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2 入学するまでは楽しみだったのに


「また今日も絡まれた……」

 上級生たちがいなくなって、自分たち以外のひとの気配を感じなくなってから、マリーナは大きくため息をついた。

「巻き込んでしまってごめんなさい。ラナ」

「これで三日間連続ね」

 ちなみに三日前は休日で学園も休みだったからそこでカウントを一度きれていた。

 ラナは友人の大変さに、良いのだと首を横に振る。ふわっとした柔らかな穂のようなくせ毛が揺れるのが何だか見ていて癒やされると、マリーナはほっとしてしまう。

「まさか今日は髪飾りが……」

 曾祖母の形見だから身につけていたが、こうしたものも言いがかりをつけられるものになるだなんて。

「でも、昨日の理不尽よりまだましな理由だったわ……」

「昨日は食堂使おうとしたらだったわねー……」

「ねー……私に飯食うなっつうんかい……」

 ちょっとだけ口調が悪くなるが、下町口調はマリーナのこっそりとした『特技』だ。

 ラナもそうした口調は慣れているので咎めることはない。むしろ「ですわ」の方が内心面倒くさいんじゃあ、だ。

「まぁ、さっきの三人は覚えておくわ」

「私も。でも相変わらずの記憶力よね。さすが識りたがり」

「任して。この学園の在学中の貴族名鑑は読み込んだから」

 それがすごいんだけどなー、とラナは友人の努力を知っているから内心でますます好感度を上げる。


 この友人は、努力のひとだ。


 しかし、マリーナも同じことをラナに感じていた。

 少女たちは同じ家庭教師に付いていたから、互いに切磋琢磨した幼少期がある。その頃からの付き合いだ。


 良き友を得られたことは、万の宝にも勝る。


 友人は手を組み合わせて天にいる曾祖母に詫びていた。まさかこんな月命日になってしまうだなんて。

「はぁ、曾祖母ちゃまごめんなさい、都会のお貴族さまはおっとろこしいもんじゃったぁ」

 それはふざけているわけではなく。

「あ、新しい地方の言葉? 南の方?」

 マリーナの突然の訛りに、ラナもすぐ反応する。

「ええ、何だか可愛いイントネーションよね?」

 くすくすと笑いながら、少女たちは気持ちを切り替えた。

 それでもついつい愚痴は続いてしまう。

「……生徒会に、入らなければ良かったわ」


 そう、マリーナの受難は楽しみにしていた学園に入学してから始まった。


 生徒会役員に抜擢されてしまってから。


「でも、入学試験に手を抜くわけにはいかなかったし……」

「そうねぇ……」

 それでも、と……少女たちは顔を見合わせてへにょりと眉を下げあった。


「一番は、王太子殿下が気さくすぎるのが原因じゃないかしら?」


 そう。

 まさに。


 たかが子爵家の令嬢でしかないマリーナにも、ありがたくも、気さくに、お声かけくださるのだ。

 同じ生徒会役員だから、と。


 この学園には今、王族の方がお二人、在学中である。


 お一人は王太子殿下その方。


 マリーナたちのひとつ上の学年に。

 この学園は卒業までは三年ほど――家庭の事情や、情勢によってかわることもあるが。


 もうお一人はマリーナたちと同学年。同じく新入生だ。

 この方はまたややこしいお立場にいらっしゃる。


 降嫁なされた王妹の娘で立場的には伯爵令嬢なのだが、王族の数の少なさから伯爵令嬢でありながら王位継承権を保持することを、今現在も義務付けられている方で。


 ――いざ、この国に何かしら起これば、王の養女となり……取り引きにつかわれるカードとなる定めだ。


 ――いや、王太子殿下に何かあれば、同じく玉座がそのお立場にも……。


 そして王族はよほどの理由が無ければ生徒会に所属しておくようにとされていて。


 よって、今、王族が二人もいらっしゃる生徒会。

 マリーナはまた再び「おっとろこしい……」と内心でつぶやくのだった。


 何故ならば……。


「あ、マリーナさんラナさん、こんにちわ」


 図書館にいた先客。

 王妹殿下のご息女。

 アネット殿下もまた、気さくすぎるお方なのだ。


 うちの王族、軽い……。

 まぁ、開けているってことで……良いのかしら。

 少女たちはひっそりと、それが怖いと思うのであった。


 何せしがない子爵家と落ち目気味な伯爵家なので。




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