狩りの開始
「それでは、諸君の健闘を祈る」
国王陛下の挨拶が終わり、いよいよ狩猟の開始を告げるラッパを鳴らそうと、鼓笛隊が整列した。
チラリ、と観客達を見ると……僕の女神、フェリシアがそこにいた。
もちろん、そのすぐ後ろには護衛のゲイブも。
僕が狩りに出ている間、プレイステッド侯爵やソフィアが余計な真似をしてこないよう、フェリシアの傍に張り付き、全ての悪意から絶対に守り抜くように指示をしておいた。
王国最強の騎士であるゲイブであれば、国王陛下でもない限り下手に手を出したりはしないだろう。
それ以前に、ブルックスバンク家に手を出すような馬鹿がいるとも思えないけどね。
すると。
「小公爵、余裕だな」
「……王太子殿下」
はは、わざわざ僕の隣に来て、挑発でもするつもりなのか?
「まあ、僕も狩猟大会への参加は初めてではありませんので」
「それもそうか。ところで……そのランスの柄にある房飾りは、あの女のものか?」
王太子は観客達の中にいるフェリシアを一瞥した後、僕にそんなことを尋ねた。
だが……僕のフェリシアをあの女呼ばわりするなんて、いい度胸じゃないか。
「ええ、僕の愛する女神が、僕のためだけに作ってくれたんです。王太子殿下も、剣の柄頭に房飾りをつけているようですが」
「ああ……これは、“聖女”であるソフィアが私だけのためにと、わざわざ……「おかしいですね。その房飾り、ショーン殿下の弓にもございますが?」」
柔らかい笑みを浮かべながら慈しむように房飾りを見つめ説明する王太子の言葉を遮り、僕は揶揄うようにそう告げた。
すると……はは、一瞬で王太子が顔をしかめたな。
「……私だけだと角が立つので、ショーンにも渡したのだろう。ソフィアは優しいからな」
「へえ、そうなのですね。どう思います? ショーン殿下」
「? 小公爵殿、何の話ですか?」
僕は少し離れた場所にいた第二王子や周囲の貴族子息達に聞こえるほどの大声で尋ねると、話を聞いていない第二王子は意味が分からずに首を傾げた。
「実はですね、王太子殿下が“聖女”であるソフィア殿から房飾りをもらったのですが、ショーン殿下のものは義理で、王太子殿下のものは特別なのだそうです」
「「「「「っ!?」」」」」
僕の言葉に、王太子や第二王子はおろか、周囲の貴族子息達まで息を飲んだ。
それはそうだろう。あのエセ聖女が房飾りを渡したのは、決して二人の王子だけではないのだから。
「いやあ、聖女の加護を受けたお二人は、さぞや今日の狩猟大会で素晴らしい結果を残されるのでしょうね。僕はといえば、婚約者の房飾りのみですので、どのような結果となるのでしょうか」
口の端を持ち上げながら、僕は盛大に二人の王子を揶揄う。
だが、これで王子達は、是が非でも結果に執着するだろうな。
どちらの房飾りが、聖女の加護を受けているのかを証明するために。
そして、そんな二人は狩りが終われば分かるだろう。
その房飾りに、加護なんて一切なかったことを。
僕の女神の加護こそが……フェリシアこそが、一番の女性なのだと。
本当はフェリシアの素晴らしさに気づいて、余計な手出しをされても困るんだけど、それ以上に彼女に失礼な真似をしたこの二人をどうしても許せない。
だから、思う存分分からせてやる。
「……まあいい。少なくとも、小公爵のような加護どころか呪いしかない房飾りとは違う。これは正真正銘の聖女が作った房飾りなのだからな」
「……まあ、そうだね。そして、僕こそがそれを証明してみせるよ」
必死になって僕に皮肉を言う王太子と第二王子。
だけど、この期に及んでなお、僕のフェリシアを傷つけるようなことを言うんだな。
確かに二人の王子……いや、本編が始まってから登場するもう一人の皇子と合わせ、小説ではヤンデレ気味の溺愛系という設定にはしたが、溺愛対象以外には、ここまで失礼になるとは思ってもみなかった。
「はは、ならば狩りの結果で決めましょうか。誰が一番、すごい魔獣を仕留めるのか」
「フン、望むところだ」
「フフ……小公爵殿、いいの? ただでさえ呪いがかかっているのに、恥までかいてしまうよ?」
王太子は鼻を鳴らし、第二王子は嘲笑を浮かべる。
そんな二人を見て、僕が口の端を吊り上げた、その時。
――プアアアアアアアアアア!
ラッパの音が盛大に鳴り、狩りがスタートした。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きあが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!




