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五十年前の真実①

「それは……本、でしょうか……?」

「まずは読んでみましょう」


 おそるおそる尋ねるシアと一緒に、僕は見つけた日記を開く。


 そこには。


「……これは、初代アボット子爵の日記のようですね。それも、まるで罪を告白するかのような」


 そう呟き、僕はクリスにその日記を手渡す。

 なお、書いてある内容はこうだ。


 初代アボット子爵は、アンダーソン家の家令を務めている時に、ある人物(・・・・)から仕事を持ちかけられた。

 もちろん、既に明らかになっている武器の調達や傭兵の雇用、それに禁止薬物等の売買だ。


 最初は初代子爵もすぐに断ったようだが、その人物に脅迫され、渋々引き受ける羽目になった。

 加えてその人物は、取引をアンダーソン家によるものとして偽装し、書類も全てアンダーソン伯爵の名前で行うようにと指示した。


 だが、ここで初代子爵は一計を案じ、表向きの契約はアンダーソン家が行ったように見せかけ、実際は初代子爵の名で行い、その事実を書類として全て残しておいた。


 いつか、その真相が明かされる時のために。


 とはいえ、結果としてその人物の思惑どおり、不正取引が暴かれると共に謀反の嫌疑をかけられ、アンダーソン家は取り潰しとなり、一族郎党が処刑された。


 一方で、初代子爵はその人物からの報酬として、爵位とアンダーソン家の領地を与えられた。

 本来であれば口封じとして初代子爵は消されてもおかしくはなかったのだが、初代子爵は巧妙に取引事実が記された書類の存在を臭わせ、自分の身に何かあった場合には世間に公開されると脅した。


 このため、その人物は仕方なく初代子爵に爵位とアンダーソン家の領地を与え、懐柔することで口を封じることにした。


 そして、初代子爵は部下に指示し、全て処刑されたと思っていたアンダーソン家の者を一人だけ(かくま)わせていた。

 その際に、証拠の品の一部と旧屋敷の見取り図を持たせて。


「……つまり、初代アボット子爵が絶対に断れない人物の指示で、無理やりアンダーソン家に罪を着せるような真似をさせた、ということだね」


 うん……前世の僕はただの設定として考えた程度の出来事でしかなかったんだけど、いざ自分の身近にいる者の人生を狂わせていたのかと考えたら、本当に反吐がでる。


 何だって前世の僕は、こんな物語を書いたんだよ……。


「じゃあ何? アボットは悪くなくて、そのそそのかした奴が悪いとでも言いたいの?」


 その幼い顔をまるで鬼の形相にし、クリスが僕に食ってかかる。

 当然だ。今までのアボット子爵への恨みつらみを、全部否定されることになったと感じたのだから。


「まさか。初代アボット子爵は間違いなく罪を犯し、アンダーソン家を破滅に追いやったんだ。そしてクリスは……アンダーソンの一族は、アボット家を憎む権利がある」

「あ……う、うん……」


 僕がそう答えるとは思いもよらなかったのか、クリスは鬼の形相から面食らった表情に変わった。


「それでギル……その、ある人物(・・・・)として登場している、この“マリア”という女性は一体何者なのでしょうか……?」

「はい……」


 そう……その人物こそが全ての元凶で、僕達をこれから先の運命へと導く人物。

 この物語は、全てはこの女が始まりなのだから。



「……クリス、この“マリア”の正体を明かす前に、一つだけ確認しておきたい」

「ど、どうしたの……?」


 僕はクリスを見据えてそう告げると、彼は少し驚いた様子で聞き返す。

 だが、僕の様子が普段と違うことを感じ取ったのか、すぐに姿勢を正した。


「今回の五十年前の事件の真相を知り、白日の下に(さら)す場合、その“マリア”という人物に関してだけは伏せられることになるだろう。それでも構わないか?」

「あ……ひょ、ひょっとして……」


 はは、今の僕の言葉で、すぐに思い至ったか。

 さすがはクリス、シアの参謀役だけのことはある。


「そうだ。それで……どうする?  “マリア”という人物を明かすことも可能だが、その場合はアンダーソン家の復興は果たされないだろう。もちろん、その場合であったとしても、このブルックスバンク家が君を保護することを約束する」

「…………………………」


 僕がそう告げると、クリスは押し黙った。

 彼にとっては難しい選択になるだろうが、僕はどちらを選んだとしても力になろう。


 だから。


「クリス、忘れるな。僕達は、君の味方だ(・・・・・)

「っ! ……う、うん!」


 クリスは、その一言で(とび)色の瞳を輝かせた。

 どうやら答えが出たようだ。


「ギルバート……ボク……ボクね……?」


 僕達は、クリスの次の言葉を待つ。


 そして。


「マリアという人物は、明かさないことにするよ」


 そう言って、クリスは微笑んだ。

お読みいただき、ありがとうございました!


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