表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/137

辺境伯、マーゴット=サンプソン

「坊ちゃま、サンプソン辺境伯より返事をいただきました。今晩、お会いいただけるそうです。併せて、晩餐にご招待いただきました」


 サンプソン辺境伯に使いを出していた騎士が戻って来たらしく、ゲイブが部屋に来て報告してくれた。


「そうか。では、辺境伯には私とシアで会うことにする。ゲイブと騎士達は、明日の朝まで英気を養っておいてくれ」

「はっ!」


 ゲイブは嬉しそうに口の端を持ち上げながら、部屋を出て行った。

 あはは……ここまで道程で騎士達も疲れているだろうからね。

 それに、これからヘカテイア教団との戦いもあるんだ。いざという時に力が発揮できないんじゃ困るし。


「では、今夜はギルと二人きりですね」

「はい。ただ、レディウスでの初めての夜が、サンプソン辺境伯との晩餐というのは、いささか面白くありませんが」

「ふふ……ですが、これは私達の未来にとって大切なことですから」

「まあ、そうなんですけどね」


 そう言って、僕とシアは苦笑しあう。

 本当にシアと一緒にいると、どんなことだって、何があったって全てが楽しい。


 こんな風に思える女性(ひと)が、この世界にどれほどいるだろうか。

 少なくとも僕にとっては、シアたった一人だけど。


「ギル、夜まではまだ時間もあります。で、ですので、その……私とお茶でもしませんか……?」

「もちろん、シアとご一緒するのは大歓迎です」


 僕とシアは、時間になるまで二人でお茶を飲みながら、談笑した。


 ◇


 ――コン、コン。


「どうぞ」


 夜になり、ノックされたので僕は扉に向かって声をかけた。


「ギル、いかがでしょうか……?」


 やって来たのはシアで、エイヴリル夫人自慢のドレスを着たシアが、おずおずと尋ねる。


「もちろん最高に決まっています。ただ、『女神の涙』を王都に置いたままにしたことは、この僕の失態でした……」


 そう言って、僕は悔しそうに顔をしかめる。

 あのサファイアの宝石があれば、シアの美しさがさらに引き立ったのに。というか、『女神の涙』以上に主役を張れるのは、シアしかいないのに。


「ふふ……ですが、私が『女神の涙』をつけても、あなたはいつも私の瞳ばかり見ているではないですか……」

「一番綺麗なものに惹かれるのは当然のことです」


 苦笑するシアに、僕は臆面もなくそう告げた。

 彼女は自己評価が低いところがあるから、何度でもこう言って認識させてあげないと。


「ありがとうございます……ですが、私のことを想ってほしいのはギルだけですから、できれば他の殿方にはよく思ってほしくはありません」

「それは僕も同じ思いですが……シアが素晴らしい女性(ひと)だから、いくらでも寄ってきてしまいますから……」


 特に、王立学院であのソフィア以上の魔法を放って喝采を浴びたシアだ。

 今までソフィアに働いていた聖女補正も通用しなくなった今、学院では間違いなくシアこそが注目の的になっているはずだ。


 ……これは、王都に戻って王立学院に復帰した際には、かなりの警戒が必要だな。


「も、もう……それより、そろそろ出ませんと晩餐の時間に遅れてしまいますよ?」

「おっと、そうでした。ではシア」

「ふふ……はい」


 僕はシアの手を取って宿屋の玄関に向かい、馬車に乗り込む。

 サンプソン辺境伯の屋敷までは、ここから馬車で二十分程度。それまでの間は、思いきりシアを愛でるとしよう。


 ということで。


「さあ、シアはここです」

「ふあ!?」


 僕はシアを抱き上げ、膝の上に乗せた。

 何といっても、今はモーリスやアンはおろかゲイブまでもがいない。


 なら、僕だって少しくらい我儘(わがまま)に振る舞いたいからね。

 といっても、もちろんシアの同意の上でだけど。


「もう……ギルって、結構強引ですよね?」

「あはは、もちろんシアが嫌ならすぐにやめます。それで、どうしますか?」

「あう……意地悪」


 そう言うと、シアは口を尖らせながら僕の胸に頬ずりをした。

 どうやら、このままでいいようだ。


 そのままシアを思う存分堪能していると、あっという間にサンプソン辺境伯邸に到着してしまった。

 むう……こんなことなら、遠回りすればよかった。


「シア、どうぞ」

「ふふ……はい」


 玄関に横付けされた馬車から僕が先に降りると、手を取ってシアを降ろす。


 すると。


「ようこそお越しくださいました」

「これはサンプソン閣下。わざわざお出迎えいただき、ありがとうございます」


 東方のドレスを身にまとったレディウスの街の領主、“マーゴット=サンプソン”辺境伯が優雅にカーテシーをすると、僕も(うやうや)しく一礼して返した。


「ところで、そちらの可愛らしいお嬢さんは……?」

「はい。僕の大切な婚約者、フェリシアです」

「プレイステッド侯爵家の長女、フェリシア=プレイステッドです。本日はお招きいただき、ありがとうございます」


 サンプソン辺境伯に紹介すると、シアがそれはもう女神のように気品のあるカーテシーをした。

 もちろん、僕はそんなシアの隣でこれ以上ないくらい鼻高々である。


「そう……あなたが、あの(・・)……」

「ご存知なのですか?」

「フフ、それはそうよ。この国内で、“王国の麒麟児”の心をつかんで離さないという婚約者よ? こんな辺境でも有名よ」


 おっと、まさか僕とシアの仲がそんなに広まっているだなんて、思いもよらなかった。

 だけど、それなら逆にシアに手を出そうとする輩が減るだろうから、願ったり叶ったりだな。


「さあさ、お話の続きは食事をしながらにしましょう。お二人共、どうぞこちらへ」

「「はい」」


 僕とシアは、サンプソン辺境伯の後に続いて屋敷の中へと入った。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きあが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 設定やストーリーは悪くなかったが、 主人公とヒロインの台詞がいつも仰々しすぎて、言葉の意味が軽く感じられお互いを愛しているというよりは共依存のような関係に見える。(意図して共依存にしてるかも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ