叶わない恋、大切な友達 ※クリス視点
■クリスティア=アンダーソン視点
――ボクは、生まれた時からずっと、男として生きていくことを求められた。
過去の冤罪事件によって取り潰しに遭い、王都の片隅で貧しい暮らしを続けてきたボクは、たった一人の肉親である母さんから、アンダーソン家のこと、事件のこと、貴族としての振る舞いなど、色々なことを叩き込まれてきた。
どうやら母さんがアンダーソン家唯一の血筋で、僕は処刑されたアンダーソン伯爵から数えて四世代目に当たるみたい。
父さんは……物心ついた時には既にいなかったから、何も思うところはない。
どういう人なのか、母さんとどうやって結ばれたのか、全てがどうでもいいことだった。
でも、母さんは父さんがいないからこそ、アンダーソン家に執着していたような気がする。
母さんにとって、ボク……というより、アンダーソン家こそが全てだったみたいだから。
なので母さんのボクに対する期待が大きくて、復興に向けて少しでも不利になることは徹底的に隠ぺいするように仕込まれた。
だからボクは、ずっと男の子として育てられてきたんだ。
ボクも自分のことを男だって信じて疑わなかったし、貧民街でもそう過ごしてきた。
名前も、アンダーソン家が貴族として復興を遂げた時には、クリスティナ……クリスではなく“クレイグ”という貴族っぽい名が用意されていた。
でも、ボクはクリスという名前に愛着があって、引き続きクリスとして過ごした。
そして、ボクが十三歳の誕生日を迎えてすぐのこと。
――母さんが、息を引き取った。
元々病弱ということもあるし、僕を育てるために無理していたこと、大したことのない病気でも医者に見てもらうことができないほどの貧しさ、これらが全て重なってしまったから……。
ア、アハハ……母さん、死ぬ間際でも、アンダーソン家のことばかり呟いていたな……。
多分、何も残っていなかった母さんには、もうそれしかなかったんだと思う。
だから僕は、寂しく死んでいった母さんのためにも、何としてもアンダーソン家の復興と、こんな目に遭わせたアボット家への復讐を誓った。
……ううん。
結局、ボクにもそれしか残されていなかったんだ。
そうして、貧しい日々の暮らしを精一杯生きつつ、五十年前の事件のこと、アボット家のこと、マージアングル王国の情勢、その他ボクにできるあらゆる情報の収集に努めた。
だけど……そんなことをする度に、ボクにはどうしようもできない無力感だけがいつも残っていた。
だって、ボクにはそれを叶えるためのお金も、地位も、人脈も、何一つなかったから。
ボクは……死んだ母さんと同じ運命しかなかったから。
そして、母さんが亡くなってから二年を過ぎた、十五歳のある日。
――ボクは、ボクの運命を変える人と出逢った。
◇
「えへへ……懐かしい、なあ……」
ギルバートに告白をして、フラれて、思いきり泣いた後、彼に部屋まで送り届けてもらい、今はベッドの上でこれまでのことを思い返していた。
灰色の毎日だったボクの人生を、まるで魔法のように全てを鮮やかに彩ってくれたギルバート。
そんな彼のことを想うだけで、胸が熱くて、苦しくて……そして、張り裂けそうで……。
もちろん、ギルバートに想いを告げたことは、何一つ後悔していない。
むしろ、男として今後も振る舞い続けることのほうが、何より耐えられなかった。
だって、あのままだったらボクは、ずっとみじめな思いをし続けることになっていたから。
それに。
「うん……ギルバートって、本当に優しいよね……こんな面倒くさいボクのことなんて、放っておけばいいのにさ……」
本当なら、アンダーソン伯爵家を復興できたんだから、アボットが使っていた王都の屋敷だって、領地の屋敷だって、思う存分使える。
だから、そちらに移り住むように、ギルバートならボクを遠ざけることだって簡単にできたんだ。
でも……彼は、そんなボクを大切な友達だって言ってくれたんだ。
そして、これからもずっと……。
「うん……ボク……ボク……ギルバートを好きになってよかった……っ」
最初から、叶わない恋だって分かってた。
でも……それでも、ギルバートは精一杯の誠意で、ボクの想いを受け止めてくれたんだ……!
だからこれからも、ボクはギルバートのために全てを捧げよう。
彼の、大切な友達として。
とめどなく溢れる涙と共に、ボクは窓の外で煌々と輝く上弦の月を眺めながら、そう心に誓った。
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