表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/137

泣き崩れる参謀役

「さて、と……本当は拘束しているその氷を解除してやりたいが、先程のように変な真似をされても困る。悪いがこのまま話をさせてもらうぞ」

「…………………………」


 首から下を氷漬けにされたクレイグ=アンダーソンが、忌々しげな表情を浮かべながら僕を睨む。

 だが、そちらからそんな真似をしてきたんだ。僕も手心を加えるつもりは一切ない。


「では話を戻そう。僕達……いや、マージアングル王国は、ブリューセン帝国との親交を深めるため、第一皇女であるクラウディア=フォン=ブリューセンと我が国の第一王子、ニコラス=オブ=マージアングルとの縁談を進めることにしている」

「…………………………」

「だがブリューセン帝国は、現在バルディリア王国……いや、ヘカテイア教団が帝国の中枢にまで入り込んできており、かなり危険な情勢となっている。下手をすれば、第一王子は殺害され、ブリューセン帝国が王国に対し牙を剝くことも考えられるだろう」

「……それが、このボクと何の関係があるのさ。むしろ、アンダーソン家を……母さん(・・・)をあんな目に遭わせた王国なんて、滅んでしまえばいいんだ」


 クレイグ=アンダーソンは吐き捨てるようにそう言うと、顔を背けた。

 だが、僕はそんなことはお構いなしに話を続ける。


「そこで考えたのは、機知に富み、無能な第一王子を諫め、操ることができる有能な人物を補佐として第一王子と共にブリューセン帝国に送り込むこと。そして、最も適任と思われる人物こそが、クレイグ=アンダーソン……君だよ」

「っ!?」


 クレイグ=アンダーソンは目を見開き、顔を上げて僕を見る。


「もちろん、君には相応の報酬を用意するつもりだ。アンダーソン家の復興……つまり、伯爵位を正式に叙爵すると共に旧領を回復、加えて、その名誉を回復するために五十年前の冤罪事件についても、白日の下に明らかにすることを約束しよう」

「そ、そんなこと! そんなこと信じられるわけがないじゃないか!」


 まあ、当然だな。

 こんなことを言ったところで、この男にとっては口約束以下の重みしかない。


 なら、その言葉に重みを与えてやろう。


「君に告げたことについては、ブルックスバンク公爵家が当主、ギルバート=オブ=ブルックスバンクの名に誓って、必ずや成し遂げよう。その証として、これを君に預ける」

「あ……」


 僕は胸につけるブルックスバンク家の紋章をあしらったブローチを外し、クレイグ=アンダーソンに差し出した。

 つまり、僕が誓った約束が果たされなければ、貴族として不名誉な烙印を押され、王国内で一切の信用を失うことになる。


 そして、それは目の前の男も理解しているはずだ。

 僕の、この覚悟の程を。


「どうだ? これでも僕の言葉が信じられないか?」

「あ……あああ……」


 どうやらあまりのことに、クレイグ=アンダーソンは混乱を極めているようだ。

 だが、その(とび)色の瞳には、先程まであった僕に対する憎しみや怒りの色は消え去っていた。


「クレイグ=アンダーソン……この王国のため……いや、この国に住む人達のため、君の全てを(・・・・・)俺にくれ(・・・・)

「あ、ああ……あああああ……っ」


 クレイグ=アンダーソンの瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が(こぼ)れ始める。

 これまで……この十五年間、ずっと苦しみ続けてきたこの男だ。その全てが報われる(すべ)が目の前にあるのだから、感極まってこうなってしまうのも頷ける。


「本当に……本当に、約束してくれるんですか? 僕の……母さんの名誉を、誇りを、回復してくれるのですか……? 今までの苦しみの全てが、報われるのですか……?」

「ああ、約束する。もちろん、アンダーソン家が(こうむ)った罪が、冤罪であることも信じている」

「あああああ……ああああああああああッッッ!」


 クレイグ=アンダーソンは慟哭する。

 これまでの苦しみ、悲しみ、怒り、それらの全てを込めて。


「シア……もう大丈夫でしょう」

「……分かりました」


 シアはまだ少しわだかまりがあるものの、クレイグ=アンダーソンの全身を覆っている魔法の氷を解除した。


 そして僕達が見守る中、クレイグ=アンダーソンは膝から崩れ落ち、心ゆくまで泣き続けた。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きあが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ