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思惑の一致

「フフ、そう硬くならないでください。今日は、“王国の麒麟児”と帝国でも名高いギルバート様と、そのギルバート様が愛してやまないと噂のフェリシア様にお会いしたかったのです」

「僕達に、ですか……?」

「はい」


 おずおずと聞き返す僕に、クラウディア皇女はニコリ、と微笑んだ。

 僕の噂がブリューセン帝国に流れているということにも驚きだけど、まさかシアのことまで知っているなんて……。


「そういうことだ。小公爵よ、隣のテーブルに座れ」

「は、はあ……」


 クラウディア皇女が僕を知っていたことに嫉妬したのか、第一王子は不機嫌な様子を隠さずにそう告げた。

 そんな第一王子が鬱陶(うっとう)しいことは間違いないが、それよりも、僕の中でクラウディア皇女に対する警戒レベルが最大まで上がった。


「そのようにおっしゃっていただき、光栄にございます。ですが、僕はともかく、どうしてシア……フェリシアのことまでご存知なのですか?」


 僕は表情こそはにこやかにしながらも、あえて射殺すような視線を向けている。

 殺気を込めてもいいが、そうするとこの政略結婚そのものが破談となってしまうおそれがあるからね。


「フフ、そのようにかしこまらないでください。それに、この程度はお互い様(・・・・)ではないでしょうか」


 そんな僕の視線を意に介さず、クラウディア皇女は微笑む。

 だが、そう言われてしまうと僕も何も言い返せない。


 実際、国王陛下が放った()に加え、僕も独自に諜報員を送り込んでいるから。

 まあ、こんなことは国防を担う者であれば当然のことなんだけど。


「それで、僕とシアに会ってみていかがでしたか? シアはともかく、僕には幻滅されたのでは?」

「フフ! まさか、その逆です! ギルバート様とフェリシア様の仲睦まじいお姿を拝見し、此度(こたび)の縁談に思いを新たにしたところですよ」

「そうですか」


 愉快そうに笑うクラウディア皇女。

 そんな彼女の笑顔と言葉を額面どおりに受け止め、第一王子は頬を赤らめている。本当に、単純だなあ……。


「できましたら、ギルバート様とフェリシア様とは、今後も個人的に(・・・・)お付き合いをお願いしたいですわ」

個人的に(・・・・)、ですか……?」

「ええ。と言いますのも、現在ブリューセン帝国では詐欺(・・)が横行しておりまして、心を痛めておりますの。ギルバート様には、是非よいお知恵をお貸しいただけると嬉しいです」


 ……なるほど、そういうことか。

 僕はこの政略結婚で彼女をこちら側に引き入れ、ヘカテイア教団をブリューセン帝国から追い出そうと画策していたが、彼女もまた、教団に手を焼いていたのか……。


「かしこまりました。このギルバート=オブ=ブルックスバンク、必ずやお力になることをお約束いたします。何より、ブリューセン帝国とは親戚(・・)となりますので」

「フフ……よろしくお願いします」


 それからの第一王子とクラウディア皇女の面談は、終始和やかな雰囲気のまま終了した。


 ただし、僕とクラウディア皇女とのやり取りに嫉妬心を剥き出しにした第一王子に、最後まで睨まれ続けていたけど。


 というか第一王子、ソフィアはいいのか? いいんだろうな。


 ◇


「フフ、私はマージアングル王国の視察を兼ねて、あと十日ほど滞在予定です。ついては、またお二人とお会いしたいわ」

「かしこまりました。その時は、是非とも我が邸宅へご招待させていただきます」

「ええ、楽しみにしております」


 そうして、クラウディア皇女は第一王子にエスコートされて別の場所へと向かった。


「ふう……」


 そんな二人の背中を見届け、僕は深い息を吐いた。


「ギル、お疲れ様でした」

「シア……あなたもお疲れ様でした。慣れない場所ですから、大丈夫ですか?」

「はい。あなたが常に気遣ってくださっていましたので、心配ありません。それに……」

「それに?」

「私もあなたの妻になるのですから、このような機会がこれからもありますので、慣れておくに越したことはありません」


 そう言って照れくさそうに、だけど嬉しそうに、シアが微笑む。

 そんな彼女に、僕は心を鷲づかみにされてしまった。


 だってシアは、僕との将来を見据えてそう考えてくれていたんだぞ? 嬉しすぎるに決まっている。


「ありがとうございます……僕は、あなたを妻とすることに何一つ不安なんてありません。いえ、むしろあなた以外では、僕の妻は到底務まらないでしょう」

「ふふ……よかった……」


 僕とシアは手を取り合い、微笑み合う。

 本当はすぐにでもシアの唇を求めたいところだけど、まだ我慢だ。


「さて……クリス、今夜はクラウディア殿下を歓迎する晩餐会が行われるが、それまでどうする?」

「このまま王宮に留まっていればいいと思うよ。元々、夜のことを見据えて僕達もこのような服装をしているわけだし」

「違いない」


 そう言って、僕とクリスはお互い肩を(すく)めた。


「では、それまでは王宮内にあるサロンで、みんなでお茶でもしようか。シア、それでいいですか?」

「ふふ、もちろんです」


 シアの了解もいただいたので、僕達はサロンへと向かった。


 すると。


「(……ギルバート、そ、その……今日の夜、少しだけ君の時間がほしい、んだ……)」


 クリスが顔を赤くしながらどこか思い詰めた表情で、そう耳打ちした。


「あ、ああ……構わないが……」

「ぜ、絶対だからね。約束だからね」


 そう言って、クリスは僕から離れて従者候補達のところに行ってしまった……。


「まあ、いいか……」


 僕は頭を掻きながらポツリ、と呟くと、クリスの背中を眺めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 既にリズやクリスといったフラグを無自覚に建ててる主人公が放った「帝国とは親戚になる」発言もまたそういう意味になるのでは?とか勘ぐってしまいそうなわたし。 まぁ第一王子が王配になる前提の婚姻…
[一言] クリスの言動が相変わらず気になるけど真相は果たして…? 作者の想像をクリスは越えてくるのか
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