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花火大会の夜

作者: ふうら

 藍色の夜空に、大輪の花が咲く。

 ぱっと綻んだ瞬間、見る間に広がり、絢爛と輝く赤い花。白く長い尾を引いて昇り、炸裂し、キラキラと瞬く光の粒を残す花。大輪の菊のように、黄色く豊満にしなだれる、優雅な花。

 空を染める色とりどりの光は、地上で影となった群集に降り注ぐ。光を浴びた群衆は一瞬、赤や黄色に浮かび上がり、すぐにまた黒い影の塊に戻る。誰が誰かも分からない黒い影の集まりは、次の花を待ち侘び、そこここで肩を寄せて囁き合う。

 「綺麗だね」

 隣で彼が言った。

 「ええ」

 二人並んで見上げる空に、また大輪の金の花が咲いて散った。

 「綺麗で、怖い」

 「怖い?どうして?」

 振り仰いだ彼の横顔が、一瞬空の光を受けて赤く染まる。しかし、すぐに闇が戻り、彼の表情も黒く沈んだ。

 黒く塗り潰された横顔のまま彼は口を開く。

 「この花火には鎮魂の意味もあるんだ。毎年、亡くなった人の魂を慰めるために上げる。だから、ここには死者も集まるんだってさ。この花火大会に来ると死んだ人に会うって噂がある。実際にそんな話をいくつか聞いたことがあるよ。……もしかしたら、今もこの人だかりの中にいるかもね」

  低められた彼の声。ぐるりと見渡した人だかりは、みな黒い影法師のようで誰が誰かも分からない。この中に死者が紛れている。それはおかしくないことのように思えた。きっと大方の人が気付かないだろう。今すれ違った人間が死んでいたとしても。

 でも、

 「怖いは違う気がするな」

 「そう?」

 「怖いじゃなくて……痛い。そう、痛い、がいい。ね、貴方もその方がいいと思うでしょ?」

 空に目を戻しながら答えると、隣で困惑する気配があった。少しだけ苦笑してしまう。

 空いっぱいに銀色の線が放射状に広がり、次第に粉のように掠れ、夜に溶けて消えていった。戻る闇と、深い静寂。

 「やっぱり、痛い、だ」

 そっと呟く。

 この花火が終わったら、彼とはお別れ。そんなこと、最初から分かっていた。例え私に未練があっても、彼には留まる理由がない。

 花火大会は出会いと別れの場所。沢山の人が同じ場所に集まって、ひとときを共有し、また別れていく。恋人たち、友人たち、知っている者知らない者。それから、生者と死者も。自分の死を忘れている彼は、また来年もここに来てくれるだろうか。来ない方が彼のためだろうか。私の想いは、一瞬の空の花のように、ここで消すべきものだろうか。

 最後のスターマインが上がり始めた。

 空が眩しい光に満ちる。

 次々と消える光の残像。そのせいで目が痛い。夜空が滲んで見えた。



 


 

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