三人目のヒーロー、異国の皇子
ベネルクス皇国の第二皇子、“パスカル=ヴァン=ベネルクス”という男は、一言で言ってしまえば、悪役令嬢もののラノベに多く登場する、いわゆる“俺様系”のヒーローだ。
その態度はぶっきらぼうで、誰に対しても非常に馴れ馴れしい。
それは王族である第一王子や第二王子、クラリス王女に対しても同様で、聖女である妹ソフィアをいじめる悪女というレッテルを貼られたシアに対しても、ある意味分け隔てなく失礼な奴だ。
だが、小説の中では二度目の人生とはいえ物語序盤で味方のいないシアにとっては、他の者と同じように接してくれるパスカル皇子に対し、シアは嬉しく思ってしまい、そこから第一王子や第二王子も交え、三人の王子達との恋愛も始まっていく。
……そういえば小説でも、シアとパスカル皇子の出会いは入学した日にぶつかるところからだったな。
しかもその時は、シアに『フラフラしている奴が悪い』などと言い放って去っていくんだっけ。
本当に、何で僕はこんな俺様キャラを書いたのかなあ……。
「見えなかった? 貴様の顔にあるその目は節穴か?」
僕は、パスカル皇子の特徴でもあるアメジストの瞳を睨みつける。
「貴様こそ何だ? この俺が誰だか……って、ああそうか、ここはもう外国なんだったな」
そう言うと、パスカル皇子は眉根を寄せながらガシガシと頭を掻いた。
「全く、面倒くせえな……いいか、ようく聞いておけ。俺はベネルクス皇国の皇子、パスカル=ヴァン=ベネルクスだ。今回は知らねえだろうから許してやるが、次から口の利き方に気をつけ……っ!?」
全部言い終わる前に、僕は胸倉をつかんで長身のパスカル皇子を片手で持ち上げた。
もちろん、あの狩猟大会で第一王子に向けた時とは比べものにならないほどの殺気を込めて。
「おい、貴様の祖国は礼儀というものが存在しない野蛮な国なのか?」
「う、うぐ……っ」
「いいか、よく聞け。このマージアングル王国に足を踏み入れたのなら、最低限の礼儀は身につけろ。そして、喧嘩を売るなら相手を選ぶのだな」
パスカル皇子に向かってそう言い放ち、僕は無造作に地面に放り投げてやった。
全く……何だってこんな俺様キャラに需要があるのか知らないが、少なくとも僕とシアにとっては目障りでしかない。
うん、コイツもラスボスとの決戦の時は壁役だな。
「テメエッッッ!」
どうやら僕に投げられて頭にきたのか、パスカル皇子が怒りの形相を見せながら立ち上がった。
だけど。
「……何だ?」
「っ!?」
再び殺気を向けてやると、パスカル皇子は慌てて目を逸らす。
フン、ただの俺様系我儘皇子が、お呼びじゃないんだよ。
「シア、行きましょう」
「はい」
僕はニコリ、と微笑みながら手を差し出すと、シアはそっと手を添える。
だけど……あ、シア……。
シアは、今も目を逸らしているパスカル皇子に視線を向けていた。
ひょっとして……シアも、ああいう俺様系が好み、なのかな……。
小説のことが脳裏に浮かび、僕は思わず不安になる。
そう思っていたけど。
「……私のギルに、無礼な真似をして……っ」
シアのそんな呟きを聞き、僕は胸を撫でおろすと共に嬉しくなってしまった
「(ありがとうございます、シア……)」
「え……? ギル……?」
「あはは、さあ、行きましょう!」
「は、はい」
僕はシアに聞こえないように口だけ動かしてそう呟くと、シアの手を引っ張って講堂へと急いだ。
◇
「…………………………」
「…………………………」
講堂に着いた僕は、当然だけど第二王子と遭遇した。
まあ、これから卒業まで同じ教室で学ぶことになるのだから当然か……。
で、シアはというと。
「ウフフ、フェリシア様と一緒に学べるなんて、幸せです!」
「ふ、ふふ……そうですね」
嬉しそうにずい、と詰め寄るクラリス王女に、少し仰け反りながら苦笑するシア。
第一王妃のお茶会以降、シアとクラリス王女は仲良くなった。それこそ、まるで親友のように。
聞いたところによると、クラリス王女も二人の王子がいる中で、王位継承権もなく、ただ他国や国内の有力貴族との関係強化のための道具としての存在でしかなかった彼女だ。
境遇は違えど、同じくプレイステッド侯爵にいいように扱われ、同じく公爵家を乗っ取るための道具として僕の婚約者となったシアに、共感する部分があるのかもしれない。
……まあ、だからといって王位継承争いで僕が第三王女側につくかどうかは話が別だ。
僕はそういうことに、私情は挟まないのだ。
そして、
「うふふ……ショーン殿下、これからよろしくお願いしますね」
「ああ……これから君と一緒に学院生活を送れるなんて、幸せで仕方ないよ」
「殿下……」
そんなことを言いながら、見つめ合う馬鹿な第二王子とエセ聖女。
この連中を、今すぐ消し去ってやりたい。
などと考えていると。
「ふふ、ギルったら、眉間にしわが寄っていますよ?」
「シ、シア」
僕の顔を覗き込みながら、シアはクスリ、と微笑む。
そして、つま先を伸ばして僕の耳元へ顔を近づけ……。
「(あんな人達よりも、私を見てほしいです…)」
そう、耳元でささやいた。
だから。
「ふあ!?」
「あはは……僕はいつだって、あなただけを見ていますよ」
「あ……ふふ、そうでしたね」
シアは、蕩けるような笑顔を見せてくれた。
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