偽の聖女の微笑 ※ソフィア視点
■ソフィア=プレイステッド視点
「本当に、面白くないわね……」
私は自分の部屋のベッドに座りながら、親指の爪を噛む。
聖女に相応しくないからと、お父様からはいつも直すように言われているけど、こればかりは子どものころからの癖だから仕方ない。
それよりも。
「これはどういうことよ。どうして聖女であるこの私じゃなく、あんな女になびくのよ」
お父様がマージアングル王国の実権を握るためにと、事故により主を亡くしたブルックスバンク公爵家の乗っ取りを画策し、あの女を小公爵の婚約者としてあてがったのは理解できる。
そして私を王太子……いえ、今はただの第一王子ね。それとくっつけて王室にも食い込もうとしていることも。
もちろん私も、そんなお父様の意を汲み取り、あの狩猟大会の場を利用して第一王子と第二王子に近づいた。
本当は第一王子だけでよかったのだけど、ちゃんと保険をかけておかないとね。
それに、実際にあの二人と接触して分かったけど、女性慣れしていないのか、あんな使用人に作らせた房飾り程度で簡単に私に一目惚れするんですもの。馬鹿じゃないの?
それに引きかえ。
「……聖女である私のほうが絶対に綺麗なのに、どうして小公爵はあんな傷女なんか選ぶのかしら。変態なの?」
私がお遊びでつけてやったあの女の背中の傷。
普通の人が見れば絶対に気持ち悪いって思うはずなのに、小公爵はそれでも傷女を選ぶんですもの。ひょっとしたら、そういう趣味があるのかも。
「まあ、“王国の麒麟児”なんて呼ばれるくらいだから、まともじゃないとは思うけど」
そう独り言ちると、私は肩を竦める。
とはいえ、傷女に死ぬまで絶望を味わわせようと、わざわざこの私が近づいてあげたのに、小公爵は傷女しか見えてないし。本当に趣味が悪い。
まあ、私もそんな傷女の背中を見て喜ぶような変態なんて願い下げだけど。
すると。
――コン、コン。
「ソフィア様、旦那様がお呼びです」
「今行くわ」
使用人が呼びに来たので、私は部屋を出てお父様のいる執務室へと向かう。
ああ、そうそう。
「そういえば知ってる? あの傷女の婚約者、背中を見たのに好きなんだって」
「っ!?」
私の言葉に、後ろを歩く使用人が息を飲んだ。
クフ……まあ、私の指示であの女の背中をナイフでズタズタにしたのは、あなただもの。ひょっとしたら、震えているのかしら?
「クフ、心配しなくても大丈夫よ。だって、私には女神教会がついているのよ? たとえ小公爵……いえ、王室であったとしても、手出しなんてできないの」
「は、はい……」
そう……私を聖女に認定し、女神教会の顔にしたんですもの。それこそ、私に何かあれば、世界中の女神ディアナの信者達が黙ってはいないわ。
そして、女神教会も私を聖女に正式に認定した以上、今さら引きずりおろすことだってできない。
つまり、私こそがこの世界で一番上なの。
――コン、コン。
「失礼します」
私は吊り上げていた口の端を元に戻し、執務室へと入った。
「来たか」
「それでお父様、どのようなご用件でしょうか?」
「うむ……晩餐会の場にいたお前も知っているとおり、第一王子は王太子の権限を剥奪され、第三王女に王位継承権を与えた。これの意味するところは、国王陛下は第一王子を見限り、第三王女に期待を寄せているということだ」
まあ、そうでしょうね。
そうでなかったら、今まで王位継承権を与えられなかった女子に、そんなことをするはずがないもの。
「……これに関して、ソフィアが第二王子にまで手を出したからこそ、こんなことになったのではないのか?」
「お父様、私のせいだとおっしゃるのですか?」
「う……い、いや……」
私はお父様……いえ、権力を欲しがる豚に射殺すような視線を向けて聞き返すと、豚は口ごもって視線を逸らした。
フン……聖女の私がいなければ、精々中堅程度の貴族風情のくせに、父親というだけで偉そうなのよ。
「コホン……とにかく、プレイステッド家としても今後の身の振り方を考えねばならん。幸いなことに、小公爵はフェリシアにかなり入れ込んでいる様子。あやつを使って小公爵をそそのかしてやれば、こちらが望む王子を優位な位置に立たせることができる」
……本当に、なんておめでたいのかしら。
「お父様、小公爵は私達がお姉様にしたことを、全てご存知なのですよ? それは晩餐会の時に、お話ししたではありませんか……」
「分かっている。だが、あれだけ躾けたのだ。それでもフェリシアは、私の言うことを聞くに決まっている」
「……そう上手くいくとは思えませんが」
「うるさい、まあ見ておれ。そのためにあの役立たずを生かしておいてやったのだからな」
そう言うと、豚は口の端を吊り上げる。
既にあの傷女が小公爵の庇護を受け、私達の手を離れてしまっていることを認めようとせずに。
……悪いけど、私はオマエと心中するなんて、嫌なのよ。
下卑た笑みを浮かべる豚に蔑みの視線を送りながら、私は今後の身の振り方について思案する。
まあ、そうね……女神教会の庇護を受けつつ、第一王子……はもう駄目だから、せめて第二王子をそそのかして、次の王妃になるのも悪くないかも。
第二王妃も、聖女である私を利用したいみたいだし。
クフ、お姉様……いえ、傷女のフェリシア。
この私が、ちゃんと思い知らせてあげる。
――アンタは所詮、この私に壊されるだけのオモチャでしかないのだということを。
私は、傷女の絶望の表情を想像し、ニタア、と口の端を吊り上げた。
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