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1 それはもはや日課


「貴方! その髪飾りは不敬でしてよ!」

 いきなり上級生たちに呼び止められて、マリーナは一緒に図書館に向かっていた友人のラナと共に足を止めた。


 上級生は三人。今日はラナがいるが――それでも三対二。群れないときっと話しかけもできないんだろうな、と……ひっそりと。


「不敬……で、ございますか?」

 学園において過度に華美な装飾品は禁止されているが、マリーナのつけているような、小さな宝石がついた程度は許される範囲だ。

 しかもこれは……。


「そちらは王太子殿下の瞳の色の宝石でしょう!」


 ――はぁ?


 上級生に言われたことに、マリーナとラナは思わず心中で尋ね返していた。


 ――そんなの知らないわ。


 と。

 何故ならその小さな、薄いブルーの宝石。

 まさにマリーナの瞳の色である。


「わざとらしく王太子殿下の瞳の色の宝石を身につけるだなんて……」

「それはもしや、ご自分が殿下のお気に入りだとでも誇示したいのかしら?」

「王太子殿下にはフローラ様という、素晴らしい婚約者さまがいらっしゃるというのに、何て図々しいの?」


 王太子殿下に、ハイドラン公爵家のご令嬢というご婚約者がいるのはマリーナとて知っている。いや、貴族なら誰もが知っていなければならないだろう。



「下級貴族が宝石をこれ見よがしに殿下のお色を身につけるだなんて」

「まさか!? 王太子殿下に贈らせられたとか……」

「そうね、子爵家程度に宝石が買えるか疑わしいわ」

「ねぇ、そうやって王太子殿下に媚びてるんだわ。いやらしい」



 話が飛躍しまくっている。

 マリーナとラナはちらっと目と目で会話した。話しかけて来たのはマリーナよりも家の位も上の上級生たちだ。

 ……ならば。

「失礼ながら。こちらは彼女が三年以上使っている私物です」

 ラナがマリーナを庇って前に出た。ラナは伯爵家の娘だ。位ならば上級生たちと変わらないから直答も許される。この学園で初めてお目にかかったのに、三年以上前に王太子に頂戴しているわけなかろう、と。

 マリーナは子爵家だから、一歩引く。


 本来なら、学園は身分差はないとされているが――そんなものは暗黙的だと、皆知っている。

 学園内で済んでも、学園から一歩出たり、卒業後を考えたら……危ない橋は渡る前に避けたい。


 ……が。下位貴族がそう思っていても、上がお馬鹿さんだと面倒くさいもので。


 マリーナはただただ、内心でため息をついた。顔には出さない。


「まぁ、私物ですって?」

「でもわざわざ王太子殿下のお色を――」


 またこれ続けようとした上級生に、マリーナが口を開く。ラナがマリーナの先を切って会話を、弁明の場を作ってくれたので話せるようになったから。


「これは曾祖母の形見でございます。本日、月命日でございます故、偲んでおりました」


 形見。


 そして上級生たちはマリーナの瞳を見て、はっとした。


 薄いブルー。


「曾祖母より瞳の色を頂戴しました故に」

 

 王太子殿下の瞳のお色だからとなじる理由にしたが、まさか本人もその色。

 しかも、形見の品をいじってしまった。さすがに気不味い。

 この国には、近しいものや親しいものの月命日には故人を偲ぶ風習がある。形見の品を身につけるのは、最も。そうした理由があれば自分たちだって装飾品をつけたことがある。


「幼い頃より、孫と曾孫の中で唯一同じ色をしたわたくしを、曾祖母はずいぶんと可愛がってくださいました故に」

 なので曾祖母の装飾品のほとんどはマリーナが受け継いでいた。伯母や従姉妹は自分には薄いブルーは似合わないから、似合うマリーナに使ってもらった方が宝石も喜ぶと。曾祖母が亡くなるころ、年上の従姉妹は他国に嫁ぐ予定でもあったので、曾祖母の眠る国から持ち出すのもはばかられたのだろう。自分も彼女と同じ色彩だったら、きっと同じく思っただろうから、血筋は考えも似るのだろうか。


 そうしたことは上級生たちには関係ないが。この髪飾りはからかわれたり、嫌がらせされたりする理由にはならない。


「このように小さめな宝石で、華美ではないもので校則違反にはならないと思いました、が……先輩さまがたには華美と思われてしまいましたでしょうか?」


 別に校則違反で言いがかりをされていたわけではないが――逃げ道だ。

 正直、こんな小さな石によく気が付いて文句言ってきたな、とマリーナとラナは思いもしたのだが。


 上級生たちもさすがに形見の品物に難癖つけてしまったとしって、自分たちの不利を認めていた。

 はじめから、ただ何かしら言いがかりをしたかっただけなのだ。揶揄って、虐めて、自分たちの気持ちを良くしたかっただけ。

 逃げ道を作られたことを察することができないほど、貴族として駄目ではなかったのは彼女たちの幸い。むしろ貴族ならば、それくらい出来なければ今後の社交界で生きてはいけない。


「そ、そう。わたくしたちの勘違いだったようね」

「お詫びするわね。ええ、それくらいならば普段使いされてもよろしいのではなくて?」

「ええ、違反にはならないと思いますわ」


 華美さを持ち出されたら自分たちの方がさらに煌びやかなものを身につけている。今も。より不利になるので上辺の謝罪くらいは平気で口にするのも貴族なら。


「はい。ご心配ありがとうございました」

 マリーナは静かに礼をして、先輩たちの言いがかりや、言葉の外の嫌味などを許した。


 ――おそろしく美しいお辞儀で。


 下位貴族と侮っていた上級生たちはそれに目を見張った。

 そして続けられた言葉に、背筋が凍る。


「お優しい先輩さま方に感謝いたします。オートガ伯爵令嬢さま、バーナル伯爵令嬢さま、プロイロ伯爵令嬢さま」


 先輩たちには、何故か言外に聞こえたのだ。


 ――顔と名前、覚えてっからな?


 

喧嘩売るなら買われる覚悟もいるよね。

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