朝の邪魔者
「シア、おはようございます」
狩猟大会も終了し、今日はようやく王都の屋敷へと帰る。
で、僕は朝を迎えるなりシアの幕舎へ赴き、入口から声をかけた。
すると。
「お、おはようございます、ギル」
「はい、おはようございます」
少し頬を染めながらはにかむシアに、僕も微笑み返す。
あはは……うん、やっぱりお互いを愛称で呼び合うことにして正解だな。
おかげで僕は、朝から最高の気分だ。
「おはようございます、坊ちゃま、フェリシア様。ところで……二人はいつの間に、お互いを愛称で呼び合うようになったんですかな?」
シアの幕舎を警護していたゲイブが、傍に来るなりニヤニヤしながらそんなことを尋ねてきた。
「狩猟大会のご褒美として、シアがお互いを愛称で呼び合うことを認めてくれたんだよ」
「ほほう?」
「あう……そ、それくらいで……」
僕とゲイブの眼差しに耐えかねたのか、シアは恥ずかしそうにうつむいてしまった。
「あはは、じゃあ早速朝食にしようか」
「はい……」
僕は手を差し出すと、シアがその細い手をそっと添える。
最初の頃は、こんな些細なことでさえ遠慮していたシアだったけど、今では僕がエスコートすることを当たり前のものとして受け入れてくれる。
それが、僕にはたまらなく嬉しい。
「ゲイブもまだだろう? だったら、一緒にどうだい?」
「ハハハ! そうするとお二人の仲睦まじい姿に当てられて、私は胸やけしそうですぞ!」
「分かった。じゃあ好きなだけ胸やけしてくれ」
ということで、ゲイブも同席させて朝食を済ませる。
三人での食事は楽しく、シアもたくさん笑ってくれた。
あはは、シアがこんなに楽しそうにしてくれるなら、これからは屋敷でも僕達二人だけでなく、モーリスやアン達も交えて、みんなで食事をするのがいいかもしれないな。
「さて……では私は、帰りの荷造りなどを指示してまいります」
「ああ、頼んだぞ」
「はっ!」
ゲイブは席を立って敬礼すると、幕舎を出て行った。
「シア、帰り支度が終わるまでの間、僕達は朝の散歩でもしませんか?」
「ふふ……それはいいですね」
シアの了承もいただいたので、僕は彼女をエスコートして会場を歩く。
見ると、他の貴族達も帰り支度を始めており、既に三分の一程度の貴族はこの会場を発ったようだ。
「あ……あのドラゴン、まだ置かれたままなのですね……」
広場に置かれているアイトワラスの死体を見て、シアが眉根を寄せた。
「あはは、王太子殿下はあのドラゴンが視界に入るたびに、恥ずかしい思いをしているかもしれませんね。で、ショーン殿下あたりは悔しさのあまり幕舎で癇癪を起しているかもしれませんよ?」
一応、小説の中では王太子と第二王子の仲は悪くないものの、母親である第一王妃と第二王妃が不仲ということもあり、幼い頃から互いを意識してきたという設定だ。
特に、シアに関しては一歩も譲らず、いつも我先にと競い合っていたからな。
とはいえ、現時点ではシアに関してではなく、あのソフィアになっているけど。
「……ギルはどうなのです?」
「僕? といいますと?」
「その……王太子殿下やショーン殿下のように、競ったり悔しかったりということは……」
そう言って、シアは僕の顔を覗き込みながらおずおずと尋ねる。
おそらくは、僕もあの二人の王子みたいに、彼女の妹のソフィアを争ったりしないか不安なんだろう。
だけど、そんなふうにシアが考えてしまうのも仕方がない。
だって……彼女は、いつもそうやって自分の大切なものを奪われ続けてきたんだから。
……これは早いうちに、ちゃんと僕の想いを彼女に伝えたほうがよさそうだな。
「あはは! そんなことはあり得ません! そもそも、現時点では僕にライバルなんていませんから!」
「そ、そうですか……」
僕がそう言って笑い飛ばすと、シアはホッと胸を撫でおろし、安堵の表情を浮かべる。
「ですが」
「っ!?」
「僕だって、大切な婚約者にはいいところを見せたいと思ったりしますので、必要以上に張り切ってしまったりすることはあります」
「あ……」
そうとも……シアが喜んでくれるのなら、シアが笑ってくれるのなら、僕は何だってしてみせるさ。
それこそ、あの二人……いや、三人の王子を蹴散らしてでも、ね。
「とにかく、あの方々の話題はもうやめにして、それよりも王都に戻ったら……「お姉様、小公爵様、こちらにいらしたのですね!」」
僕が楽しい話題を切り出そうとした矢先、僕達の後ろからせっかくの朝のシアとの楽しい気分を台無しにする、そんな不快な声の持ち主が現れた。
もちろん、シアの妹であるエセ聖女、ソフィアだった。
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