クリスの告白①
「ハア……色々と疲れましたね……」
晩餐会が終わり、帰りの馬車の中で僕は溜息を吐いた。
第一王子がやらかさないかとの不安もさることながら、あのソフィアが余計な真似をしないかと注意していたこともあり、とにかく早く屋敷に帰って休みたい。
「ふふ……ギル、お疲れ様でした」
隣に座るシアが、僕にしな垂れかかりながら労いの言葉をくれた。
シアのその声を聞くだけで、温もりを感じるだけで、僕の心は癒されますよ。
「この後はもう仕事もありませんから、早くお休みになってくださいね?」
「ありがとうございます。ですが、シアもですよ?」
「もちろんです。明日も、あなたを支えたいですから……」
ああ、本当に……どうしてあなたはこんなに優しくて、僕の心を焦がすのですか……。
「シア……」
「ふふ……ちゅ……ちゅぷ……」
シアの名前をささやいた瞬間、彼女は僕の首に腕を回し、口づけをしてくれた。
いつもは僕から唇を求めるのだけど、今日は積極的だな……。
「ぷあ……ギル……愛しています……」
「シア……僕もあなたを、誰よりも愛しています」
「……実は、クラウディア殿下があまりにも美しい御方でしたので、ギルがほんの僅かでも心惹かれるのではないかと、不安に思いました……」
そう言って、シアが苦笑した。
もちろん、彼女自身も僕の心がシアから離れることはあり得ないと思ってはくれているけど、それでも、ほんの欠片程度でも僕の中にクラウディア皇女が……いや、他の女性が入り込むことが嫌なようだ。
それが、僕にはたまらなく嬉しい。
「あはは、僕は足のつま先から髪の毛一本まで、あなたで埋め尽くされています。たとえどのような女性であっても……それこそ女神でさえ、僕の心に入り込む余地はありませんよ」
「はい……それが、私にはたまらなく幸せです……こんな素敵な殿方に、ここまで想っていただけるなんて……」
「当然です。あなたはこんなにも素敵な女性なのですから……」
「ギル……ちゅ、ちゅく……ん……ん……」
これ以上の会話は不要とばかりに、僕はシアの可愛らしい桜色の唇で、口を塞がれた。
◇
「さて、と……」
深夜〇時を過ぎ、僕は庭園のベンチで腰かけていた。
だが、クリスはまだ姿を現していない。
「それにしても、一体何の話があるんだろうか……」
下弦の月を眺めながら、僕は独り言ちる。
あの第一王子とクラウディア皇女の面談を終えてすぐ、サロンに向かう途中で僕に時間が欲しいと言った時のクリスの様子……いつもとは違う、真剣な瞳をしていた。
ひょっとしたら、アンダーソン家のことで何かあるのかもしれない。
いきなりアンダーソン家が復興したこともあり、他の貴族達からは良く思われていないところもあるだろうから、その方面での相談かもしれないな。
もちろん、僕はクリスがどんな悩みを抱えていたとしても、友人として力を貸すつもりだ。
すると。
「あ……そ、その……待ったかな……?」
頬を赤く染めながら、やって来たクリスがおずおずと声をかけてきた。
「いや、それほど待っていないぞ。それに、今夜は風が心地いいしな」
「そっか……その、隣……いい?」
「ああ、もちろん」
「えへへ、失礼します」
了承すると、クリスがはにかみながら僕の隣に座る。
だけど……何というか、その……クリスから、いい香りがする……。
「ひょっとして、お風呂にでも入っていたのか?」
「あ、う、うん……」
「そ、そうか……」
ということは、クリスはお風呂に花びらを浮かべたりしているのかな。
ま、まあいい。深く考えないようにしよう。
「それでクリス、何か悩みでもあるのか?」
開口一番、僕はクリスに単刀直入に尋ねる。
「な、悩みというか……その……じ、実は、君に伝えたいことがあって……」
普段のクリスらしからぬ、歯切れの悪い会話だな……。
どこかぎこちないし、落ち着かなそうだし、本当にどうしたんだ?
「クリス、僕でよければ何でも言ってくれ。ブルックスバンクの名にかけて、君の力になるぞ」
「ア、アハハ、うん、ありがとう……」
そう言った後、クリスは急に立ち上がった。
「? クリス?」
「そ、その! ボク……ボク、ね……!」
鳶色の瞳を潤ませながら、ジッと僕を見つめるクリス。
その唇が、肩が、握りしめた拳が、震えていた。
「い、言うね……! ボク……!」
そして、いよいよクリスの口が開かれると。
「ボク……実は、女の子……なんだ……!」
なるほど……クリスは女の子で、それを僕に相談したかったのか……って。
「ハアアアアアアアアアアア!?」
僕は思わず、夜空に向かって絶叫した。
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