参謀役を仲間に
「グス……も、もう大丈夫です……」
鼻をすすりながら、クレイグ=アンダーソンがようやく顔を起こす。
泣き出してから既に三十分近くが経っており、彼のまぶたは腫れぼったくなっていた。
だが、そんな彼の表情は、まるで憑き物が取れたかのように晴れやかだった。
「それで……まずは君の……いや、アンダーソン家の冤罪を晴らすため、その名誉を回復するために、力を貸してほしい」
「はい……何でも言ってください。ボクを救ってくださったあなたのためなら、何だってしますから!」
……ん?
何というか、その……妙な重たさのようなものを感じたが、気のせいだろうか……。
というか、元々皮肉屋でクールで腹黒い性格であるはずなのに、どうしてこんなに素直なんだ…?
ま、まあ、クレイグ=アンダーソンも全面的に協力してくれることなのだから、深く考えるのはよそう。
「で、では、まずは五十年前の冤罪についておさらいをしておこう。そもそもの冤罪事件の内容はこうだ」
僕は、前世の自分が考えた冤罪事件の全容について説明する。
とはいえ、謁見の間にて宰相が語ったものに少し付け加えたものでしかないが。
ただし、その付け加えた内容こそが最も重要。
というのも、そこにアンダーソン家が冤罪であった証拠が隠されているのだから。
それは。
「……そもそも、アンダーソン家が行ったとされる武器の調達や傭兵の雇用、それに資金調達のための禁止薬物等の売買については、当時のアンダーソン伯爵自身が取引を行ったものではないということだ」
「っ!?」
「…………………………」
僕の言葉にシアが息を呑み、クレイグ=アンダーソンが唇を噛んで押し黙る。
そう……それこそが冤罪事件の鍵。
つまり、アンダーソン家は嵌められたのだ。
その、アンダーソン家の代わりに取引を行った者の手によって。
「僕……そしてここにいるモーリスが行った調査で分かったことだが、当時のアンダーソン伯爵には右腕となる家令がいた。その者が、アンダーソン家の内政を一手に引き受けていたんだ」
「ギル……その家令というのは……?」
「はい……今は爵位を与えられ、あろうことかアンダーソン家が所有していた領地を治めている貴族。それが、“アボット”子爵家です」
「っ! そうだよ! そのアボット家が、アンダーソン家をめちゃくちゃにしたんだ!」
とうとう堪え切れなくなったクレイグ=アンダーソンが、大声で叫んだ。
憎き復讐相手なんだ、感情的になってしまうのは当然だろう。
「ただ、五十年前の事件ということもあり、モーリスの調査をもってしても、その家令のアボットという者が取引を行ったという明確な証拠は見つからなかった」
「う……うう……っ」
悔しさのあまり、クレイグ=アンダーソンはまた涙を零す。
まあ、そんなに証拠がすぐに見つかっているのなら、アンダーソン家はとっくに名誉を回復している。
つまりは、その証拠は巧妙に揉み消されたということだ。
「だが」
「……『だが』、何ですか……?」
クレイグ=アンダーソンが、縋るような瞳で僕を見つめる。
はは、心配するな。この僕を誰だと思っている。
小説の原作者であり、ブルックスバンク公爵家の当主でもある僕なら、全て解決できるんだ。
それは。
「直接アボット子爵家に乗り込み、証拠の品を探し出せばいい。この五十年、何の証拠も見つからなかったというのはあり得ないし、だとしたら犯人であるアボット子爵自身が所持していたと考えるのが自然だろう」
「っ!? だ、だけど、そんなことができるんですか!?」
「もちろんだ。僕はブルックスバンク公爵家当主、ギルバート=オブ=ブルックスバンクだ。もしアボット家が調査を拒否するというのなら、アボット家そのものを王国から理不尽に消し去ってもいい」
まあ、そんな真似をしなくても僕に睨まれた時点で、普通に協力してくるのは目に見えているしね。
何より、この冤罪事件はかなり根深いから、ただアボット子爵家を断罪して終わりってわけにもいかないし。
……いや、むしろアボット家すらも、ただの被害者なのだから。
「そういうことだから、早速明日にでもアボット子爵の領地に赴こうと思う。ついては君にも同行してもらえると嬉しいんだが……」
「は、はい! 是非……是非、あなたとご一緒させてください!」
鳶色の瞳を輝かせ、クレイグ=アンダーソンが身を乗り出して頷く。
あまりの素直さに驚きを隠せないが、皮肉交じりに面倒くさいことを言われるよりは余程ましか。
「分かった。では、よろしく頼む。アンダーソン殿」
「あ……ボ、ボクのことは、その……“クリス”って呼んでください……」
「だ、だが、その名前はあくまでも貧民街での偽名ではないのか?」
「そ、そうですが……そのほうがボクも慣れていますから……」
何故か頬を赤らめ、もじもじするクレイグ=アンダーソン改めクリス。
その仕草や表情に、思わず錯覚しそうになるが……いや、深く考えるのはよそう。
「で、では、よろしく頼む、クリス。それと、僕と君は同い年で、しかも同じ貴族なんだ。敬語もいらないし、ギルバートと呼び捨てで構わないよ」
「う、うん! その……ギルバート!」
僕とクリスは、微笑みながら握手を交わした。
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