1話 拝命
初投稿になります。
全てが変わったのは僕が高校二年生になった日だった。
今日から高校二年生になりクラス替えが行われた。
といっても一年の最後にはこのクラスになることは知っていた。
クラスは成績順で割り振られるからだ。
僕のクラスは良くも悪くもない普通で平均で平凡。そんな成績を収めた人の集まりだ。
「クラス替え…といってもはしゃぐ気にはならないよね…」
僕は友達の高山くんに話しかけた。
「まぁ、中学の頃みたいに当日ワーキャー騒ぐようなクラス替えの形式ではないわな…」
「でもこのクラスでほんとよかったよ。ほら、他のクラスにはいるじゃない?」
「ああ…いるな同じ高校で同じ学年、同じ人間とは思えないようなとんでもない奴らが」
話題にあがっているのはなぜ進級できたか疑問にすら思える不良生徒たちのことである。
不良生徒たちが一年にして行った悪行はこの学校の歴史でも類を見ないものが多い。それほど恐ろしい生徒が同じ学年にいるのだ。
「高山くん!僕たちはあの人たちに関わらないようにしよう!」
「そうだな…あんなのに絡まれたら俺たちの大事な青春はパーだ!!!」
「うん…そうだよね」
『青春』その言葉が心に刺さる。
そうだ今は青春なんだ。今しかできないものをみんなが青春と呼んでいるんだ。でも僕はその青春を毎日ただ消費している。
朝、目を覚まして学校へ行き、夕方まで授業を受けて帰る。夜はインターネットで好きなものを見て、いつの間にか寝ている。
そんな日々に飽き飽きしつつも同じことを繰り返す。
このままでいいのかな…と思うけれど行動には移せない。そうしているうちにまた時間は過ぎていく。
こんなものが青春なのか…まあ案外この生活も大人になって思い返すと楽しいものなのかな?
青春という言葉だけでそんな気持ちにさせられた。
クラス替えという年間でも大きなイベントであることは間違いない今日も案外いつも通り始まった。
「一限目は移動教室だとよ!行こうぜ」
高山くんがいった。
「うん、いこうか」
クラスを出て目的の教室へ向かう。
「やべ筆箱忘れてるわ!先行っててくれー!」
「あ、うん!一限の教室の場所わかる?」
「なめんな!余裕余裕!」
高山くんが走っていった。一限までは残り10分といったところか。10分あれば戻っても十分に間に合う距離だろう。
僕は一人で一限の教室まで向かう。
その途中だった。出会ってしまったのだ。
同学年の不良生徒のひとり。その中でも筆頭。他の不良生徒はこの人に追いつくように素行を悪くしているとすら思える。そんな圧倒的存在。
「あなた…たしか潮野颯斗くんよね?」
腰まで伸びる黒い髪、制服は特に着崩すことなくきちんと着ている。しかし間違いないのだ。彼女が学年で筆頭の不良生徒。
「ふ…藤井叶さん…」
藤井叶、黒い長髪が目立つ新二年筆頭の不良。その不良たる所以は授業態度や普段の素行の悪さではない。ときにとんでもないことをしでかすのだ。
入学式の翌日、放送室に立て篭もり学校中に卑猥な音声を流したことから始まり定期的に度が過ぎた行動を起こす。
最近では教員間の不倫関係を暴き、脅迫まがいのことをしていると噂もある。
そんな彼女が僕に話しかけてきた。すぐにここから立ち去りたくて仕方がない。
「単刀直入にいうけど、あなた私と付き合いなさい」
「………え」
混乱している状況で起こる更なる混乱、脳はすでに彼女が僕に話しかける理由についての処理を放棄していた。
僕は続けて言う。
「なんで…僕?えっと…話したことも無い…よね?」
「当然の疑問ね、だけど回答も当然のものよ、私があなたを好きだから…だから付き合って」
その異常さに触れ、逆に脳が正常さを取り戻した。
そうだ彼女は異常なのだ。異常な行動を起こすのが彼女なのだ。彼女がまた異常な行動をした。そう考えると状況はすんなり理解できた。
「あ…えっと…」
問題はなんと答えるか。回答を誤れば何をされるか分からない。
その暗闇でなんとか僕は見つけた。答えのない答え。考えさせてという回答だ。
おそらく、この告白は彼女の気まぐれだろう。
しばらく時間をおけば僕に告白したことなど忘れ、また別の突拍子もないことを起こす。僕はそう直感したのだ。
「ごめん…少し考えさせてもらっ…」
「だめ、今すぐ答えて、付き合うか付き合わないか、どちらかよ?」
僕は自分の愚鈍さを思い知った。僕が思い付く程度のことで彼女を出し抜くことなどできない。
彼女は今、僕の答えを訊こうとしている。
その現実に向き合う他、この場から逃れる道はない。
女性に告白されるのは初めてだった。
彼女はその独特の個性を考えずに容姿だけみれば美人だと思う。そんな女性を初めての彼女にできれば幸せなんだ。
しかし、この一年間で培われた恐怖心はそういった感情を何倍も上回っていた。
平凡に生きてきた僕が彼女の世界の一部になれるはずがない。断るんだ!勇気を振り絞れ!死地に飛び込む人の気持ちが今ならわかる気がする。
「ごめんな…」
「あなた漫画家になりたいのよね?」
「―――――――!!!!!」
度重なる混乱に脳はついに全ての処理を放棄した。僕はただ次の彼女の言葉を待つことしかできなかった。
「一年の頃、別のクラスに忍び込んで机の中のものをチェックすることにハマっていたの。それで見たのよ。あなたがノートに描いている漫画のネームをね。」
僕はまだ呆然としたままだ。
「内容はまさかのラブコメ!しかも若干エロが入っちゃってて…まさかあの主人公を自分に投影しちゃったりはしてないわよね?」
やめてくれ。やめてくれ!
「私がどういう人間かは知っているようね。当然、私の告白を断れば学校中にあのネームをばら撒く。脅しじゃないことは今までの私の…」
「付き合います!いえ付き合って下さい!藤井叶さん!」
これが僕の人生初の告白…拷問の末に出た叫びに近い何かが人生初の告白だったのだ。
「よろしいわ、ではまず条件を提示します、1ヶ月以内に誰に告白して了承を得て…つまり浮気しなさい」
脳が言葉の意味を理解するまでしばらくかかった。