リオの面接
次の女を探して、デコとトッチョの2人は行き詰まっていた。
2人は行く当てもなく、王宮前広場の中央にある前王ポポンスの銅像のそばに腰掛けていた。エロナ国には銅鉱山があるのであちこちに銅像が建てられているのである。
銅像は立方体のメタ石の上に建っている。メタ石は異世界からの転生者がもたらした文化のうちで、今でも残っているものの一つである。立方体の1辺が1メタという長さの単位になっている。ここにあるものは本物のメタ石の複製だが、長さを知る上では十分だ。よその国では銅像がなく、メタ石だけが大きな街に置いてあるという。
使い走りの子供が2人のそばを走り抜けながら、馬鹿にした言葉を投げていく。
「もうネタがない」
ハイネは弱音を吐いた。
「そこらへんにいたらさ、それは変な女じゃなくて普通の女だよな」
トッチョも同意する。
「ごもっとも」
「だいたいさ、ハーレムの姫って国中から集めるもんだろう」
「美人を集める時はそうだな」
「こんな王宮のまわりをうろちょろしてるだけじゃ無理なんじゃないか」
「確かにそのとおりだ」
「国中旅行して探す方がいいんじゃないか」
「いや、美人はだいたい推挙されるもんだ。秘密裏に変人を探すのはかなり難しい」
「もういいんじゃないかな。2人も見つけたんだし。2人で2人見つけたんだから、十分だろう。いい仕事をしたぜ、俺たち」
出来る人間は、仕事がうまく行っていない時に、うまく行っていないと上司に報告するものである。一時的に2人の上司は侍従長となっているので、侍従長に報告した。
出来る上司は仕事がうまく行かないという報告を叱らないものである。
「この役立たずどもめ!」
侍従長は声を荒げた。
「確かにハーレムの最大人員は5人だが、その前に王による選定が入るのだから、候補者が5人では足りないことは明白ではないか。20人くらいの候補者を選び出しておいて、その中から王に5人を選んでいただくのが当然であろう。それをたった2人しか探せないとはどういうことか」
デコとトッチョの2人を叱り飛ばしてから、侍従は近衛団長を呼び出した。
王の護衛たちと共にリオとのゲームに向かう。場所は街の中にある小さな会議室である。貴族が秘密の会議に使ったりする部屋だ。あまり大きくはないが石造の頑丈な部屋で警備がしやすい。
カダーハ王は仮面を付けていた。まだ身分は隠しておく。
「仮面のままで失礼する。カードは君のものを使ってくれ」
「何を賭けるんだい?」
「君が勝負に5回勝ったら、この指輪をあげよう。そして私が勝負に1回勝つごとにひとつ質問をさせて欲しい」
カダーハ王は小さな指輪をテーブルに置いた。
「ずいぶん古い指輪だね。あたしには値打ちは分からないけど。つまり、どういうこと? あたしが5連勝したら指輪をもらって終わりってこと?」
「その場合は実力があると認めて次の話をしたい。もちろん、その話を断ってもいい。こちらの質問することがなくなって、その間に5勝していなかったら、このまま帰って欲しい。少なくとも5回は質問しよう」
「質問もちょうど5回にしてくれないかな。つまりどちらかが5回勝つまでの勝負ってわけ。分かりやすいだろ」
「そうしよう」
「ゲームはジンラミーでいいかい」
「それでいい。配ってくれ」
「信用してるのかい」
「イカサマするならしてもいい。それも判断材料にする」
ジンラミー1回目の勝負は、カダーハ王が途中ノックを連発して早あがりを繰り返し勝利を納めた。
「いや、まさか速攻でくるとは思わなかった。偉い人かと思ったけど、案外せこいんだね」
「最初の質問だ。年はいくつだ?」
「27だよ」
リオは答えた。簡単な質問だ。賭けをしてまで聞くことじゃない。本当に聞きたいことは別にあるのかも知れない。
2戦目はリオが勝った。ジンを狙いながらも手によっては途中ノックもする。基本だが勘所がいい。3戦目もリオが勝ち、4戦目はカダーハ王が勝った。
「髪を上げて欲しい」
「それは質問じゃないだろ」
「その右目はどうしたのか教えて欲しい」
リオの右目にはガラス玉が入っていた。髪で隠していたから気づく人は少ないが、カダーハ王は気がついたようだ。
「賭けちまったのさ。若い頃は無茶だったからね。つい右目を賭けちまったのさ。それで負けて以来、あたしも無茶はやめて堅実に行くことにしたんだよ」
5戦目と6戦目はリオが勝ち、リオは合計で4勝となりあと1勝で勝負が決まる状態になった。しかし、7戦目はカダーハ王の手が良く、さらにリオのノック失敗もあってカダーハ王の勝ちを得る。
「配偶者または恋人はいるか」
「なんだい、あたしを口説こうってのかい。どちらもいないよ。1夜の恋人を除けばね」
8戦目はリオが勝って勝負がついた。
「強いな」
カダーハ王はリオを褒めた。
「あんたもね、お偉いさん。素面のあたしから3勝もするなんてね」
カダーハ王は侍従長に向かってうなずいた。合格である。
侍従長はリオに相手が王であることと、リオがハーレムの姫候補に合格したことを伝えた。
「はっ? あたしがハーレムの姫だって? 馬鹿言っちゃいけないよ」
「王命であるぞ」
侍従長がリオを叱る。
「まっぴらだね。そりゃあ堅実かも知れないけどね。自由がないじゃないか。御免こうむるよ」
「よい、許す。どうだ、リオ、またゲームしてもらえるかな」
カダーハ王は仮面を外してリオに頼んだ。
「賭け金さえ用意できるならね。はっ、出来ないわけないか。王様だもんな」
「これでも予算に縛られているのだよ。指輪や宝石なら自由になるものがいくつかあるがね」
「なんでもいいよ。勝負したくなったら、樫の木亭に呼びに来なよ」
「ジンラミー専門なのかね」
「カードゲームならなんでも相手してやるよ。こっちの得意なものばかりじゃ不公平だからね」
「カードゲームだけなのか」
カダーハ王は少しがっかりしたような声を出した。
「ああ、申し訳ないけどね。そうだ、変なゲームをやる女なら知ってるよ。その女のゲームには誰も勝てない。少なくともあたしは勝った奴を知らない」
「なんと素晴らしい。その女はどこにいるのだ」
「今どこにいるかは、分からない。会うことがあったら教えてやるよ」
「頼んだぞ」