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ナーロッパのエロナ国物語  作者: 杉並太郎
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ニア・ワーナイ

 ヒガトンに向かったデコは翌日オーナカに戻って来た。ヒガトンの街は小さく、成人している女は全員が結婚していたのだ。

 隣の街ではあったが馬での往復は少々疲れた。夜になってから樫の木亭にリオを訪ねた。またもや長い順番待ちの後でデコはようやくリオと話せた。

「ああ、常勝のミヤモのことか。いや、まだどこにいるか分からないよ。あちこち渡り歩いているんだよ。あの子は絶対に負けない賭けをするから一箇所に留まって居られないのさ」

「それじゃあどうやって見つけたらいいのか」

「たぶん、戴冠式にはオーナカに来ると思う。人がいっぱい集まるなら稼ぎになるから」

「それでは遅い」

 戴冠式直前になると王も忙しい。とてもハーレムの姫の面接などしていられないだろう。

「たぶん、前日までには来ると思うけど」

 もっと早くミヤモを見つける方法はないものか。

「戴冠式にオーナカに来る予定だと言ったな。あちこちの街を移動しているとしても、戴冠式に合わせてオーナカに近づいているのではないか」

「それはありそうだね」

「どういう経路でオーナカに来ると思う?」

「まるで見当もつかないね」

「わかった。ミヤモの背格好や特徴を教えてくれ。こちらで探す」


 デコは翌日王宮で侍従長に相談した。

「それなら治安部隊事務官に聞けば分かるだろう。人が集まる祭りは知っているはずだ」

 エロナ国の軍隊は近隣諸国で最も弱い軍隊である。しかし、それは他国の軍隊と比較した場合であって、国内の武装勢力としては最強の集団である。国内の犯罪者や、税金の支払いを渋る国民を鎮圧する能力は十分にある。

 国軍と言っても各領主の兵と王家の兵の連合軍であるが、王宮周辺は王家の領地なので、直属の兵が治安活動をしている。これは近衛兵とは異なる。近衛兵は王を守る兵士であり、各領主がその手持ちの兵の中から選抜した優秀な兵によって構成されている。ただし、それは名目上のことで優秀な兵はやはり手元に残したいのが領主たちの本音である。

 祭りなどの人が集まる時には揉め事が起こりやすいので、祭りの主催者や関係者があらかじめ届け出ることになっている。大規模な祭りなら当日に警備の人員を派遣するし、小さな祭りなら開催だけを把握しておく。

 エロナ国の祭神は地母神だが、それ以外の神を讃える祭りも行われる。農民は農耕の祭りをする。それも毎年日付が決まっているわけではなく、雪解けを祝って祭りをするとか、種まきが終わった頃に祭りをするとか、その街の暮らしに合わせてばらばらに祭りが行われるのだ。

 デコは王命による任務に必要であると告げて、治安部隊事務官から王宮近隣の祭りの予定表を手に入れた。祭りの主催者は露天商などにも開催を知らせているということなので、おそらくミヤモも同じ予定表を持っているだろう。

 ミヤモの出発点が分からないから経路を絞るのは難しいが、戴冠式が近づけばいそうな場所は絞れる。しかし、それでは遅い。大きめの祭りをやっているところを探すしかないだろう。1人では限りがある。トッチョに予定表を渡して、探す街を2人で分担しなければならない。トッチョはどこにいるのだ?

 デコはいらいらしながらトッチョの帰りを待った。いっそニシャーに出向いた方がいいのか。

 そんなデコの気も知らず、翌日の昼過ぎにのんびりと馬に乗ってトッチョが帰ってきた。馬の後ろに若い女を乗せている。

 女はやや小柄だが特に太っている訳でも痩せている訳でもなく、また顔も普通というか整った顔立ちをしている。そしてリオの説明したミヤモの容貌とも異なっている。

「おい、トッチョ。女を見つけてきたのか。やったな。見たところ普通の女だが、どこが変なんだ? それともゲームの名人なのか」

 デコはトッチョの意外な手柄を褒めた。

「あたしのどこが変だっていうのさ」

 女が文句を言う。

「まあまあ、ニア、これは俺の仕事の相棒デコ・セタカーイ、こっちは俺の嫁のニア・ワーナイ」

 トッチョが馬に乗ったままら2人を紹介する。

「嫁だと! お前は何しにニシャーに行ったんだ?」

 デコはあきれたように言った。

「まずは馬を返してくるよ」

 トッチョがニアを乗せたまま厩舎に行くと、いきなり厩番に怒鳴られた。

「降りろ、馬鹿者。2人乗りは禁止だ」

 トッチョとニアはもたつきながらも慌てて馬を降りた。ニアが鞍の上の滴を布で拭うと、厩番は怒りながら馬を連れ去った。

「なんで俺たちが厩番なんかに怒られなきゃならんのだ。俺たちは近衛兵だぞ」

 トッチョが文句を言うとデコが答えた。

「厩番よりは近衛兵の方が身分が高いが、近衛兵よりも馬の方がさらに身分が高いのだ」

「ああ、お馬様よ」

 トッチョが嘆く。

「それより、なんで仕事を放り出して嫁なんか見つけてきたんだ」

 デコはトッチョに説明を求めた。

「仕方ないんだ。そういう流れになったから。つまり、王様の命令で変な女を探してるってことは秘密にしなけりゃならないだろ。だから、俺の趣味で変な女を探してるってことにしたんだよ。そしたら、仲介の婆さんが俺の好みをいろいろ聞いてくるから、正直に答えていたんだよ。だって王様の細かい趣味なんて知らないし。趣味を答えたら、今度は収入とか地位とか聞かれたから、これは王様のことを答えるしかないと思って、地位は明かせないけど高いし、収入もたっぷりあるって言ったんだよ。そしたらいつのまにか、このニアを紹介されて、全然変な女じゃないし、しまったと思ったけど、ニアもこっちが気に入ったというので結婚することにしたんだよ」

「ちょっと、あんた、地位が高いとか収入がたっぷりあるとか、嘘だったのかい」

 ニアがトッチョに詰め寄る。

「おかしいなぁ、嘘をついたつもりはないんだが、途中から王様の相手を探しているのか、自分の相手を探しているのか分からなくなっちまったんだ」

 ニアはあきれた。しかし、トッチョの邪心のない顔を見ていたら、どうでもよくなった。こんなきっかけで結婚するのもいいかも知れない。続かなければ別れればいいだけだ。


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