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ナーロッパのエロナ国物語  作者: 杉並太郎
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ミヤモとヒョーナ

 デコとトッチョは手分けしてミヤモを探すことにした。同時にその街の地母神教会でも変わった女を探す。

 トッチョは結婚したばかりなのに、一人で家を離れる不満を表した。

「何言ってる。仕事で出かけて嫁を連れてきたくせに」

「熱心に仕事をしようとした結果、たまたまそうなっただけなんだよ」

「まあいい、手分けして祭りを回るぞ」

「へいへい」

 トッチョはひとまずニアを連れて家に戻った。物の置き場所などを説明して留守を任せる。

「あたしがあんたに手柄を立てさせてやるよ。変な女なら知ってるんだ。変顔のヒョウナさ」

「なぜそれを早く言わない」

「何言ってるんだい。あたしがあんたたちの仕事を知ったのはさっきだし、デコに聞かれたらあんたの手柄にならないだろ」

 トッチョは別に手柄など気にしなかったが、変な女の候補が出てきたのは嬉しい。

「ニア、その女はどこにいるんだ?」

「前に見た時はサーカス団にいた」

 サーカス団の興行予定地はリストに載っていた。都合のよいことにトッチョに割り当てられた経路の中にある。


 それから数日後、トッチョは変顔のヒョウナを見つけた。ヒョウナはサーカスの呼び込みの合間に変顔の芸を見せている。まず、まじめな顔をしてそれから一瞬でめちゃくちゃ変な顔をする。そしてすぐにすまし顔に戻る。

 それがなんともおかしくて、トッチョは笑いが止まらなくなった。苦しい。サーカスの入り口付近では入場料を払えない子供たちがヒョウナの変顔を見て笑っている。

「お客さん、笑ってないでサーカス見てってよ」

 トッチョは痙攣する腹筋を抱えながら代金を払い、よろよろとサーカスのテントに入った。サーカスの様々な芸も面白く、自腹で代金を払ってでももう一度見たいと思うくらいだった。トッチョは名案を思いついた。このサーカスを丸ごとそっくり王様のハーレムに推薦すればよいではないか。

 その日の興行が終わってから、トッチョはヒョウナに変顔を見せてくれるように頼んだ。

「なんだい、そんなに気に入ったのかい。それならまた明日見ておくれよ」

「えーと、つまり、その変顔を俺の依頼主の偉い人に見せて欲しいんだ。その人はこっちに来られないんだが」

「そりゃあ無理だね。サーカスの仕事があるからね」

「少しだけでも抜け出せないか」

「王都で戴冠式に合わせて興行した後は少し休みになるけど、それまでは無理だね」

 トッチョは王様がヒョウナを気に入ると確信していた。ニーメはただ背が高いだけだし、リオは片目であることを除けばふつうの女である。その点、ヒョウナは紛れもなく変な顔の女だ。少し年増ではあるが問題ないだろう。

 ヒョウナに結婚しているか確認すると、以前は結婚していたが離婚して今は独り身だという。子供たちはサーカスで働いているらしい。

 どうしたらいいかわからないので、トッチョは一旦家に戻ることにした。ニアに相談しよう。ついでに子作りもしよう。


 デコは同じ日数でトッチョの倍の距離を移動し、ミヤモを見つけた。祭りの行われている広場の片隅に小さな折り畳み式のテーブルを出していたが、客は誰もいなかった。

「常勝のミヤモは君か」

 デコが尋ねるとミヤモはため息をついた。

「そんな名が広まっているようじゃ、客もいなくなるわけだね」

「まずはひと勝負してみよう」

「やり方は知ってるかい」

「いや」

 ミヤモは勝負の仕方を説明した。

 これは小石を使う勝負で、20個ほどの小石を三つの山に分けて置き、そこから交互に石を取っていき最後の石を取らされた方が負けというゲームである。一度に取れるのは一つの山から最大3個までだが、少なくとも1個は取らなければならない。

 このゲームを何度やってもデコはミヤモに勝てなかった。賭額は少ないから大した損ではないが、不愉快である。こんな女を王様に会わせてよいのだろうか。王様は不愉快になるだけではないだろうか。

「わざと負けることは出来ないのか」

 デコはミヤモに尋ねた。時々でも勝てれば王様も喜ぶだろう。

「出来ないことはないけどね。負けの込んだ相手がむきになって賭金を上げてくるのが面白くて、ついね。途中からわざと負けると、不公平になるような気もしたし」

 デコはミヤモに王都に来て名を隠した貴族と対戦して欲しいと頼んだ。

「いいけど、それは勝ってもいいんだよね」

「もちろんだ」

「そろそろこのゲームは止めようと思ってたから、それを最後にしようかな」

「ちょっと待っててくれ、馬を借りてくる」

「あんたの馬に2人乗りでも構わないよ」

「この馬は2人乗り禁止なんだ」

「なにそれ、馬鹿みたい」

 デコは馬を借りてミヤモを王都に連れ帰った。


 トッチョは侍従長の前でヒョウナの変顔を真似していた。

「こんなもんじゃないんで」

 手で顔を引っ張ってまた別の変顔をしてみせる。

「ヒョウナの変顔はこんなもんじゃなくてもっと面白いし、手も使わずに顔の形を一瞬で変えるんで」

「しかし、本人が来られないのでは面接が出来ないではないか」

 侍従長は笑いをこらえながら答えた。

「だから俺が代理で王様に変顔を見せますから」

「代理じゃ意味がないだろう」

「そう言わず、王様に取り次いでくださいよ」

 トッチョがあまりしつこいので侍従長はカダーハ王にトッチョを会わせた。王はトッチョの変顔を見てヒョウナに会いたくなった。

「こっそりヒョウナを見に行くのじゃ」

「駄目ですよ。戴冠式前の大事な時期ですから、王都から出ないでください」

「ヒョウナの変顔を見たいのじゃ」

「変顔を見るだけなら戴冠式の後で見られますから」

「うーむ、悔しいのじゃ」

 カダーハ王はしばらく黙って考えていた。

「よし、ヒョウナは合格じゃ」

「面接してないのにですか」

「そうだ。トッチョの代理面接で合格にする」

「そんな気軽に合格してよろしいのですか」

「なあに、本人に会って気に入らなければ、キャンセルするだけじゃ」

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