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サンプトン辺境伯の事情

「フフ……とりあえず、彼もいなくなったので小公爵様の本題をお聞きしましょうか?」


 バッハマン……いや、フィレクト=アルカバンが帰って行った後、応接間へと部屋を移動した僕達は、ソファーに座りながらサンプソン辺境伯と向き合っている。


「その前に……あのバッハマン殿とはどのようなご関係で?」

「? 紹介した時に言ったとおり、彼は貿易商で私の取引相手よ?」


 僕の質問の意図が分からず、サンプトン辺境伯は不思議そうな表情を浮かべ首を傾げる。

 ふむ……猫を被っているのか、それとも本当にただの取引相手に過ぎないのだろうか……。


 すると。


「まあ、そうなんですね。でしたら、先程の夕食に出てきたお料理の食材や、サンプトン閣下がお召しになっておられる異国のドレスも、バッハマン様が用立てられたのでしょうか?」

「フフ! さすがはフェリシアさん、よく分かったわね!」


 シアが興味津々に尋ねると、サンプトン辺境伯は嬉しそうに答えた。

 というか、彼女は本当にシアのことが気に入ったようだ。


「そうすると、バッハマン様とのお付き合いは長いのですか?」

「いいえ、実は一か月前からなの。それまでは別の貿易商と取引していたんだけど、そこよりも安い額で卸してくれるし、何より欲しい物をすぐに用立ててくれるから最近乗り換えたのよ」

「そうなんですね……」


 サウセイル辺境伯の言葉を聞き、シアが納得したかのように頷いてみせた。

 そして、僕の顔をチラリと見る。


 あはは、シアは本当に優秀だなあ。

 僕の意図を汲み取って、あの男との関係をそれとなく聞き出してくれるなんて。


 さて……そうすると、今のところはまだヘカテイア教団に取り込まれている可能性は低そうだ。

 ……ここは、少し賭けに出てみるか。


「実は……僕達がこのレディウスの街に来たのは、確認したいことがあったからなんです」

「確認したいこと?」

「はい。サンプトン閣下は、ヘカテイア教団という名前をご存知ですか?」

「ヘカテイア教団……ええ、知っているわ」


 僕が尋ねた瞬間、サンプトン辺境伯の表情が険しいものに変わった。

 これは……失敗したか……?


「ハア……実はね? ここ最近になって、うちの街にそのヘカテイア教団の信徒になる住民が増えてきているの……」


 サンプトン辺境伯は溜息を吐きながら、訥々と説明し始めた。


 ◇


 ヘカテイア教団に関しては、ここが国境の街である以上、以前から信徒と思われる者が出入りしていることは承知していたわ。


 でも、ブリューセン帝国より東の国ではこちら側の女神教と同じくらいポピュラーなものだから、特に街への入場を禁止したりもしていなかったの。

 それに、そんなことをしていたら、交易なんて何一つ成り立たなくなるし。


 でも、いくら私が異国の文化に寛容とはいえ、この街でヘカテイア教の布教までは認めてはいないわ。

 だってアレ、思想がかなり危ないじゃない? 下手に王国や女神教会に目を付けられちゃったら、私がとばっちり受けてしまうもの。


 なのに……あれは、ちょうど二週間前かしら。

 突然、酒場で発狂しだした男がいたの。


 通報を受けた衛兵が駆けつけて、その男を取り押さえたんだけど、その時もこう叫んだの。


『女神ヘカテイアが、必ずやこの腐った地上を『浄化』し、秩序のある新しい世界を構築してくださる! ディアナなどという女神を(かた)る魔女を崇めているオマエ等! 新世界を迎えたいのなら、今しかないぞ!』


 本当に、気が狂っているとしか思えないわ……。

 一応、ヘカテイア教にそういった教義があるのは知ってるけど、だからって女神が地上を滅ぼすなんて真に受けてるのよ? あり得ないわよ。


 だけど、そんな真に受けて暴れる連中が、一人、また一人と現れて、その度にこちらも捕えたりしてるんだけど……このままじゃキリがないわ……。


「……そういうわけで、目下の悩みの種というわけ」


 サンプトン辺境伯は、辟易(へきえき)とした表情を浮かべながら肩を落とす。

 そうか……本当に、かろうじて僕達は間に合った(・・・・・)ようだ(・・・)


「サンプトン閣下……僕達は、そのヘカテイア教団の一団が、ブリューセン帝国からレディウスの街に潜入したという情報をつかみ、やって来ました。そして、連中を排除するために」

「っ!?」


 僕の言葉に、サンプトン辺境伯は息を呑んだ。

 自分が治める大切な街に、そんな物騒な輩が……そして、嫌悪している連中が潜り込んでいるんだ。驚くのも当然だ。


「そして、その一団が潜入したタイミングというのが、ちょうど一か月前。住民を洗脳し、閣下がおっしゃる住民に変化が出始めた時期がその二週間後……偶然だと思いますか?」

「まさか……そんなの、その連中の仕業に決まってるじゃない」


 サンプトン辺境伯が、口惜しそうに唇を噛む。


「そしてもう一つ。先程のサンプトン閣下の説明で、気になった点があります。一団が潜入した、一か月前といえば……」

「……バッハマンがこの街で交易を始めた時」


 ポツリ、と呟くサンプトン辺境伯の言葉に、僕はゆっくりと頷いた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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