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参謀クリス

「やれやれ、また入口から(・・・・)来たのか」


 クラウディア皇女と第一王子がブルックスバンク家のゲストハウスに軟禁? されてから三日。

 今日もブリューセン帝国の使者がやって来ては、『クラウディア皇女を返せ』と叫んでいる。


「アハハ……それで、クラウディア殿下とニコラス殿下はどうしているの?」

「ん? 知らん。特に興味もない」


 苦笑しながら尋ねるクリスに、僕はにべもなく答えた。

 まあ、相思相愛なんだから上手くやっているんじゃないか?


「ウフフ。相変わらず小公爵様は、この国の王子には厳しいのね」

「当然ですよ、サンプソン閣下。何せアイツは、僕達の邪魔しかしないんですから」


 クラウディア皇女達と同じく、三日前からこの屋敷に滞在してもらっているサンプソン辺境伯がクスクスと笑う。

 そんな彼女に、僕は肩を竦めてみせた。


「それよりも、連中はいつになったら力づくで奪いに来るんだ? こっちはずっと待っているというのに」

「ウーン……それに関しては、今夜にでも動くんじゃない?」

「……というと?」


 クリスの言葉に、僕は思わず聞き返した。


「さすがに三日も軟禁されている状態で、向こうとしてもひょっとしたらクラウディア殿下がヘカテイア教団について不利益な情報を伝えてもおかしくないと考えるんじゃないかな」

「そうか? だけど、まだ(・・)三日だぞ?」

「違うよ、もう(・・)三日だよ。それに、表向きはクラウディア殿下もヘカテイア教団側でしょ? だったら、ブリューセン帝国での教団としての活動や皇帝陛下との関係を考えて、彼女を救うために動き出すはずだよ」


 ウーン……そんなものなのかなあ……。


「何より、ボク達は先に放っている二人の侵入者を排除していることも向こうは知っているんだ。だったら既に面が割れていると考えているはずだから」

「だけど、それだったらもっと早くに動き出してもおかしくないか? 何といっても、皇女殿下が軟禁されているんだし」

「それこそ三日も音沙汰がなかった理由だよ。先の失敗があるから、慎重にならざるを得ない。おそらく、確実にブルックスバンク公爵家を……いや、ギルバートを仕留めるための準備をしていたんだと思うよ」

「そうか……」


 クリスの説明に、僕は納得して頷く。

 いや、前世の僕が書いたヒーローの中で、クリスだけが設定どおり一番ヒーローしているな。


 実際はヒロインだけど。


「えへへ……でも、連中が来たってギルバートが全部やっつけちゃうんでしょ?」

「いや、それは少し違うな」

「? 違うって?」


 はにかむクリスに僕はかぶりを振って否定すると、彼女はキョトン、とした。


「正しくは、僕達(・・)だ。その中には当然クリスも含まれているからな。僕達の参謀としての活躍、期待しているぞ?」

「ふえ……う、うん……」


 僕の言葉に、クリスは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

 アレ? 別に僕、女性を口説くようなことは言ってないよな……?


 いつもならここでシアに確認を取るんだけど、あいにく今はマリガン卿と魔法の稽古中だ。

 ……後で僕の言い方がまずくなかったか、確認しておくようにしよう。


「あらあら、やっぱり可愛いわね。どう? クリスちゃん、これから私と一緒に……」

「お、お断りします!」


 少しだらしなく下品な顔をしたサンプソン辺境伯から、クリスは逃げるようにして執務室を出て行った。


 ◇


「さあ……そろそろかな?」


 その日の夜、僕はシアと一緒に庭園のベンチに腰かけながら、連中……ヘカテイア教団がやって来るのを待っている。


「ふふ……こんな素敵な夜に、わざわざギルと私の邪魔をしにやって来るんですもの。相応のお出迎えをしてあげませんと」


 シアは、僕の方にしな垂れかかりながらクスリ、と(わら)う。


「あはは、そうですね。どうやらヘカテイア教団というのは無粋な連中が多いようですし、少しマナーというものを教えてやる必要がありますね」

「はい……」


 月明かりの下、僕とシアは互いに見つめ合っていると。


 ――ドオオオオオオオオオオンンンッッッ!!!


「「っ!?」」


 突然起こった耳をつんざくような衝撃音に、そして、この暗闇を一瞬にして照らした強烈な光に、僕達は思わず立ち上がった。


 その光と音が巻き起こった先……それは。


「っ! ヘカテイア教団めッッッ!」


 僕は思わず叫び、シアの手を取って駆け出す。

 アイツ等……ここではなくて王都を火の海にするつもりか!


「ギル! 行きましょう! このままでは、大勢の人々の命が奪われてしまいます!」

「はい!」


 僕とシアは、玄関へと向かうと。


「ギルバート! フェリシア!」

「「ギルバート様!」」

「「「「坊ちゃま!」」」」


 考えることは同じようで、クリスを始め屋敷のみんなが一斉に集結した。

 その中には、呆然とした表情の第一王子と、悔しそうに歯噛みするクラウディア皇女の姿も。


「シア!」

「はい!」


 僕は用意された馬に(またが)り、シアを引き上げて座らせた。


「ゲイブ! それに騎士団の半分は僕達に続け! 王都に巣食う教団の連中を一掃するぞ!」

「「「「「はっ!」」」」


 僕の檄に、ゲイブ達は敬礼する。


「モーリス! アン! それにハリードはこの屋敷とニコラス殿下、クラウディア皇女を絶対に守り抜け!」

「承知いたしました」

「「はい!」」


 三人は、恭しく一礼する。


「そしてクリス!」

「う、うん!」

「僕達は連中の思いもよらない行動によって、戦力を分断させる羽目になった! だから……君が僕を含めた全員の指揮を執れ!」

「っ!」


 そう告げた瞬間、クリスは思わず息を呑んだ、


 だけど。


「うん! 任せてよ! このボクが、絶対にヘカテイア教団の目論見を潰してみせる!」

「ああ! 頼んだぞ!」


 クリスが突き出した拳に僕も拳を合わせ、シアと共に王都へと馬を走らせた。

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