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前途多難

「それで、こちらからクリスにお願いしたいことなんだが……」


 食事を終え、お茶を飲みながら僕とクリス、それにシアは向かい合っている。


「う、うん……その第一王子がブリューセン帝国に婿入りするのに、僕も帯同するって話、だよね……」

「そうだ。なにせ、あの国はヘカテイア教団のせいでかなり微妙な情勢だ。こう言ってはなんだが、あの王子を一人で行かせては、とてもではないが上手く立ち回ることができず、逆に教団に取り込まれてしまう可能性が高い」


 何といっても、ヒーローの一人であるにもかかわらず、あのソフィアにそそのかされて本来のヒロインであるシアをないがしろにするような真似をするんだ。

 洗脳なんてお手のものであるヘカテイア教団からすれば、ただのカモだろう。


「……ねえ、ギルバート。ボクはこの国の情勢はともかく、ブリューセン帝国やヘカテイア教団については何も知らないんだ。だから、より詳細に教えてくれるかな?」

「ああ、そうだな……」


 僕は、ブリューセン帝国、そしてヘカテイア教団について詳しく説明した。

 ありがたいことに、クリスは小説と同じように優秀な頭脳を持ってくれていたおかげで、僕が一を説明すれば十を理解してくれた。

 とりあえず、あの三人の王子のように色々と残念でなくてよかったよ……。


「……というわけで、あの国での君の立ち回りこそが重要な鍵になっている。ずっとあの王子に付き従うというわけではないが、できれば三年間は、向こうの国で頑張ってほしい。その間に、僕達がヘカテイア教団やその他諸々、片づけてみせる」

「…………………………」


 僕の言葉に、クリスが押し黙る。

 貧民街の彼の家で僕の提案を受け入れてくれたとはいえ、やはりアンダーソン家の復興もある中での三年間の不在は大きいからね……。


「……そ、その、僕からも提案があるんだけど……」

「? 提案というのは?」

「う、うん。第一王子の従者について、再考してほしいんだ」


 クリスの言葉に、僕は頭を抱える。

 やはりクリスは、あの第一王子の従者として同行することは嫌か……。


「あ、か、勘違いしないでね。多分、三年間という期限を設けて僕が行くよりも、そもそも貴族家の継承権がない子息令嬢を従者にして、向こうで骨をうずめてもらったほうがいいと思ったんだよ」


 僕の様子を見て、クリスが慌てて補足した。


「クリスの言いたいことも分かる。だが、僕はクリス以上の優秀な人物を知らない。せめて第一王子がもう少し優秀であれば、ここまで悩むことはなかったんだが……」

「えへへ、それなら大丈夫だよ」

「大丈夫……だって?」

「うん! 僕だって、今までただ手をこまねいて貧民街にいたわけじゃないよ! いずれ復讐を果たすために、マージアングル王国の貴族家の動向や家族構成だったり、色々と調べてあるんだから!」


 そう言って、クリスは自慢げに小さな胸を張る。

 その仕草が、僕にはどうしても女の子のそれ(・・)にしか見えないんだけど……。


「じゃ、じゃあクリスは誰が適任だと思うんだ? 貴族家を継承する可能性の低い子息令嬢であって、君に匹敵するような者なんて……」


 そうだ。クリスと同等の人物なんて、いるはずがない。

 そんな者がいれば、僕だって目星を付けているはずだ。


 だけど。


「アハハ。ギルバート、ひょっとして従者は一人でないといけないって、勘違いしてない?」

「? い、いや……」


 クリスにそう言われ、僕は思わず言い淀む。

 というのも、あまりに図星を突かれてしまったからだ。


 何より、多くの者をあの王子につけたところで、烏合の衆ではどうしようもないし、人数が多ければ多いほど、教団の連中に狙われる危険性がある。


 それら諸々を解決する策こそが、クリスを従者にするというものなのだから。


「うん、ギルバートの懸念も理解できるよ。でも、逆に第一王子と従者の二人きりのほうが、実際は遥かに危険だよ。最低でも二人……いや、三人は必要だと思う」

「そ、そうなのか?」

「うん! だからね……」


 クリスは、何故か席を立って僕の隣に来ると、そっと耳打ちをした。

 いや、僕とシア、それにモーリス達しかいないんだから、普通に話せばいいじゃないか。


 だけど。


「……本当に、そんなことが可能なのか?」

「任せてよ! 僕が絶対に、立派な従者に仕立ててみせるから! それより、僕の言った人材を揃えることが大事なんだけど……大丈夫?」

「それこそ心配無用だ。僕はブルックスバンク公爵家の小公爵、ギルバート=オブ=ブルックスバンクなんだから」

「えへへ、そうだよね……うん、君なら何の心配もいらないね!」


 そう言って、嬉しそうにはにかむクリス。


 だけど。


「むうううう……!」


 シアが頬を思いきり膨らませてご立腹である。

 そんな表情も可愛くて仕方ないし、思わずその頬を触ったりつついてみたりしたい衝動に駆られるけど、とりあえずは我慢だ。


「よし、では明日から早速動き出すことにしよう」

「はい!」

「うん!」


 僕の言葉に、シアとクリスは何故か争うように返事をした。


 前途多難だなあ……。

お読みいただき、ありがとうございました!


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