12 休憩 スタミナ?補給
第八局は、なんとかこちらの勝利に終わり――
「ぬ〜〜〜〜、完敗っす……」
後輩が頭を下げた。
つられて俺も頭を下げる。
礼儀正しいな、後輩。
けど、今のこいつの姿はキャミソールにブラ、タイツにパンツだけ。全然礼儀正しくなくて、かなりふしだらな格好だけどな。
「ふひぃ〜、こんな手があるんスね〜」
「知らなかった?」
「知らなかったッスよ?」
「知らないふりをしてるだけじゃないかって、ヒヤヒヤしてた」
「わたし、そこまで演技派じゃないッスよ?」
「いや、今までかなりだまされてるんだが!?」
「そうッスかね? たぶん先輩がだまされる方向に勘違いしてるだけじゃないッスか?」
こいつめ。言うじゃないか……。
「う〜ん、じゃあ、わたしが脱ぐッスか……」
後輩は自分の体を見下ろしている。
そしてニンマリ笑っていやがる。
う、イヤな予感……。
「キャミとタイツ、どっちがいいッスかぁ〜♡?」
「おまえ、それ毎回聞くのな!?」
「へへへ……。どうするッスかね。先輩はわたしのおっぱいばかり見てますから……」
「おいっ!」
「ここは焦らして、タイツ……」
「もうそっちでいいよ、まかせるよ……」
「うん、こっちにするッス」
言うが早いか後輩は手をかける。
手を交差させてガバっと脱いだのは――
キャミソールでした……。
ぶるんっ、と後輩の乳房がまろび出る。
いや、ブラは付けてるので、おっぱいそのものが登場したわけではない。しかし肌面積がさらに広くなって、紳士的な目のやり場の範囲はさらに狭くなった。
脱衣中、彼女がキャミソールをたくし上げるのに合わせて、胸部が一度大きく引き上げられた。布地の束縛から解き放たれた柔らかそうな膨らみが、ホッとひと息つくかのように、ぽよょんと弾むのが見て取れて、たいへんけしからん……。
(だがちょっと待て……またでかくなってないか?)
脱いだものにストレッチ素材が入っていたのだろうか。締め付けがまたひとつなくなったからだろうか。後輩の胸部が、もうひとまわり限界突破していた。
(どんだけ着やせするんだ、こいつ……)
そして、胸部に比べてびっくりするぐらい対照的な腰回りの細さが、いやがおうでも目につく。いわゆる「キュッとくびれた」腰のなまめかしいラインが、下腹部へいくにつれて、ふっくらと広がり、それが豊かな臀部へとつながっている。
なめらかな腹部の中心にしどけなく座しているのは、彼女のヘソだった。やや縦長のスラッとした形状の穴が魅惑的に孔いていて、「指を突っ込んで、ホジホジしてみたいなあ」と、つい思ってしまうほどの魅力と魅惑に溢れていた。
その肢体の美しさは、もう感嘆のため息しか出てこない。
後輩は、くいくいとブラ紐を直していたが、俺が真剣に見つめているのに気付くと、
「え、えへへへへ……」
はにかむような顔を見せて、それ以上何も言わない。
いつもの、そして今までのウザ後輩なら、「え〜何ガン見してるんスか〜、目がエロいッスよ〜、エロ先輩ッスよ〜?」とか、からかってくるのが定跡なんだが……。それすらしてこないのは、どうしたことだ?
(こいつ、雰囲気も変わってきた……ような。色……っぽいっていうのか?)
ずいぶんと困惑していると、
「う〜んっ、と」
彼女が腕を横方向へと軽く伸ばす。
それから外が気になるのか、ちらちらと窓に目をやっている。部屋の位置関係で外から見られることはないっぽいんだが、さすがに気になるのかな?
「う〜ん? そろそろ夕方になってきたッスかね?」
「あれ? もうそんな時間か」
今が何時かなんて、気にも留めてなかった。将棋と、後輩のことだけ、考えていた。そして、だんだん後輩のことに考えの比重が移っていくのを感じる。もう少ししたら、俺は彼女のことばっかり考えてしまうようになるんじゃないだろうか。
――うん、そうだな。ここらが潮時なのかもしれない。
これは夢だ。
後輩と脱衣勝負したなんて、何かの夢だ。
そして夢から覚めると、また同じように、いつもの先輩と後輩の関係に戻って、また明日顔を合わせれば、いつものウザ後輩がウザくからんできて、俺はそれをウザがりながらまんざらでもなくて……みたいなことになるんだ、うん。
だが、そう思う一方で、「まだ夢の続きを見ていたい」という思いが、心の中でフツフツとわき立っているのも事実だ。もしこれからこの先も対局していくのなら――俺たちは、どこに着地点を見出すのだろう……。そのとき二人は、二人の関係はどうなってるんだろう? 今までのままだろうか。それともまったく変わっているんだろうか。どっちなんだろう?
「――ぱい、先輩?」
「ん? ああ……?」
話しかけられているのに聞こえてなかった……。
「ボ〜ってしてます? 疲れたッスか?」
「いや、大丈夫。ごにょごにょ……」
「ん〜? もしかして先輩、わたしのあられもない姿にコーフンしてるッスか? コーフンして鼻血でそうッスか? やだ〜、えっち〜ぃ♪」
やっぱりいつものウザ後輩だったな!
「うん、まあ、疲れたっていうかな? ちょっと小腹はな? 空いてきたかもな?」
ごまかす方向に舵をきろう。まだ残っていたお菓子に手を出してむしゃむしゃやる。
「わたしもちょっと空いてるッスかね〜」
白くなめらかなおなかをサスサスとさする後輩。白いというか、感覚的にはほぼ透明だ。あれが「透き通るような肌」ってやつか? エロ小説とかにしか存在しないもんだと思ってた……。胃袋とかが透けて見えないのが不思議なくらいだ。
「ラーメンならあるッスけど。食べます?」
「お、いいの?」
「いいッスよ〜、ちょっと待っててくださいね〜」
そう言いながら立ち上がりかける後輩。
「俺も手伝う……」
と言いながら自然に目がいってしまうのは、彼女が動くたびに、動きに合わせてたゆんたゆん揺れる魅惑の胸部……。
「お湯入れるだけなのにナニ手伝うんスか。先輩は次の作戦でも立てといていいッスから」
ぐ……、余裕だな。
後輩は立ち上がりしな、窓のカーテンをシャッと閉めて電気をつけた。
部屋がびっくりするくらい明るくなって、びっくりする。あれ? 俺たちこんな暗いところで対局してたの!?
見えるものの解像度が、ぐっと上がった感じだ。はっきりくっきり、すみずみまで見える。
盤を見下ろす。
盤も駒も、自然光に当たっていたさっきとは全然違った表情を見せている。
キズや欠けもあるが、丁寧に使われてきたのがよくわかる。「使い込まれた」というのが近い表現だろうか。「おじいさんの形見」がどうとかって言ってたけど、あれ? あれは「冗談」だったっけ? まあ、生きてるか亡くなってるかはともかく、それなりに年月を重ねてきたモノだということはわかる。
モノの見え方がこんなに変わるのだ。ヒトの見え方も当然変わるわけで……。
キッチンに向かう後輩の後ろ姿を見てみると――ぷりん、たゆん、さらさら、すらり。きゅきゅっとカモシカ、ぷるるるん……。あ、やばい……。
(う……。さっきより、どこもかしこもはっきり見えてしまうじゃないか……)
目に毒がじゃばじゃば入ってくる……。
ふんふ〜ん、カチャカチャとキッチンの物音。
そういえばあいつのブラ――薄ブルー、いや薄グリーンとの中間くらいな色合いか? 「がっつりおしゃれ仕様」とか「勝負ブラ!」って感じでもなくて、「いつもの」って雰囲気だ……。同系色で糸? ステッチ? が入って、少しレースもついてて、もしかしてお気に入りのやつなんだろうか……とかブラに関して考え始めると、もう止まりそうもないのが我ながら情けない。
はっ!? そうだ、次の対策を考えよう。さっきの横歩みたいな手は二回続けては使えないだろう。というか先後逆になるから無理か。うーん、どうするか……と思っている間に、ピピピとタイマー音がキッチンから聞こえてきた。
「さ〜て、できたッスよ〜」
ほがらかな声とともに後輩が戻ってきた。ところが、
「あ……」
彼女が敷居のところでピタリと立ち止まる。
「どした?」
見れば、カップ麺を両手に持った後輩が固まっている。うん、上半身ブラだけで、下半身もタイツ姿。両手に麺のカップ、その内側に乳カップ。大変けしからん装いだ。
「あ……、なんか、びっくりしたッス。キッチンから戻ったら、いきなり上半身ハダカの男の人が部屋に座ってるんで……」
「いや俺を脱がしたの、おまえだからね!?」
「そ、そうッスけど、電気つけたら部屋の雰囲気、変わるッスね。ははは……」
後輩よ、おまえもそう感じるか。
彼女はテーブルそばに座ると「熱いからふ〜ふ〜ッスよ」とおどけながら一方のカップ麺を渡しかけ、
「あ、先輩にはこっちのがいいッスよね?」
反対の手に持っていたのを差し出してきた。なぜに?
「ん? こっちがスタミナ麺ッスから。先輩にはこれからスタミナがたくさんいるかなって思っただけッス」
(えー……。何その意味深な、何か含んだようなニュアンスは!?)
こちらの不審げな視線に気づいたのか、
「え? 深い意味はないッスよ〜? 言葉のあやッスよ、あや〜」
ごまかしやがった。
とりあえず二人テーブルについて、ふーふーやる。うまそうだな。自然と口の中に生唾がたまる。ちらりと後輩を見る。同じく、ふ〜ふ〜しているんだが――
律儀に正座している後輩だ。
正座しているということは、座高が高め。
つまり正座という座り方は、テーブル面から露出する上半身の面積が相対的に大きくなるわけで。
つまりどういうことかというと、肌色成分の多いブラ姿とたわわの情報がたっぷり発信されているわけで。
つまるところ、下着姿の彼女が発しているエッチ情報が、たっぷりとこちらの眼球を通過し網膜に照射し、視神経以降の脳内情報処理施設にガンガン飛び込んで情動を刺激しまくってくるわけで。
そのエッチ情報をドバドバ浴びながら、カップ麺をズルズル食さねばならないのだった。
「あの、後輩さん……」
「なんスか?」
「もう少しその背を低く……じゃなくてですね、足をくずしてお座りになってもよろしいかと……」
「? なんで口調が丁寧になってんスか?」
「いや……、その……、ごにょごにょ」
エロい格好を正視できない、とは言いづらい。
彼女は俺の奇妙な反応を「ん〜? ん〜?」と変な顔してうかがっていたが、
「まあ、はい。どもッス……」
膝をくずしたらしく、やや低くなってくれた。横座りくらいかな。
「あ、なるほどッスね。ふふふ……」
つぶやきながら、さらに続けて後輩の上半身が縮む。お、もっと足をくずしたのかな? と思っていると――
「……先ぱぁい、今のぉ、わたしの姿勢、わかるッスかぁ?」
またしても、からかいニュアンスの気配がただよってきた……。
「ん? いや、わからん」
「ふふ〜ん、あぐらデス」
「そうか、あぐらか」
別にあぐらでもいいのでは?
「ンンンッ? 理解がおそいデスね〜。つまりあぐらということは――今のわたしは先輩に向かってぇ……」
「ん? ん? ちょっと待て?」
テーブルの下の、後輩の下半身を想像する。
あぐら座りしている彼女は足を広げていて……、体の真ん中で足首あたりが交差しているわけで。
その交差地点の向こう側に見えるパンツ状のものは――
「わたしの大事なトコロを〜? 先輩に向かって〜?」
ちょっと待って!?
「はしたなくおっぴろげてぇ〜?」
「おいっ、食事中にそれ以上はメッ」
「あ……、はい。……すみません、やりすぎたッスね……」
「あ……、いや……」
素直に謝られると逆に反応に困るな……。
うーん? やっぱりさっきから後輩の態度がちょっと変わってきた気がする。ウザ感はあいかわらずだが、テンションが妙になっているような? 感じがする。急にからかってきたかと思えば急に素直になるし……。コロコロ変わって忙しい。
そういえば、後輩は普段から「ッス」口調だが、よく注意して聞いていると、なんとなくキャラを演じてる雰囲気もなくはない。
(ウサコの、完全に素の状態って、どんな喋り方なんだろうな……)
……変なところに興味がわいてきた。




