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3/3

大穴

 こんな時どんな顔をしたらいいのか分からない。

 なんだ? つまり、俺は死の宣告をされたということになるのか?

 よっぽど変な顔をしていたのだろう。フィオナは俺を見て噴き出した。


「アハハ! なにその顔! おなかを空かせたアライグマみたい!」

「絶妙にイメージが湧かない例えをするんじゃない」


 そこは犬ではないのか。

 ……そんなことはどうでもいい。


「つまりお前は、ヘリピン国の元大統領どもに雇われて俺を殺しに来たということか」

「うん」


 やれやれと腰を上げる。フィオナもゆっくり立ち上がった。

 完全に足を伸ばした、次の瞬間。

 互いの拳が交差していた。どちらも避けてはいるものの紙一重と言ったところだ。

 フィオナは俺の腕を弾く。そのまま上体を捻った。脇腹のあたりへ蹴りが来ることを予想してガード姿勢を取ると、姿勢を低くして足元を掬ってくる。

 その顔へ膝を叩きこむ。ギリギリのところで顔を庇い、威力を削ったようだが鼻血がしたたり落ちる。

 フィオナは拭うことすらせず、愚直に顔面を狙ってきた。早い。殴られると同時に俺も殴り返す。一瞬脳みそが揺らいだが気にせず、胸倉を引っ掴んだ。

 そのまま投げ飛ばした。

 部屋全体を揺らす轟音とともに壁に穴が開く。


「あ」


 このアパート、隣との壁と壁の間には発泡ウレタンしかないとまことしやかに噂されていたが――マジだった。

 隣の部屋と十センチもないんじゃねえかこれ!? どうりで二つ部屋の住人の生活音が聞こえると思ったよ!

 というか。


「ぎゃあーッッ! 敷金がッ!!」


 大穴が空いている!! やばい!! これ大家に怒られる!!

 壁の向こうでフィオナが上体を起こし、穴と俺を見比べる。壁(極薄)を突き破ったのでそれなりのダメージは食らったと思うが行動不能にはなっていないようだ。目の前の惨状に目を丸くして動かない。

 しばらく難しい顔をして黙った後に、俺と視線を合わせた。


「ウケる」

「ウケるかボケェ!!」


 頭を抱える。

 

「敷金はこの際どうでもいいが大家にだけはバレたくねえ……」


 いや無理な話ではあるのだけれど。


「バレたらどうなるの?」

「めちゃくちゃ怒られるし追い出されるしタダ働きさせられる」


 最悪のコンボである。

 一度ゴミ出しのトラブルで他住人と揉めたときに大家に一時間ぐらい説教された。マネキンの生首を五つ捨てていた相手が悪いのにとんだとばっちりであった。

 それに、大家はケチなのでなにかと理由をつけては俺をタダ働きさせようとする。こんな穴見せたら嬉々として色々押し付けてくるだろう。

 ああーと頭を抱える俺を見ながらフィオナは身体のホコリを叩きながら立つ。穴の向こう側から、こちらを覗いた。


「1Kが1DKになっちまったぞクソ……」


 今の騒ぎを聞きつけて誰かが大家に報告するかもしれない。

 「この部屋から音が聞こえた」というのはなくとも、「だいたいこのあたりから聞こえた」という判断は十分できる。

 そうして一部屋ずつ確認され、穴が発見される――。あり得る話だ。

 なんとか証拠隠滅を考えていると穴の向こう側からフィオナが話しかけてきた。


「パパ」

「パパではない」

「え? これで終わり? 壁にぶん投げて、その後は?」

「殺意も敵意も無い奴をなぶる趣味はないんだよ。何がしたかったかは知らないがストップをかけても止まらないだろうから投げ飛ばしただけ」


 結果がこれだがな。


「だいいち俺の首が欲しいなら、お前じゃ無理だ。出直すかもっと仲間を連れてこい。伊達に最強とは呼ばれていないぞ」


 その最強も大家には怯えている。

 こえーんだよ早口のおばちゃんって。威圧感が。


「……試すようなマネしてごめんね」


 いきなりしおらしくなるものだから俺はびっくりしてしまう。

 たしかにさっきのアレは戦闘というより格闘訓練のほうがしっくりくる。相手を倒そうとする気概はあるが、殺す気はない。


「ママが『ヒイラギはとても強かった』といつも話していたから確かめたくなったんだ」

「……」

「それにね、殺害命令は下っていたけど今の私には関係ないの」

「どういうことだそりゃ」

「数週間前に、所属していた組織が壊滅したから」

「は?」


 は?




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