修羅場仕様の部屋
「小公爵様のお部屋はこちらになります」
アボット家の使用人に案内され、僕達はそれぞれ部屋をあてがわれた。
それも、僕や婚約者のシアはともかく、クリスやリズ、ゲイブをはじめとした騎士団の面々にまで、個室を用意するとは思いもよらなかった。
ただ。
「……どうして隣同士の部屋が行き来できるようになっているんだ?」
「はい、こちらはご夫婦のお客様用となっておりまして……」
いや、夫婦で行き来ができるようにという配慮は、それはもう充分理解できる。
何なら、屋敷に戻ったらシアと僕の部屋も同じように扉をつけて行き来できるようにしようと考えていたところだ。
だが、どうして反対隣の部屋とまで行き来ができるんだ?
これでは本妻と妾という、明らかにハーレム仕様……あるいは修羅場仕様じゃないか……。
「へえー……ボクとギルバートの部屋って、行き来ができるようになってるんだね」
そう言いながら、期待に満ちた表情で僕の顔を覗き込むクリス。お願いだからやめてくれ。
「ふふ、私もギルのお部屋と往来が可能です。まあ、婚約者ですから当然なのですが」
微笑みながら婚約者であることを強調しつつ、そう言い放つシア。
今日もまた、無意味な争いが繰り広げられている。
「わ、私も、ギルバート様のお向かいのお部屋ですから!」
そしてリズ、どうしてこの二人の争いへの参戦を希望する。
ハア……まあ、今夜は色々と忙しいし、どうせみんなには僕の部屋に集まってもらわないといけないから、別にいいか……。
「ハハハ……坊ちゃまも大変ですなあ……」
「うるさい」
苦笑しながらそんなことを言うゲイブに、僕は思わず悪態を吐いた。
「では、晩餐の準備が整いましたら、改めてお声がけいたします。それまで、どうぞごゆっくりお寛ぎくださいませ」
そう言うと、使用人は恭しく一礼してこの場を去った。
「あ、あはは……時間もあるし、シア達はお風呂にでも入ってきたら?」
「ふふ、そうですね。やはり、あなたの前では綺麗な姿でいたいですから……」
シアは、頬を朱色に染めながらはにかむ。
「むう……じゃあボクもお風呂に入ってくる!」
いやいや、なんでクリスが対抗意識を燃やすんだよ。
というかお前、綺麗になりたいのか?
「リズ、あなたも私と一緒に入りましょう」
「はわ!? わ、私がですか!?」
「ええ」
シアに誘われ、驚きつつも恐縮するリズ
でも、リズもまんざらでもない様子だし、シアもシアで決定事項のようだ。
「あはは。クリス、僕達も男同士で一緒に、お風呂にでも入るか?」
「ふええええ!? むむむ、無理! ギルと一緒にお風呂だなんて無理だよ!」
冗談でそんなことを言ってみると、クリスは耳まで真っ赤にしてわたわたする。
? 別に男同士なんだから、そんなに恥ずかしがる必要もないだろうに……。
「ハハハ! では坊ちゃま、久しぶりに私と入りますか?」
「そうだな。たまには一緒に汗を流すとしよう」
「ふええ……」
ということで、僕達はそれぞれお風呂に入ることにした。
しかしクリス……変な奴。
◇
――コン、コン。
「小公爵様、準備が整いました」
お風呂から上がって服を着替えた僕は、窓を開けて涼んでいると、使用人が呼びにやって来た。
「分かった。廊下で待っていてくれ」
「かしこまりました」
使用人が一礼して部屋から出るのを見届けると、僕はまずシアの部屋に繋がっている扉をノックした。
「シア、よろしいですか?」
「はい、どうぞ」
シアの了承を得たので、扉を開けて中に入ると……おおおおお……!
「いかがでしょうか……って、ふふ、ありがとうございます」
「え!? ぼ、僕、まだ何も言ってないですが……?」
「ふふ、そのお顔を見れば分かります」
そう言って、頬を染めながらクスリ、と微笑むシア。
あ、あはは……まあ、僕とシアの関係も長くて深いからね。僕が彼女に見惚れていることくらい、気づかれて当然か。
「ですが、改めて言わせてください。シア、やはりあなたは世界中の誰よりも……女神よりも美しく、その胸の『女神の涙』よりも輝いています……」
「ふあ……ありがとうございます……」
シアはそっと僕の胸にしな垂れかかり、嬉しそうに頬ずりをした。
僕はそんな彼女のプラチナブロンドの髪を優しく撫でながら、彼女の全てを堪能する……んだけど。
「じー……」
「え、ええとー……リズ?」
当然ながら、シアの支度のお世話をしていたリズは最初からこの部屋にいるわけで、つまりは僕とシアの仲睦まじいやり取りを見ているわけで……。
「……まあ、いいんですけど。それよりギルバート様、フェリシア様、早く行きましょう!」
「あ、ああ……」
「え、ええ……」
何となく気まずい雰囲気になった僕とシアは、とりあえずリズの言うとおり向かうことに……「あああああ!」……って、今度はなんだ!?
僕は慌てて振り返ると、そこにはドレスで着飾ったクリスがいた。
というか、女性の姿をしているのに全く違和感のない……いや、それどころか王国内でも滅多にお目にかかれないほど美人のクリスに、僕は混乱するばかりだ。
「むうう……そ、そりゃあ婚約者であるフェリシア様が最優先なのは分かるけど……」
などと訳の分からない拗ね方をするクリス。
分かっているなら、変に絡むのはやめてほしい。
「さ、さあ! 早く行こうよ!」
「あ、ああ……」
「え、ええ……」
僕とシアは戸惑いつつも、クリスに引っ張られながら晩餐会の会場へと向かった。
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