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最高のヒーローに

「シア、どうぞ」

「ふふ、ありがとうございます」


 次の日の朝、僕はシアの手を取り、馬車へと乗せる。

 昨夜シアが言っていたとおり、王立学院で能力判定が行われる。


 シアが……一度目(・・・)の人生で絶望を与えられたシアが、いよいよ皆に認められ、物語の主人公(・・・・・・)となる時が来たんだ……。


「ギル……今日は私のことを、見ていてください……私は、必ず良い成績を残して、あなたの隣には私しかいないのだと、証明してみせますから」


 シアの言葉が昨夜と異なり、自分を卑下するものではなく、自分を誇示するものに変わっていた。

 僕の、想いを汲んで。


「はい……僕に、あなたを見せてください。僕の隣はあなたしかいないのだと、皆に知らしめてやってください。僕も、あなたの隣は僕しかいないのだと、全員に知らしめてやります」

「はい! 私もあなたをずっと見ています! あなたこそが私の隣にいるべき御方なのだということを!」


 僕とシアは互いに手を取り合い、見つめ合う。

 お互いの健闘を、称え合いながら。


 そして。


「どうやら着いたようです」

「はい」


 シアは凛とした表情を浮かべ、僕の手を取って馬車を降りる。

 その姿は、まさに物語の主人公で、ヒロインで、聖女の……いや、それ以上の姿だった。


 僕はそんなシアをエスコートしながら、教室へと向かう。


 すると。


「うふふ……ショーン殿下、ご存知ですか? 聞いたところによると、本日は私達の能力判定を行うそうです」

「ああ、僕も昨夜のうちに聞いたよ。僕はこの能力判定で、誰が王に相応しいのかを知らしめるつもりだ。そして、聖女(・・)の隣には、誰が相応しいのかということも」

「はい……期待しております」


 教室の前で、見せつけるようにそんな茶番を披露している第二王子とソフィア。

 もちろん気持ち悪くて今すぐ消し去りたいんだけど、それ以上に、僕は二人の姿が滑稽(こっけい)で仕方なかった。


 だって、これから第二王子は僕に、ソフィアはシアに、それぞれ打ちのめされることになるんだから。


 といっても、直接試合をしたりするかどうかは分からないから、結局は見せつけることによって思い知らせるってことなんだけどね。


 でも、連中……特にシアが魔法が使えず無能(・・)役立たず(・・・・)として見下しているソフィアには、驚きと嫉妬、悔しさ、口惜しさしかないだろうから。


 はは、本当に楽しみだよ。


 二人を眺めながら、僕は口の端を吊り上げていると。


「オイオイ、何だか聞き捨てならんことを言ってるな」


 何故かパスカル皇子が、第二王子に絡んでいった。


「……パスカル殿下、聞き捨てならないとはどういう意味だい?」

「決まってんだろ。アンタがこの聖女(・・)の隣に相応しいと言っていることがだよ」


 あー……やっぱりパスカル皇子も二人の王子同様、ソフィアの奴に篭絡されたか。

 おそらく、教室を出てから今日の朝までの間に、ソフィアがパスカル皇子に接触したな。


「いいか、よく聞け。聖女の……ソフィアの隣に相応しいのは、この俺だ。そもそも俺とアンタじゃ、実力が違いすぎる。分かるだろ?」


 そう言うと、パスカル皇子は挑発するように口の端を持ち上げた。

 でも、傍若無人を常とするパスカル皇子も、一応は第二王子であることに配慮して、『アンタ』呼ばわりに留めるんだな。

 それ以外の奴には、『貴様』か『お前』としか言わないのに。


「フフ、面白いことを言うね。だったら、今日の能力判定の場で思い知らせてあげるよ。どちらが上なのか……どちらがソフィアに相応しいのかを」

「面白い、やれるもんならやってみな」


 そんなことを言いながら、不敵な笑みを浮かべて睨み合う第二王子とパスカル皇子。

 (かたわ)らには、瞳を潤ませながら、心配そうなふり(・・)をして見つめるソフィア。


 本当に、なんて茶番劇(・・・)だよ。


「……あの二人(・・)、自分達が物語の主人公にでもなったつもりでしょうか。私のギル(・・・・)を差し置いて」


 隣にいるシアが、眉根を寄せながら吐き捨てるようにそう言った。


「それを言うなら、あの女もですよ。二人の男が自分を取り合う姿に喜ぶヒロイン気取りで。本当のヒロインは、僕のシア(・・・・)だというのに」

「ふああああ!?」


 僕の言葉に、シアが可愛い声を漏らした。

 どうやらシアが恥ずかしがるポイントを突いてしまったようだ。


「あはは、シアが驚いても、事実(・・)は変わりませんよ。あなたこそが、この世界の最高のヒロインです」

「あう……そ、それでしたら、ギルこそどんな物語の主人公よりも素敵な、最高の主人公です……」

「あ、あははー……」


 恥ずかしそうにそう告げるシアに、僕は苦笑した。

 一応、この小説の世界では、僕はただのざまぁ対象だからね……。


 もちろん、今の僕はそんなことを卑下したりなんかしない。

 だって僕は、シアが望むなら何にだってなれるから。


 ――彼女が求める、最高の主人公にだって。

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