第一王子と従者候補の顔合わせ
本日から更新を毎日昼12時のみとします。
「みんな、準備はいいか?」
「「「「「……(コクリ)」」」」」
僕の言葉に、シア、クリス、それに従者候補達が緊張した面持ちで頷いた。
それもそのはず。明日のクラウディア皇女との面談に向け、第一王子と従者候補との顔合わせを兼ねた打ち合わせを行うのだから。
一応、従者候補は全員、王立学院の生徒でもあるので第一王子と面識はあるものの、ソフィアに懸想して色々とやらかした経緯があるので不安で仕方がない。
むしろクラウディア皇女との面談のほうが、ハードルは低いとさえ思ってしまう。
「とにかく、いざとなったら僕が第一王子を分からせるので心配しなくてもいい。君達は、明日のことに集中しておいてくれ」
「「「え、ええ……」」」
そう告げても、従者候補達の表情は晴れない。
とはいえ、これ以上はどうしようもないので、僕達は屋敷を出て王宮へと向かう。
「ギ、ギル、心配はいりません。あのフレデリカ妃殿下もいらっしゃいますし、国の大事だと認識すれば、何を優先すべきか分かっているはずです」
馬車の中、シアが僕の手を取って必死に励ましてくれている。
うう……そんな彼女の優しさが心に沁みる……。
「だ、大丈夫です。少なくとも従者候補の子息令嬢は完璧に仕上がったのですから、あの第一王子がいくら残念でも、何とかなるはずです」
「は、はい! そのとおりです!」
僕とシアは、まるで無理に不安を払拭しようとするかのように、力強く頷き合う。
と、とにかく、話を変えることにしよう。
「そ、それにしても、ここ二か月近くは第一王子の婿入りのためにばたばたしたせいで、僕もシアも学院に満足に通えませんでしたね」
「そ、そうですね……早く日常に戻って、あなたと幸せに過ごしたいです……」
「シア……」
うつむくシアを見て、僕は彼女の隣に移り、肩を抱いた。
「ねえ、シア……今回の一件が終わったら、その時は二人だけで旅行に行きませんか?」
「ふあ……りょ、旅行ですか?」
僕の言葉に、シアはサファイアの瞳を輝かせた。
「はい。誰にも邪魔されない、二人だけの旅行です。こればかりは、クリスやリズはおろか、ゲイブ達も連れて行かずに、本当に二人で」
「ふわあああ……! は、はい! 是非とも行きたいです!」
「あはは、よかった。ただ、その場合は僕が馬車を運転することになりますが」
「ふふ! でしたら私も、あなたと一緒に御者席に座ります!」
「ええ! なので、旅行先を考えないといけませんね!」
「はい!」
よかった……シア、すごく喜んでくれた。
うん、そうと決まれば旅行先を選ばないとね。
「ふわあああ……楽しみです……!」
「僕もすごく楽しみです!」
そうして僕とシアは、王宮に到着するまでの間、旅行の話に花を咲かせた。
◇
「ふふ、早く行きましょう!」
王宮に到着するなり、はしゃぐシアが僕の手を引いて中に入ろうと急かす。
あはは、そんなに旅行のことが嬉しかったんですね。僕も同じですよ。
「むう……怪しい……」
そして、そんな僕達を訝しげに観察するクリス。
とにかく、彼にはバレないようにしないと、その頭脳を使ってどんな手で阻止してくるか分からないからな……。
なので。
「(シア、クリスには悟られないようにしましょう。これは、僕とあなただけの秘密ですよ?)」
「(ふあ!? そ、そうでした、嬉しくてつい……)」
シアを引き寄せてそっと耳打ちをすると、シアは恥ずかしそうにしながら身体を小さくした。
どうしよう……そんなシアが可愛くて、僕はさらに彼女を抱きしめてしまった。
「コホン! コホン! ここは王宮なんだから自重しなよ!」
「お、おお……」
「は、はい……」
思いきり咳払いをするクリスにたしなめられ、僕とシアはすぐに離れた……んだけど。
「あ……ふふ」
「あはは……」
僕とシアの手は離れまいとして、一生懸命互いの指を絡めていた。
そして、後ろから睨んでいるクリスに気づかないふりをしながら王宮内を進み、今日の面会場所となる部屋へと入ると。
「ウフフ、待っていたわ」
「…………………………」
そこには、羽扇で口元を隠しながらにこやかに微笑む第一王妃と、仏頂面で明後日の方向へと顔を向けている第一王子がいた。
その様子を見る限り、第一王子はまだ受け入れてはいないようだ。
「フレデリカ妃殿下、お久しぶりです」
「ウフフ、いいんですよ。それより小公爵殿、今回も色々と骨を折ってくださって、心から感謝します」
「もったいなきお言葉」
嬉しそうに話す第一王妃に、僕は恭しく一礼した。
「それでは、早速顔合わせといきましょう」
そう言うと、従者候補の四人が一列に並ぶ、
「まず手前から、宰相閣下のご子息のクリフ殿です」
「クリフです。ニコラス殿下、向こうでも引き続き、どうぞよろしくお願いします」
「次に……」
そうして順に、四人全員の紹介を済ませた。
「では、続いて明日のクラウディア皇女との面談についてですが……」
そう、話を進めようとしたところで。
「待て! 私はまだ隣国の皇女と会うことを受け入れたわけではないぞ!」
この期に及んで第一王子は、まだそんなことを宣っていた。
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