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絶望の背信行為

「ふう……」


 ゲイブと褐色イケメンの後ろ姿を眺めながら、僕は深い息を吐くと。


「ふふ……」


 何故か、シアが僕を見つめながら笑っていた。


「え、ええと……シア?」


 そんな彼女の反応を不思議に思い、僕はおずおずと尋ねる。

 だって、あの男を追い込むような真似をした僕を、シアは少なからず幻滅していると思うから。


「ギルは、本当に優しいですね」

「え!?」


 そんなシアの言葉に、僕は思わず声を上げた。

 い、いや、僕はあの男を絶望に追いやったというのに、どうしてそんな評価になるんだ!?


「ふふ……だってギルは、あの男の妹を助けるつもりなんでしょう?」

「あ……」


 た、確かにそのつもりではいたけど……。


「で、ですが、どうしてそれを?」

「簡単です。助ける気がないのであれば、わざわざ妹の所在を確認する必要はありませんから。それに、あの男を殺してしまうつもりなら、イーガン卿に指示をして監禁することも不要ですし」


 そう言って愉快そうに笑うシアに、僕は苦笑しながら頭を掻く。

 はは……シアには全部お見通しか……。


「あの男の妹は、この私の魔法で必ず治癒してみせます。だから、あなたの優しさのお手伝いをさせてください」


 ああ……僕は本当に幸せだ。

 僕のことをここまで理解してくれて、受け入れてくれて、支えてくれて……。


「シア……僕はあなたを好きになってよかった……」

「ふふ、それは私もです。あなたのような優しさと厳しさを併せ持った素敵な御方と結ばれて、私は世界一幸せです……」


 窓から(のぞ)く空の景色が白んでいる中、僕とシアは互いを想い、強く抱きしめ合った。


 ◇


「……そう。それは大変だったわね……だけど、その連中も私の街で好き勝手やってくれたものね」


 サンプソン辺境伯は怒り心頭のようで、険しい表情を見せながら歯噛みする。


 次の日、僕とシアは早速サンプソン辺境伯のところへ赴き、昨夜の件について報告した。

 もちろん、褐色イケメンから聞き出した情報についても。


「はい。ですので、今後ブリューセン帝国と交易をする際は、今まで以上に警戒する必要があります。今までであればバルディリア人だけを警戒すればよかったですが、ブリューセン人もヘカテイア教の信徒の可能性がありますから」

「そうね……だけど、それを見抜くのは難しいわ。それに、このレディウスの街は交易で成り立っている街よ。強硬に締め付けを強くしてしまうと、街自体が立ち行かなくなるわ……」


 そう言うと、サンプソン辺境伯は肩を落とす。


「サンプソン閣下、それについてですが、僕に良いアイデアがあります」

「良いアイデア? それはどんな……?」

「はい……」


 僕はそのアイデアについて簡単に説明すると。


「……本当に、そんなことで見抜けたりするのかしら……」

「物は試しです。ちょうどよい生贄が四匹(・・)いますので、それで試してみましょう」

「え、ええ……」


 僕の言葉が信じられないサンプソン辺境伯は、曖昧に返事した。

 まあ、実際に見てもらったほうが早いだろう。


 ということで。


「嫌だあああああああああッッッ! やめろ! やめてくれえええええええッッッ!」

「お願いします! お願いします! これだけは許してください!」

「ううううう……っ! これで俺は、『浄化』後も復活できない……っ」


 襲撃してきた四人の男を、全裸で柱にくくりつけると、四人は様々な反応を見せる。

 泣き叫ぶ者、懇願する者、嗚咽を漏らす者……。


 だが、四人がそうなってしまうのも無理はない。

 何故なら……四人は信奉する女神ヘカテイアの彫像を、足蹴にしているのだから。


 しかも、逃れたくても柱にしっかりと足が固定されている以上、どうすることもできない。

 深く信仰しているからこそ、その絶望は計り知れない。


 たとえその信仰が、洗脳によるものだったとしても。


 そして、群衆の中にいる者の反応も様々で、面白がって眺める者、怒りの表情を見せながら石を投げつける者、思わず顔を背けてしまう者。そして……こんなことをした僕とサンプソン辺境伯に向け、憎悪の視線を送る者。


 もちろん、そんな視線を送った者は教団の信徒である可能性が高いので、衛兵がすぐに駆けつけて取り押さえる。

 一度でもそんな視線を向けた以上、たとえすぐに視線を逸らしたとしても既に捕捉される。


 まさに連中に絶望を味わわせつつ、他の仲間もあぶり出す一石二鳥のやり方だ。

 まあ、これで全部あぶり出せるなんてことはないんだけどね。


「フフ、それでこの後はどうするの?」

「決まっています。このまま飼っていても何の役にも立ちませんので、見せしめ(・・・・)にします」


 そうじゃないと、そもそもヘカテイア教の信徒ではないただの住民からすれば、あの光景はただの見世物以外の何物でもないからね。

 もしヘカテイア教なんかに入れ込んでしまったらどうなるか、ちゃんと刻み込んでおかないと。


 そのための生贄を処分したところで、王国にとって痛くも痒くもないし。


「……フフ、小公爵様は可愛い顔に似合わず、容赦ないのね」

「まさか。情け容赦をかける相手くらいは選びますよ」


 そう言うと、僕とサンプソン辺境伯は口の端を吊り上げた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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