14 第十局 3五歩を「さ・こ・ほ」と読んで並び替えると、後輩の本名「沙歩子」になることに最終話まで気付かなかった
さて、こちらはパンツ一丁になってしまった。厳密にいうとボクサーパンツ一丁。
この最後の一枚を後輩に「あーれー」と剥ぎ取られてしまうと、この勝負、こちらの完全敗北ということになる。
自分を見下ろす。
う……、やっぱりもっこりが気になる。ので、なるべくシワっぽく見えるよう布地を寄せたい……が今股間をさわるとか変態扱いされそうで、さわれない……。度し難い……。
対局が始まれば先の手を読むために集中するし、強制的に「考える人」モードに切り替わって、たぶん収まってくれると思うんだが。どうかな。こと性に関しては自由で、奔放で、コントロールのきかないアグレッシブなムスコのことだ。意図通りにしぼんでくれるという保証はない。
(ウサコは強い。真剣にやらないと普通に負けるしなあ……)
そういやここまで連続して指していると、タイトル戦の番勝負をやっている気分になるな。
次で十局目。
けっこうやってるなぁと、どこか感慨深い気持ちになる。確か何年か前に、将棋界でそういうのが実際あって話題になってたな。夏の十番勝負? いや十二番勝負だったっけ?
こちらにはもう後がない。これを落とすと、後輩の目前で羞恥せしめられ、先輩たる俺の威厳も地に落ちる。そのバッドエンドを回避する方法は――残された選択肢は――ただ勝ち続けること! それのみ! だ!
うん? 妙にテンションが上がってきた。追い詰められて、逆に肝が座ったか。目標がシンプルにわかりやすくなったのが功を奏したか。とにかく今までの心持ちとは何かが違う。言ってみれば今の俺は、ありとあらゆる雑念から解き放たれた、清澄な抜身の剣――
「よいしょっと……」
ちょっと後輩さん! わざとらしく座り直しながら、いちいち胸をたゆんっぷるんって揺らすの止めてくれません!? 気が散るんですけど! というか気になるんですけど! ついでに俺の剣もドクンドクンするんですけど!
という心の叫びは、彼女には届かない……。もし届いてたら死ぬ。
「じゃあ、よろしくお願いしまス」
「お、おぅ、お願いします」
第十局。俺が先手だ。対局、開始。
気持ちだけは負けるわけにはいかない。ここは攻め重視で、攻撃的な作戦で後輩を粉砕せねば……。しかし攻撃的……ねえ?
しばし熟考し、〈石田流三間飛車〉を目指すことにした。
まずは石田流の提示。▲7六と突いた歩をさらに伸ばし、▲7五歩とする。いちおうここから〈早石田〉という速攻をしかける手もあるが、ほぼハメ手だし、きちんと対応されたらその時点でこちらが劣勢になる。ここまでハメ手満載のマイナー戦法を連採してきた後輩だ。有名な早石田はすでに研究済みだろう。
(さて、後輩はどう来るかな……。こちらに構わず、また奇襲っぽいマイナー戦法か、居飛車か、振り飛車か……。ほんと、何局指しても、まったく傾向がつかめないなぁ……)
そう思いながら次の一手を待っていると、むこうは一向に指す気配を見せない。どうした? と盤面から顔を上げて彼女をうかがうと――
「………………」
ブラ姿の後輩は、じっとしたまま動かない。いや、視線は俺が今突いた歩を見ているような?
彼女はそれからも、まだしばらくじぃっとしていたが――それからホッと息を吐いた。
「なんだ……、7五ッスね……」
ぽつりとしたつぶやき声が聞こえてきた。
「ん? どうかしたか?」
つい尋ねてしまったが、
「ん〜? いやなんでもないッスよ? 先後逆で勘違いしてたッス」
後輩は今の形に何か気になることでもあった?
(先後逆?? 先後を逆にすれば……ここで何かあった、のか?)
考えてみるが、何も思いつかない。わからない……。うーん? もし後輩の発言にヒントがあるとすれば――
(符号かな? 7五? ▲7五歩? もし俺が後手だったら、今の手は△3五歩になるな。3五歩? 3五歩に何かあるの……かな?)
しばらく考えてみたが、やっぱりわからない。うーん? なおも考えていると、彼女がこちらの気配に気付いたらしい。
「あ、なんでもないッス……。ないッスよ? こっちのことッス」
えー、そう言われても気になるんだが……。
あーっ、もう! これも翻弄作戦のひとつか!? こいつぅ! と思ってヤツをにらみつけようとしたが――彼女の表情がどこかおかしい。
いや、おかしいわけではない。どこもおかしくはないのだが――やはりいつもと違う?
今現在絶賛ブラ姿で見事な谷間と柔肌を披露していて――ええい、今はそれはいいとして! 何かよくわからないけど、後輩の発する気配がちょいちょい普段と違っているのは確かだ。そして今は、
(どっちかといえば……うれしがってる?)
感じた印象をなるべく正確な言葉に置き換えると、「ニヨニヨしている」というのがいちばん近い。しかし今の俺の手に、ウサコが嬉しがる要素がある……とも思えない。
(あー、やっぱりわかんね……)
あきらめて盤面に集中しよう。
――このとき後輩が何を思っていたか。俺が知るのはもっと後のことだ。コトが終わって、多幸感に包まれながら、ベッドの中でぬくぬく抱き合って、俺の腕の中に裸の彼女がぴったりぴっとりと収まっているときに、あの甘いささやき声が教えてくれるまでは。
ほんと、気付かないよな。
▲△▲△▲△▲△
さて、こちらの陣地は、石田流の布陣を着々と組み上げていく。
飛車を7筋に振って浮かせ、飛車下に銀桂を配置する。角とも好連携の積極的かつ攻撃的な陣形だ。
対して後輩の手は、今回は意外なほど素直だった。俺の手に追随して居飛車の陣形を整えていく。マラソンなんかにたとえると、先手である俺が一手先を走り、後輩がピッタリ追走する感じだ。ただ、一見後塵を拝しているように見えても「そちらがミスれば一気に反撃するッスよ?」という意図も含んでいるので、じわじわとプレッシャーが伝わってきて、逆に恐い。
うーん、まだもう少し持久戦模様が続くかな? それなら玉の囲いを〈美濃囲い〉から、〈高美濃〉さらには〈銀冠〉へと発展させていくのも一つの手だ。
(どうするかな……)
と思っていたら、先に後輩が動いてきた。
おっ、来たか。機敏な動きだが――あれ? でもさっきまでこっちの手に合わせてたのに、今度は急に攻めてきて動きに一貫性がない。チグハグな印象を受ける。それに今そっちから来るのは、ちょっと無理攻めっぽい気もする。こっちは美濃でも囲いは十分。けど後輩陣はまだ囲いの途中っぽく見えるんだが!?
おたがい飛車側の陣地で戦いが繰り広げられた。七局目の、後輩が箱入り娘になった対戦でもそうだったが、居飛車対振り飛車の〈対抗形〉らしい戦いだ。
取って取られて打ち込んで、突いて垂らして叩き合い、ねじり合う。
この過程で、こちらは左桂を〈さばいて〉手持ちにすることに成功し、飛車交換も実現できた。たぶん形勢はこちらの〈やや良し〉。そしてすかさず後輩陣地の深いところに、バシッと飛車を打ち下ろす。
後輩は5五の中央地点に角を居座らせ、間接的に俺の玉をにらむ。あ、これ美濃崩しの定番のやつだな。タダのところに桂馬で王手かけて、取ると角のラインが玉を直射するから、取るに取れなくて、逃げるしかない。
確かに美濃囲いの最大の弱点はここだ。仮に玉が逃げても、銀や金を使って追い込まれると、あっさり敗勢まで持っていかれる。ネットの対局でも何度もやられている手筋だ。
痛い目を見ると、そのときは悔しいから「次は絶対この形にしない! させない!」としっかり肝に銘じる。けれどその悔しさを忘れたころにまたこれが来て、似た感じでまたボッコボコにやられる――というパターンだったりする。
そんな過去の苦い思い出をたどりつつ、「悪いのは俺のへっぽこ記憶力か! コンチクショーッ!」と後輩が桂馬を打ちたいはずのところへ、逆にこちらから桂馬を打って相手の玉頭にプレッシャーをかけた。
〈敵の打ちたいところへ打て〉。まさしく将棋の格言通り。これが俺の勝負手だっ! どやっ!
「む〜っッス!」
後輩は明らかに不満顔。自分の意図をあっさり見破られて、ちょっとカチンときたかな? ふふん、後輩よ、もっとカチンとするがよい、そうすると俺の股間のカチンも収まり……あれ? なんでカチンコチンのままなの!?
というかムスコ君、テント張りそうじゃないか、なぜだ! 対局が始まると収まってくれるものと思ってたのに! 話が違う!
「……そういえば先輩って――大きいッスよね?」
唐突に後輩がしゃべりはじめた。
「何が!?」
「手ッスよ、手。先輩のお手々がッス!」
よかった……。話題が「おてて」なことに安堵する。
よかった……。話題が「おまた」じゃなくて。
「そうかな?」
ぢっと手を見る。
「普段はあんまり感じないスけどね。同じ盤の上で自分の手と見比べるからッスかね? あらためて見ると、おっきいなぁって思うッスよ?」
「そ、そうか……?」
「褒めてるんスよ?」
「お、おぅ……。ありがと?」
「む〜、わかってないッスね!」
バシッと攻勢に出てくる後輩。おっと危ない。しばらく手がパタパタと進む。
「……そういえば先輩、どうッスか? 今の気分は?」
「今の気分とは?」
「え〜? パンツ一丁で将棋指している気分ッスよ〜?」
「たいへん涼しいです」
「あれ? 意外に普通の答えッスね」
「まあ、対局中だからな」
「そうッスか……」
パチッ、パチッ、駒の音。
「そういえば先輩、大きいッスよね?」
「……だから何が?」
話が堂々巡りしてるぞ!? いや盤面に集中、集中……。
「ん〜? え〜っとぉ? おまたの話ッスよぉ〜?」
わぁい、後輩の声がニンマリしてきたのがイヤでもわかるぞー。
「な、なんのこと、カナー?」
「え〜、とぼけないでくださいよぉ〜、どう見ても大きくなってるじゃないッスか。どうしたんスかね〜?」
「いやどうもこうも、何もないよ? なんともないよ? 普通だよ? ごく自然なことだよ?」
「ほんとッスか〜?」
「ほんとだよ! おまえ勝負に集中しろ!」
「ん〜? でもぉ、先輩は『見られてコーフンするタイプ』なんスかね〜?」
いかん、話題がだんだん桃色な方向へ流れ出した。何か話題を変えねば……。
と、盤面に目を走らせて気付く。おっ、これもうちょっとで詰みそうじゃないか? 横から追っていって、後輩の玉が上部脱出しようとしても、さっき打った桂馬がきっちり仕事して相手玉を抑えているから――
「うん、俺は今、すごくコーフンしてるぞー(棒)」
勝ちが見えてきたからなっ! 勝てそうになると、アドレナリンが出るんだよっと、パシィッ!
明らかに今までと異なる駒音に、後輩もハッとした顔になった。
ふっふっふ、後輩よ、今ごろ真剣になって前傾姿勢になっても……ちょ、谷間そんなに強調しないで、おまえ無防備すぎ……。
俺もやや前かがみになりつつ、なんとかごまかせないかとパンツまわりの手直しを試行錯誤しつつ、しばらく手が進んだ。
後輩は龍をぶった切ってこちらの守備の金と交換し、それを自陣に打つ粘りをみせたが、俺はさらにと金をつくってじわじわと迫る。やはりさっきの桂馬がよく働いていて、後輩玉を上部脱出させない。ずいぶんと指しやすい。そして――
▲△
「ま、負けました……ッス?」
信じられないという顔つきで後輩が投了した。こいつめ、けっこう自分が優勢だと思ってたな。
「ぐぬぬぬ……」と後輩がうめいている。俺の口癖がうつってきてる……。
「見落としてた?」
聞いてみると、
「う〜ん、どうッスかね……。見落としというか、見えてなかったというか。先輩が急に強くなったというか」
「お? 俺強くなった?」
「今回は……ッスけど、ね」
ふふん、くやしそうだな。
「ん〜、先輩は股間に血液集まってるはずですから、頭の血は足りてないと思ってたんスけど。違ってたッスかね〜?」
なんかさらっとすごい理屈言ってね!?
「まあ、次ッスね、次」
すでに気持ちを切り替えつつある彼女。切り替えの早いやつだなぁ。
「すぐやる?」
「いいッスよ〜。でもその前に……」
その前に……。ごくり……。
「先輩お待ちかねの、脱ぎ脱ぎタイムッスよ〜?」
やっぱりやるのか……。俺はがんばって興味ないフリを装うが、どうしても内心期待してしまうのを止めることができなかった。
▲△
後輩の上半身は、ブラの一つだけ。下半身は、まだ黒タイツとパンツの二つが残っている。
「普通にこっちッスかね」
腰まわりのゴムをクイクイする後輩。
彼女の手もとに自然に目が行くので、腰周辺をねっとりと拝見することになる……。
俺がじーっと見ていると、
「な、何ッスか、わたしのおなかが出てるッスか?」
「いや、逆だ、逆。めちゃくちゃ細い」
「そうッス……、か……」
またニヨニヨ顔になってるな。
「よ、よ〜しっ、ッス」
後輩が膝立ちになった。鼻息もちょっと荒くなっているようだ。す〜、ふ〜ん、っと深く息をしてるせいか、お胸がこんもり盛り上がり、胸部が大きく上下して……。
「おっといけない! パンツごと脱ぐとこでしたッス(てへぺろ)」
「おい!」
するするとタイツがすべっていく。まずパンツ――ショーツだな、今までタイツの内側に引きこもっていたのが、その存在をにわかに主張し始めた。
う……、かなり薄手の生地っぽくないか!? それに柔らかくて肌にやさしそうな……肌触りのよさそうな、ぜひともさわりたくなりそうな……。
さらにタイツが下がっていく。
あらわになる後輩の太もも。ショーツとタイツのはざまの肌領域が、少しずつ広がっていく。
膝のところまで脱いだところで、後輩はまた座りなおし、お尻をぺたんとついて、ちょっと足を上げ気味にしつつ、うまいこと足を動かして、その場でするすると脱いでいった。
片方の裸足の爪先から、タイツが抜けていく。こいつの足、先まできれいだな……。
(って! 見とれてなんかないぞぅ!)
と視線を足先からずらしたところで、今度は彼女の股間をロックオンしてしまった。後輩が足を上げたり動かしてるせいで、ちょっとお股が広がっている。そして下着の薄布の中央部分――
(あれ? ちょっと湿っぽい? ように見える?)
んー? さらに凝視する。
(これはやはり……ちょっとお湿り状態じゃないか!?)
まさか……、と思う。後輩が湿潤状態になってている……。
――ヒクッ、と突然こちらの部分に電気が走った。おっ……、おぉ!? ちょっと待て、俺の子よ。そんなに元気になろうとされると、今は、今は、大変困る……。
こちらの視線を知ってか知らずか、タイツを脱ぎ終えた後輩は、また正座に座り直した。
足裏がお尻にくっついているせいか、尻肉がややむっちりと主張しているのがこちらからもわかる。それにタイツの束縛から解放された太ももも、柔らかさを増しているようだ。ふくらはぎとくっついて、とにかくふよふよ感が増大している。
ふむ。あのタイツも、キャミソールみたいにかなりストレッチが効いていたのかな。窮屈感が消えて、後輩の足がほっとひと息ついているように見える。しかし――
ついに後輩が、ブラとショーツだけの「あられもない姿」になってしまった……。しかも彼女をこんな姿にしたのは、誰だ?
もちろん俺だ。
実際に手をふれていないとはいえ、俺が彼女を脱がしたのと実質的に変わりはない。
目の前で一枚一枚脱がし、肌を露出させていくわくわく感。一方で、これでいいんだろうか……というほのかな罪悪感。
でも別に後輩はイヤイヤやってる感じでも……ないんだよなあ。顔は赤いから、恥ずかしがってるのだけは確かなんだが。
「ほんじゃ〜、次やるッスか」
「お、おぅ……」
俺たちの対局は、もうちょっとだけ続く。




