれるかと不安であった。

 だから幼なじみたちが行くなら、当然自分も行きたいと、年老いた両親は心配だったが旅立つことにした。



「婿。最悪、種だけでももらってくるわ」

 生まれの順なら一番年下なナタリエの決意に、ターニャとセリカは同意ではあるが、ちょっと声をひそめて欲しいと。内容的には赤面なことだから。

 何故なら乗合馬車の停留所だから。

 幸いにも自分たち三人しかいなかったけども。

「それ、うちの親も言ってたわ」

「もしかしたら、村中で話し合われたりしたのかしら?」 

 その可能性が高い。

 セリカは王都の騎士団。ターニャは商工会の事務。ナタリエは同じく商会系列の食堂。

 大人たちのコネとツテを使いまくった就職先は、何とも人の多そうな。


 つまり、出会いの多そうな。


「田舎のあばずれ呼ばわりされないよう、節度は守るのよ、ふたりとも」

 ターニャに言われ、しっかりと頷く。

 三人とも貞操観念が低いわけでは、決してない。

「婚約者がいる男に引っかかって、慰謝料とか、駄目よ? 都会の男は遊んでいるのも、本当にいるかもだし……」

 ターニャ姉さんは自分たち三人が田舎者だという自信があった。っていうか、本当にそうだ。

「私たちはそういうのに良いカモ扱いされるかもだわ……」

「騎士団の男性なら大丈夫そうじゃない?」

 セリカは自分がなりたい騎士というものに憧れがあった。そも、騎士道とは……と。

 セリカが一番心配だわと、ターニャとナタリエはひっそりと目と目で会話。一番強いけど、一番恋に焦がれているのは……一番乙女はセリカである。

「でも本当に種だけでも……て、考えなきゃ駄目かもしれないわ」

 ナタリエの言葉を、意味を、ターニャもわかっている。セリカも。

「こんな、辺鄙な田舎に婿に来てくれるひと、いるかしらね……」

 田舎だ。自分たちは愛してやまない故郷だけども。


 最悪――最後の手段、だ。


 お貴族さまではないから、婚前交渉も田舎では仕方なしにもありはする。そのあたりは彼女たちも覚悟した。他所の村では昔は旅人をもてなして――などもあったらしいし。


 でも、それでも。自分たちだって結婚に憧れる乙女だ。白いドレスだって着たいんだ。

「うん、相手は誰でも良いってわけじゃないわ」

 ナタリエの改めての言葉に、今度はターニャも頷いた。

「あ、でも、私は……でも、体が丈夫そうな人がいいな」

 ふと、セリカは……自分の一番の理想に気がついた。


 記憶の中の、手を引いてくれたひと。


「……そうね」

 何度目の頷きか。

 しんみりするのは仕方ない。彼女たちは生まれながらにして、そういう環境だった。


 いや、それを打開するために。


「っていうか、私は婿探しもだけど、騎士団で鍛えるのが一番の目的だから!」

 槍の技を磨きたい。行く行くは辺境守備隊に。騎士団で色んなことを学んだ方が守備隊の為になるとご隠居さまや守備隊の現隊長からも言われてきたから。推薦状に恥じないようにしたい。女性騎士は貴重だから、守備隊で活かすためにもその視点を確り勉強してきて欲しいとも頼まれたし。

「そうよ……私も都会の味を勉強したくて! ふたりも食べ歩きも付き合ってね!」

 料理好きなナタリエは、村にはない料理を学んで来る気満々だ。村の新しい名物だって作れちゃうかもしれない。田舎では手に入らない調味料や香辛料とかにも出会えるかとワクワクする。

「村おこしにはきちんと財源も必要よね……」

 実は村長の地位を狙うターニャ姉さんだ。都会で算盤を習いたいと計画していた。ひっそりと彼女は「村のためにもなるから」と、セリカの得意な槍を買ってくるよう大人たちを説得したことさえあるのだ。そしてそれは大当たり。セリカがちゃんとした得物を使うことで、彼女が畑を荒らす猪を一突き、ケガすることなく仕留められるようになり。先見の明はあると自負している。


 そう、村の――大好きで愛する故郷のために。


 彼女たちは大きな希望と野望と、ちょっぴり憧れを胸に、王都に旅立つのだった。




「……でも、イケメンだとなお良しよね」

「「ナタリエちゃん!?」」




そんな大変で切ない事情がありました。誰にも理由がある。一方方向から見ては駄目だと思い。

三人とも根は素朴で素直でとっても真面目で。でも田舎の力強さも。

しかし、ターニャ姉さん…フラグフラグ。(まぁ、幸いにも遊びじゃなく本命でしたが。

とある子爵家のお兄さんは「…どうしよう、これ」と、彼女たちのある意味大変で切ない背景も察してしまい…続きをお待ちください。



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