表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/137

注目の的

「「「「「ひょ、“氷結の薔薇(ばら)姫”……」」」」」


 教室にやって来るなり、何人かの生徒がそんな二つ名をポツリ、と呟いた。

 だけど、“氷結の薔薇(ばら)姫”って……もちろん、シアのことだよね……?


「ギルバートさん、フェリシアさん、遅刻ですよ?」


 教師モードのマリガン卿が、苦笑しながら僕達に注意をした。

 でも、その雰囲気や表情は、どこか嬉しそうな印象を与える。


 まあ、久しぶりに元気な姿の愛弟子(・・・)を見たら、そうなるのも仕方ないか。


「申し訳ありません。シア、では席に着きましょう」

「はい」


 僕とシアは、いつもの席に着く、んだけど……うわあ、みんながみんな、僕達……というより、シアにものすごく注目している。

 とはいえ、あの魔法の実技であれだけのインパクトを残したんだ。それも仕方ないよね。


 だが、男連中め……お前達はシアを見るな。


 僕は男共に殺気を込めて睨みつけてやると、慌てて視線を逸らした。

 フン、シアを見つめてもいい男は、僕だけなんだよ……って。


「シア?」

「……え? は、はい、どうしました?」

「いえ……少し険しい表情をされていたようでしたので……」

「あ……そ、その……実は今しがた、ギルを見つめる令嬢方がいらっしゃったので、嫉妬でつい……」


 消え入りそうな声でそう告白しながら、シアが身体を小さくしてしまった。

 ああもう! どうしてあなたはそんなに可愛いのですか! というか、これではあなたへの想いが抑えきれなくなってしまいますよ!


「ぼ、僕もです……男共があなたに視線を送っているのを見て、思わず殺気を込めて睨みつけてしまいました」

「ふあ!?」


 僕の言葉に、シアも可愛い声を漏らして胸を押さえた。

 駄目だ……可愛すぎて耐えられそうにない……。


 何とか平常心を取り戻そうと、僕は窓の外や教室内をせわしなく眺めていると。


「あ」


 教室の端で、まるで必死に隠れるかのように頭を抱えながら身を(かが)めている生徒が一人。

 あれは、パスカル皇子だ。


 どうやら剣術の実技が、あの男にとってトラウマになったみたいだ。

 はは……机であんなことをしたところで、かえって目立ってしまい、僕に見つかるのに。


 まあ、まさか二か月不在だった僕とシアが、いきなり教室にやって来るとは思わないか。知らないけど。


 となると、後の二人は……って。


 その前に、僕とシアを微笑みながら黄金の瞳で見つめている女生徒が一人。

 もちろん、クラリス王女だ。


 よく見ると……あはは、クラリス王女の周りには、二か月前と比べて子息令嬢の数がかなり増えている。

 どうやら、王位継承争いにおけるパワーバランスも大分変化があったみたいだ。


 一方で。


「…………………………」


 第二王子はといえば、少ない取り巻きに囲まれながら、肩を(すく)めていた。

 あー……これは、かなりつらい状況だな。


 クラリス王女には後で確認するとして、おそらくは僕とパスカル皇子との試合での不正行為で信用を失ったってところかな。

 加えて、あのクラリス王女や第一王妃が、追い落とすチャンスをみすみす逃したりなんてしないからね。


 こうなると、第二王子にとっての頼みの綱は、女神教会を背後に持つソフィアなんだろうけど……へえ、シアがこれだけ注目を浴びているというのに、何食わぬ表情で授業を受けるなんて、やるじゃないか。


 どこぞの王子達に比べれば、相当したたかだな。

 まあいいや、シアが女神教会に目をつけられて下手に聖女扱いを受けるよりも、余程いい。


 それに、既にあの女の手垢がついた称号なんて、こちらから御免(こうむ)る話だ。

 そう考えると……うん、“氷結の薔薇姫”なんて、シアにぴったりの二つ名だ。


 このサファイアの瞳も、白く透き通るような肌も、氷の結晶のような美しさだからね。

 とはいえ、その心は温かくて慈愛に満ちていて、氷の冷たさとは真逆だけど。


 すると。


「シア……?」

「ふふ……あなたに出逢うまでは誰にも見てもらえなかった私ですが、こんなにも注目を集めるようになってしまいました。なのに私ときたら、そんな注目などよりもあなたの注目だけを求めてしまいます……」


 僕の手にその白く小さな手を重ね、シアは蕩けるような表情でそんなことを告げた。


「シア……あなたにそんなにも求められ、僕はこの上なく幸せです。僕も、世界中の誰よりも、あなただけを求めたい……」

「ふふ……嬉しい……」


 結局、僕とシアは周囲の注目をよそに、授業もまともに聞かないまま、ただ見つめ合い、手を重ね合い、微笑みあっていた。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きあが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] せめて授業ぐらいは真面目に受けようよ(。ŏ﹏ŏ) 公私混同しすぎるのがなぁ(;´Д`) そろそろバカップルにしか見えなくなってきた···コメディタグあったかなぁ? 作者様が糖度マシマシで攻…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ