五十年前の真実②
「マリアという人物は、明かさないことにするよ」
そう言って、クリスは微笑んだ。
「そう、か……」
僕は、クリスの答えにただ頷く。
彼にとって、アンダーソン家の復興は何物にも代えがたいものなのだろう。これまで泥水をすすってきた彼だからこそ、その選択を選ぶことに僕は素直に賞賛を送ろうと思う。
「分かった。だが、クリス以外はまだ真相が分からないだろうから、ここで僕から話しておこう。ただし、クリスがそう選択した以上、決して他言しないように」
そう告げると、シア、リズ、そしてゲイブはゆっくりと頷いた。
「うん……その“マリア”という人物。それは、マージアングル王国先々代国王陛下の妻の一人であり、第二王妃だ」
「「「っ!?」」」
「やっぱり、ね……」
シア達が息を呑み、クリスは目を瞑りながらかぶりを振る。
「で、ですが、どうして王族である第二王妃が、そんなことをされたのですか!? どう考えても、王国にとって不利益をもたらすとしか思えないのですが!?」
「シアの疑問ももっともです。ただ、これには裏があります」
「「「「裏!?」」」」
「はい」
王族とまでは分かったものの、その背景までは分からないクリスも、みんなと同じように驚きの声を上げる。
「実は、そのマリア王妃の出自に重要な事実があるんです」
「それって……?」
「……マリア王妃は、あのバルディリア王国の王女です」
「「「「っ!?」」」」
そう……ヘカテイア教団の本拠であるバルディリア王国の第三王女だったマリア王妃は、バルディリア王国とマージアングル王国が友好関係を結ぶため、政略結婚によりこの国へと嫁いできた。
その裏には、この王国にヘカテイア教を布教する目的を抱えて。
そのため、ヘカテイア教団はこの国に教団支部を立ち上げようとして、マリア王妃を通じて色々と画策した。
だが、残念ながら政略結婚であったがために、先々代の国王陛下はマリア王妃への愛情はなく、彼女の言に耳を貸そうとはしなかった。
加えて、当時の第一王妃とマリア王妃との関係もよろしくなく、他国の王女である彼女は王宮内でもそれほど力を持つことができなかった。
とはいえ、それでも第二王妃であり、下位貴族にとっては手の届かない存在であることは間違いない。
だからヘカテイア教団は、別のやり方で力を手に入れようと考えた。
「……それが、アボットによる不正行為の数々、ということですか」
「はい」
シアの呟きに、僕は頷く。
それに加え、当時のアンダーソン伯爵は第一王妃を支持する派閥の急先鋒の一人だった。なので、これらの謀反を疑われるような行為をアボットに行わせ、しかるべき時にその事実を晒すことで、敵となるアンダーソン家を潰したのだ。
「アボット初代子爵も、家令とはいえ当時は一介の使用人に過ぎない。なら、第二王妃からそのように命令されてしまっては、受け入れるしかなかったのでしょう。いずれにせよ断れば、そのことを理由にアンダーソン家とアボット家、両方破滅の道しか残されていないから」
「な、なんて卑劣な……!」
サファイアの瞳に怒りを滲ませ、シアが唇を噛んだ。
「そうしてヘカテイア教団はまんまと資金、武器、人員を手に入れ、敵であるアンダーソン家を滅ぼしたんです」
「ですが坊ちゃま、そうするとヘカテイア教団はこの王国内にいる、ということですか?」
「いや、それはない」
ゲイブの問いかけに、僕は首を左右に振った。
「それはどうしてですか?」
「実は、このマリア王妃というのは、五十年前の事件から二年後、幽閉されてしまっているんだ」
「「「「幽閉!?」」」」
「そうだ。その事実が示すことは、その事件がマリア王妃の手によるものだということを、王宮が……国王陛下がつかんでいたということを意味する。ならば、教団についても同様に壊滅させられているはずと考えるのが妥当だろう」
まあ、妥当も何も、原作者の僕が言うのだから間違いない。
実際に、小説本編でも王国内にヘカテイア教団がいるなんて言及は一切していないし。
「いずれにせよ、再度王宮の文献を確認しないとその事実関係は分からないが、少なくともこれは王国にとって最大の汚点。だからこそ、マリア王妃の名を明かすことはできない。その代わり、その事実をつかんだ僕達……いや、クリスは、それ以外に関しては最大限譲歩してもらえるはずだよ」
「あ……」
だって、そうしなければ汚点が世間に晒されることになってしまうし、王国が下手な真似をしたら、この僕が晒してやる。
僕自身の名誉なんて気にしてはいないが、ラスボスとの戦いに確実に戦力になるであろうクリスの信頼をなくすわけにはかないからね。
なにせ、これまで出会ったヒーロー達の中で、唯一といっていいほどまともそうだから。
「だからクリス……あとはこの証拠の品を王都へと持ち帰り、僕達と一緒に王国による沙汰を待とう」
「うん……うん……っ!」
感極まったクリスは、大粒の涙をぽろぽろと零しながらも、その表情は雲一つない青空のように晴れやかな笑顔だった。
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