006 好感度が見えるようになった私のスクールライフ
【あらすじ】
言ったでしょ、興味ないって。誰に好かれてるかなんて、どうでもいい。※001の登場人物の名前その他を流用しています。
【ジャンル】
ローファンタジー〔ファンタジー〕または恋愛〔現実世界〕
【キーワード】
好感度 勘違い 異能 日常
【本文】(短編完結手前レベル、要推敲)
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あえて言おう、テンプレであると。いいよね、ギ◯ン様。
そんな趣味を密かにもつ私、女子高生1年15歳の高坂スミレとしては、朝、ダイニングで両親の頭の上の半透明のプレート表示を見て、そう思わざるを得なかった。
「どうしたの? スミレ」
「早く食べないと遅刻するぞ?」
【名前】高坂隆
【好感度】
※名前欄にある人物を恋愛対象として捉えている者の一覧
加藤時子96
皆方幸91
高坂さやか87
中谷美恵子77
【名前】高坂さやか
【好感度】
※名前欄にある人物を恋愛対象として捉えている者の一覧
高坂隆98
「あ、うん、そうだね。あー、お粥がおいしい」
好感度というステータスだけを狙い撃ちしたこの中途半端な表示がいかにもである。好感度の解釈を間違えないよう、御丁寧に注釈まである。ふりがなも付いてるよ! とりあえず、神様が私の反応を見て面白がろうとしているのが目に見える。よーし、御期待に答えようじゃないか。
うわ、お父さんモテモテ! さすが、御近所でもチョイ悪(死語)で名を馳せているだけあるよ! 加藤さんと皆方さんと中谷さんって、会社でのお父さんの部下だよね。こないだウチに来て一緒に御飯食べたよ。そして、お母さんの好感度が間に挟まれているという、なんとも微妙な状況。修羅場るなら会社でやってね? そして、お母さん、お父さんにしか好かれてないよ! いや、別にいいんだけどね。この数値が百点満点なら、お父さん(チョイ悪)はお母さんが一番ってことだし。あー、でも、あくまで好かれてる人の一覧なんだよね。本人達が他に好きな人がいてもここには現れないから…。
こんなものでいい? あ、なんか『ぱああああっ』って後光を感じた気がする。気がするだけかもだけど。とりあえず、こんな調子で楽しんでいけばいいってことだね、うん。
よし、学校へ行こう!
◇
ガタンゴトン、ガタンゴトン
電車通学はキツい…。ラッシュは避けてるつもりだけど、それでも乗客が多いよ! 私もそのひとりだから文句は言えないけど。
うん、見知らぬ人のステータスを見て気を紛らわそう。
【名前】不知火輝未
【好感度】
※名前欄にある人物を恋愛対象として捉えている者の一覧
不知火宇宙98
【名前】高天崎アギト
【好感度】
※名前欄にある人物を恋愛対象として捉えている者の一覧
高天崎ユスラ95
【名前】祐天寺那由多
【好感度】
※名前欄にある人物を恋愛対象として捉えている者の一覧
祐天寺不可思議99
キラキラネーム多いなあ…。名字も妙にカッコイイし。でも、どれもこれも名字が同じなのは偶然だよね。決して、近親…いやいやいや。
ガタンゴトン…きーっ
ぷしゅー
ガヤガヤガヤ
「あ、スミレ、おはよー」
「おはよー、ゆきっち! 同じ電車だったんだ」
【名前】望月雪菜
【好感度】
※名前欄にある人物を恋愛対象として捉えている者の一覧
斎藤辰徳98
後藤遊矢97
藤岡陽子94
赤藤舞奈91
望月英治90
目黒勝利89
…
知ってた、知ってたよ! スクロールバーがすんごく小さいのも納得している。っていうか、どんどん小さくなってない? 好感度一覧、まだまだ表示中? えーっと、目線でスクロール…よし、私の名前はないな。親友よ、私はノーマルだからね!
「どうしたの?」
「ううん、ゆきっちは相変わらず美人で可愛くて明るくて賢くてナイスバディだねえって」
「またもー、スミレってば、朝からからかってー」
「ていうか、この胸にあるやつ、少しは寄こせ! いや、私の腹にあるこれとか持ってけ!」
「あははは、くすぐったいよー」
老若男女に無差別なまでにモテモテのスーパー美少女、ゆきっち。こうして数値で見せられると、わかっていたとはいえ、妙に実感する。
はー、なんでこの娘、私の友達なんだろう。もちろん、いい意味で。入学式で落とし物を拾ってあげただけで、それまでは知り合いでもなかったのに、クラスメートでさえないのに、その日からあれこれと話しかけてくれる。…はっ、まさか、私を恋愛対象として見ているとか!? 私のステータスは、私自身には見えないからなあ。
「もう、スミレったら! ほら、学校まで一緒に行こう」
そう言って、私の腕を掴む、ゆきっち。軽く引っ張られただけだけど、ステータス表示のことを考えると、意識せざるを得ない。でも、私への好感度だけはわからない。むう、もんもんとする。はっ、これが神様の意図なの? くそう、したり顔の表情が容易に思い浮かぶ!
◇
「じゃあスミレ、またお昼にね」
「うん、またねー!」
とりあえず、教室に入る。
「おはよー!」
「おはよー、スミレ」
「高坂、はよっす」
いつもの教室、いつものあいさつ。
だが、しかーし!
(ステータス・チェーック!!)
ほうほう、水島さんと鹿島くんはどちらも97で両想いか。こりゃー、お付き合いしてますなっ。間宮くんと鵜飼さんもそうだけど、好感度が87と53ってアンバランスかなあ。おおっ! 名城くんと浜松くんがっ! ええ、私も大好物ですよ。どう見ても浜松95×名城98ですねありがとうございますじゅるり。湯浅さんと檜山さんが27と35でほんのりと。生温かい目で見守ろう。育てはしないけど。
「高坂、顔が怖え」
「寺門くん、おはよ。相変わらずイケメンね」
「まあな、どっかの誰かと違って」
「その口の悪さも絶好調だね、イケメンなのに」
【名前】寺門啓太
【好感度】
※名前欄にある人物を恋愛対象として捉えている者の一覧
(空欄)
うははは、誰も恋愛対象として捉えてないってことだね! あーっはっはっ、自業自得ー。顔だけ男なんて滅べー!
「高坂さん、そんなとこで仁王立ちしてないで、早く席に着きなさい」
「すみませーん、瀬尾先生」
【名前】瀬尾美優
【好感度】
※名前欄にある人物を恋愛対象として捉えている者の一覧
寺門啓太92
おいおい、担任の先生に惚れるとか、小学校で卒業しなさいよ。しかたない、生温かく身守るキューに入れとこう。あと、顔だけ男にしか恋愛対象とみられていない瀬尾先生も。早くいい人見つけてね。
しっかし、私の名前が誰にも現れないなあ。いやね、『実は私って、あの人のこと無意識に好きになってたの!?』って展開を期待してたのよ。なんか知らないけど、知り合いにやたら鈍い鈍いって言われてるからさ。神様もそれ狙ってたんじゃないの? ねえ?
◇
カキカキカキ
「鮫島せんせー、できましたー」
「あー、ここまでは合ってるんだけどなあ」
「あう」
「まあ、及第点だな。席に戻っていいぞ」
「はーい」
数学の、鮫島先生。アホの寺門とは違うタイプの甘いマスク、優しい雰囲気に落ち着いた物腰。女子生徒全員の憧れ、男子生徒全員の嫉妬の対象。…なんだけど、さすがにねえ。憧れと恋愛対象は違うのですよ、やっぱり。
【名前】鮫島和樹
【好感度】
※名前欄にある人物を恋愛対象として捉えている者の一覧
望月雪菜99
鮫島桃子94
◇
お昼休み。
「ゆきっち、不倫はダメだよ?」
「ふえっ!? いきなり何言うの、スミレ!?」
「そもそも、愛妻家だって有名じゃない。この間だって、お弁当届けに来た時に…」
「…う、うう…」
ぽろぽろ
「…わ、わかってる、わかってるわよお…。でも、でもでも…」
「諦めなさい。それがお互いのためよ」
「う…うわああああああああんっ」
ぽんぽん
「よしよし、思い切り泣いて、思い切り忘れなさい。次の恋を探すのよ」
「ぐすっ…うう…」
こうして私は、親友の実らぬ恋を強引に終わらせたのだ。
ちなみに、こうして慰めている間にも、私は目線でゆきっちの好感度一覧を再チェックしていた。うん、鮫島先生は相変わらず含まれていないな。もちろん、私の名前も。親友は親友のままなのですよ。
◇
お父さんの好感度一覧を再チェックしてひとり心の中でほくそ笑んだ夕食を終え、私は自室のベッドに寝っ転がった。宿題はバッチリ終わらせている。正解率85%以上を期待しつつ。
「はー、今日はいろいろわかって興味深かったなあ。ゆきっちには悪いことしたけど、でも、いつまでも立ち止まってちゃダメだよね」
じっ
「…鏡で自分を見ても、やっぱりステータスは見えないか。気にならないと言えば嘘になるけど、ま、いっか。肝心なのは、私が誰を好きかってことよね。でも、結局私の名前は出てこなかったし…」
もしかすると、私が見る他の人のステータスには、私の名前は表示されないのかもしれない。本当は、たくさんの人達を好きになっていて、無意識かつ無節操に惚れっぽかったりして…。
「それなら、面白くないかなあ。そう考えると、もう好感度は見えなくていいよ。神様、クーリングオフね」
なんか、しょぼんぬって雰囲気が漂ってきた気がした。うん、そうそう、他の人にでも渡してよ、これ…。
うとうとした私はお風呂も入らず、そのままぐっすり寝てしまった。
◇
「おはよー。今日は梅のお粥が食べたい…あれ?」
翌朝目が覚め、顔を洗っていろいろと身支度を整えてダイニングに行ったら、お父さんとお母さんがなんか修羅場ってた。
「あなた! あの三人との関係、ちゃんと説明しなさい!」
「誤解だ! 私はお前一筋だ! 他の人にステータス見てもらえ!」
「どうかしら、他の人にもあなたの名前が出てくるんじゃないかしらね!」
もー、それは会社でやってって言ったじゃん。言ってないか。
「カスミ! 母さんのステータスを教えてやれ!」
「お父さんのステータスを並べ立てるのが先よ!」
「あー、ごめん。私には見えないや」
「「え?」」
かくかくしかじか
「だからね、私が要らないって思ったせいか、私は昨日見えただけで、今はもう見えないのよ」
「そうなのか…。ニュースを見てみろ、あらゆる人々が他の人のステータスを見ることができるようになったようだ」
「しかも、誰から好かれているかっていう情報だけね」
「神様もせっかちだなー。ステータスとかお約束、って思える人じゃないとパニクるよねえ」
せっかちっていうか、やけくそ? なんだかなあ。
でも…ってことは、自分が好きな人のステータスには自分の名前が見えるはずなのか。はー、つまり私自身、恋愛対象に思ってる人はいないってことなのか。
「でもまあ、私にはどうしようもないよね。じゃあ、学校行ってきまーす!」
「え、スミレ、あなた、自分自身のステータス知りたくないの?」
「言ったでしょ、興味ないって。誰に好かれてるかなんて、どうでもいい」
「我が娘ながら、凛々しいな…」
「ふーん…。ということは、私の一覧にはお父さんの名前があると」
「うっ」
「あと、お母さんも」
「えっと…」