闖入者
「あー……疲れたあ……」
この二日間、第一王子とクラウディア皇女の王都散策に付き合い、疲れ切った僕は思わず執務室の机で突っ伏した。
いや、散策自体は大したことはなかったんだよ?
だけどさあ……案の定というか安定というか、やっぱりあの馬鹿王子がクラウディア皇女にいいところを見せようと色々とやらかして、その尻拭いを全て僕達がする羽目になって……。
「……ギルバート様、よろしければあの男を消してまいりますが?」
「お前は僕達の苦労を台無しにする気か!?」
褒めてもらいたくてそんなことを言い出したハリードに、僕は思わず大声で叫んだ。
ハア……頭痛い。
「それよりこの二日間、クラウディア皇女の侍従達はどうだった?」
「はい。少なくとも二名、教団の者が紛れておりました」
「そうか」
やはり、ヘカテイア教団が監視の目をつけないはずがない、か……。
「おそらく向こうも俺の存在に気づいていると思いますが、いかがなさいますか?」
「ふむ……」
おずおずと尋ねるハリードに、僕は顎に手を当てながら思案する。
何かやらかす前に教団の者を消してしまうことが手っ取り早いと思いながらも、そうすると第一王子との縁談のためにやって来たクラウディア皇女に迷惑をかけることになる。
さて、どうしたものか……。
「ウーン……やっぱり一番手っ取り早いのは、始末した二人の替え玉を用意することじゃないかな……」
僕とハリードの会話を聞いていたクリスが、おもむろにそう提案した。
「やっぱりクリスもそう思うか?」
「うん。それに向こうにだって、ハリードのこと知られたんでしょ? だったら、早ければ今日、明日には何かしらの動きを見せるだろうし」
「だろうな」
もし僕が向こうの立場だったら、自分達の素性を知っているハリードを生かしてはおけない。
……いや、何ならハリードを飼っているこの僕達も。
「はは……結局は、始末することには変わりないか」
そうとも。僕達を狙ってくるということは、即ちシアに危害を加えるということ。
だったら、この僕がそれを許すはずがない。
「ハリード……モーリスとゲイブ、それにアンに伝えろ。お客様を丁重におもてなししろ、とな」
「かしこまりました!」
僕の指示を受け、ハリードが鼻息荒く執務室を出て行った。
全く……アイツは執事としてのマナーを身につけろという、モーリスの言葉をもう忘れたのか。
「ふふ……クリス、お客様が来るまでの間、私と一緒にいましょうね」
「う、うん。ありがとう、フェリシア」
うん……連中、早く来ないかな。
そうじゃないと、僕がシアと二人きりになれる時間がないじゃないか。
嬉しそうにはしゃぐシアとクリスを眺めながら、僕は尊いと思いながらも肩を落とした。
◇
「ハア……」
深夜になり、僕はベッドに寝そべりながら隣の部屋……つまり、シアの部屋がある方向の壁を眺めながら、溜息を吐く。
今頃は、シアはクリスと一緒に二人仲良く眠っているんだろうなあ……。
というか、結局今日は一度もシアと二人きりになれず、シアに触れたくて仕方がない。
「それもこれも、全部ヘカテイア教団の連中が悪い」
そうだとも、何だってクラウディア皇女に付きまとってこの国までやって来るんだよ。
どう足掻いたって、マージアングル王国にヘカテイア教を根付かせることなんて不可能だというのに。
うん、やっぱりそんな教団は、この僕が滅ぼしてしまおう。
そう意気込んでいると。
「っ!? 寒い!?」
急に部屋の温度が一気に冷えた。
これじゃまるで、真冬に外に放り出されたようなものだ。
「シア! クリス!」
僕はベッドから慌てて飛び起き、シアの部屋へと通じる扉を開ける……っ!?
「ギル!」
「ギルバート!」
扉から現れた僕を見て、シアとクリスがパアア、と笑顔を見せる。
部屋の床に、黒装束を着た侵入者二人を氷漬けにしながら。
「二人共、大丈夫ですか? ……って!?」
「「あ……」」
二人に駆け寄り無事を確認しようとして、僕は慌てて後ろへと踵を返した。
い、いや、シアもクリスも既に寝る支度を整えていた……というよりも、実際ベッドで寝ていたんだろう。
二人は、薄いナイトドレスに包まれていた。
「す、すいません……と、とりあえず、二人共何かを羽織っていただけると……」
「は、はい」
「う、うん」
そう言って二人が返事をしてから、しばらく待つ。
「ギル、もういいですよ」
「は、はい」
振り返ると、シアとクリスはローブを羽織っていた。
とはいえ、それでも胸元が少し開いていて、その……シアの胸の谷間が覗いているんですが。
クリスは……うん、まあ頑張れ。
「むうう! ギルバート、今失礼なこと考えてたでしょ!」
「べ、別に何も考えてないぞ!?」
くそう。クリスめ、勘が鋭いな。
「それより、みんなを呼ぼう」
「はい」
シアがベルを鳴らすと、モーリス、ゲイブ、アン、それにリズを連れたハリードが急いでやって来た。
「坊ちゃま」
「ああ……予想どおりだよ」
僕は床に転がる闖入者を一瞥しながら、そう告げた。
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