微笑む皇女、見惚れる王子
「ああー……やっぱり……」
ブリューセン帝国第一皇女、クラウディア=フォン=ブリューセンが優雅にカーテシーをする姿を見た、僕の第一声はこれだった。
そのルビーのように艶やかなウェーブのかかった赤い髪、オニキスのように輝く黒い瞳、整った目鼻立ち、ルージュを引いた薄い唇。
細い身体で主張すべきところは主張する、抜群のプロポ―ジョン。
まあ、モーリス達のことがあるから、クラウディア皇女が小説のキャラよりもすごいというのは想像していたけど、まさかシアの次と言っていいほどの容姿だとは思わなかった。
その証拠に、あれだけソフィア一筋だった第一王子が、完全に目と心を奪われているし……って。
ふと隣を見ると、シアがすごく不機嫌そうに頬を膨らませていた。
あはは、本当に僕の婚約者はどうしてこんなにも可愛いんだろう。もうこんな第一王子とクラウディア皇女の面談なんて放っておいて、今すぐ二人きりになりたい。
「うむ。では、我が愚息についても……ニコラス?」
「え……? あ、ああ、申し訳ありません。マージアングル王国第一王子、ニコラス=オブ=マージアングルと申します」
国王陛下に声をかけられてようやく意識を取り戻した第一王子が、慌てて取り繕いながら自己紹介をした。
だけど、その顔は上気し、黄金の瞳はクラウディア皇女を捉えて離さない。
おそらくは、頭の中にソフィアのソの字もないだろうなあ。まあ、それでいいんだけど。
「では、あとは若者同士のほうが会話も弾むであろう。ニコラス、クラウディア殿をご案内して差し上げろ」
「はっ! かしこまりました!」
「うむ」
謁見の間を出る国王陛下達を見送り、ここには第一王子とクラウディア皇女、それに僕達と皇女のお付きの方数名が残るのみとなった。
「で、ではクラウディア殿下、まいりましょう」
「はい」
緊張した面持ちでクラウディア皇女の手を取り、二人も謁見の間を出る。
僕達は……うーん、どうしようか。
「ほらギルバート、ボク達も一緒に行かないと」
「そ、そうか? あとは二人の問題でもあるし、侍従達と教育係のクリスがいれば充分じゃないか?」
「そ、そういうわけにはいかないよ。それに、ひょっとして全部ボクに押し付ける気?」
くそう、コッチの考えが読まれていた。
だってあの様子なら、絶対に縁談も上手くいくのは目に見えているし、僕の出番なんてないよね?
「とにかく、早く行くよ」
「わ、分かったよ……」
僕とシアは仕方なくクリスの後に続き、第一王子とクラウディア皇女を追いかける。
そして。
「へえ……あのニコラス王子にしては、良い場所を選ぶじゃないか」
二人がやって来たのは、王宮の中庭にあるガラスの温室だった。
今日はいつもより少し肌寒いから、この中ならクラウディア皇女も身体を冷やさずに済むからね。
「クラウディア殿下、どうぞ」
「はい……」
それから第一王子とクラウディア皇女が丸いテーブルを挟んで向かい合わせに座りながら、談笑をする。
僕達はといえば、それを遠巻きに見守っていた。
とりあえず、二人の面談は終始穏やかに進み、会話も弾んだようでクラウディア皇女にも時折笑顔が窺えた。
一方の第一王子も、そんな彼女の気を引こうと、一生懸命自分のすごさをアピールする。その中には、あの狩猟大会でのアイトワラスを仕留めた話も。
「……厚顔無恥なところは、一向に治っておられませんね」
「あ、あはは……シア、今度はもっとすごいドラゴンを仕留めますから……」
「そ、そんなことは絶対にお止めくださいね!」
眉根を寄せるシアに苦笑しながらそう言うと、彼女は顔色を変えて必死に止めた。
もちろん、僕がドラゴンに後れを取るとは思っていないけど、それでも、こんなにも心配してくれるシアに、僕は胸が熱くなる。
「分かりました。ですが、もしあなたに危害を加えるようなドラゴンが現れた場合には、僕は絶対に屠りますから」
「もう……そ、その時は、私もあなたと一緒に戦いますから……」
そう言って口を尖らせながら、シアは僕の手を取ってくれた。
ああもう、やっぱりどう考えてもシアが世界一可愛い……って。
「クリス?」
「ほら、ニコラス殿下とクラウディア殿下がお呼びだよ」
不機嫌そうな表情を浮かべながら隣に来たクリスが、そう言って僕の背中を押した。
全く……せっかくのシアとの楽しい空間を邪魔するなんて、あの二人、どういう了見だ。
仕方ないので、僕とシアは二人のテーブルへと向かう。
というか、呼ばれているのは僕達だけではないようで、王宮の使用人達が慌てて二人のテーブルを囲むようにテーブルと椅子を設置し始めている。
「クラウディア殿下、こちらがマージアングル王国の小公爵、ギルバートだ」
「ギルバート=オブ=ブルックスバンクと申します。そして僕の隣が、婚約者のフェリシア=プレイステッドです」
「フェリシアと申します。ブリューセン帝国の星、クラウディア殿下にご挨拶申し上げます」
「フフ、そう硬くならないでください。今日は、“王国の麒麟児”と帝国でも名高いギルバート様と、そのギルバート様が愛してやまないと噂のフェリシア様にお会いしたかったのです」
「僕達に、ですか……?」
「はい」
おずおずと聞き返す僕に、クラウディア皇女はニコリ、と微笑んだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きあが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!