第5話:破壊の儀と破壊の神
『黒よ、我らの願いに応え給え。今、森羅万象の理に従い、此処に破壊の儀を行うことを赦し給え』
遂に【破壊の儀】が始まった。
俺は地面に描かれた魔法陣の上に居るだけでいいらしい。
そしてどんな苦痛にも耐える覚悟が必要だとも言われた。
目を閉じ、静かにその時がくるのを待つ。
『我が名はシェイド・セルヴォルス! 【崩壊】の力を司る神ルヴィーナの契約者なり! 我が声を聞け! 時の番神、デルモスヘインよ!』
そろそろ、か。
目を固く閉じ、覚悟を決める。
『さあ、今こそ……ッ!?!?何だ……これはッ!?』
突然師匠が叫んだ。
一体どうしたというのだ。
辺りを確認しようと思い、目を開ける。
そして、すぐ目に飛び込んできた光景の異常さに驚く。
俺の周りを黒い何かが囲んでいた。
闇、とでも言えばいいのだろうか。とにかく黒い光のようなもので辺りが覆われていた。
「おい! 聞こえるか!」
「ああ! 聞こえる! だがこれは一体何なんだ!?」
師匠の問いにすぐ答える。
「すまないが俺にもわからねぇ! こっちで何とかしてみるから、お前はそこでじっとしてろ!」
「了解だ!」
こういう時は素直に従った方がいいだろう。変に余計な事をして、地雷を踏むのも怖いしな。
しかし……これは本当に何なんだ?
「チッ! おい! 聞こえるか! こっちからはこの闇みたいなやつをどうすることも出来ねぇ!」
「はぁ!? マジなのか!?」
「ああ! 俺の黒の力でもどうにも出来なかった」
師匠の力でもどうにも出来ないなんて。
じゃあ一体どうすれば……。
「すまねぇ! 少々危険だが……、そっちからどうにか出来ないか試してみてくれ!」
「わ、わかった!」
どうにか、って言われてもな……。
とりあえず触ってみるか。
そう思い、この闇(?)に触れてみた。すると、
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ッ!? おい! どうした! 無事か!?」
触れた瞬間、全身に電撃が走ったような痛みに襲われ、一瞬にして俺は意識を失った。
倒れる直前、師匠の声が聞こえてきたが、それに応えることは出来なかった。
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『目覚めよ、人間』
んん……。ここは……?
そして今の声は……?
目が覚め、すぐに声のした方を向く。
そこには全身から光を放つ、例えるなら、そう。神……のようなものが居た。
「お前は……誰だ?」
『我は時の番神デルモスヘイン。汝を此処へ誘いし者なり』
時の……番神?
それってさっき、おっさんが言ってた……?
『時の流れに逆らう者を罰する、それが我の役目』
「時の流れに逆う者……って俺のことか!?」
『肯定。汝は本来起こってはならない事、すなわち時の流れに逆らう、ということをしたのだ。だから我が現れた』
本来起こってはならない事?それって……
「破壊の概念を破壊する、ってやつか?」
『肯定』
「でもそれが何故時の流れに逆らうことに含まれるんだ?」
『本来であれば、【破壊】には破壊しか出来ない。それは我ら神々が決めた絶対的なルールであり、これに何人たりとも逆らうことは許されない。これに逆らった者を始末するのが我の仕事だ』
なるほどな。まあそれなら納得はいく。
だが、このまま「はいそうですか」なんて言って帰るわけにも行かない。
「それって、どうすれば許してもらえるんだ?」
『方法は無い。どう足掻こうが、我ら神々がそれを許す事はない』
おいおい、まじかよ。
んー、どうするかな。
戦って勝ったら許してくれる、なんて単純な考えなら簡単に思いつくんだがな。
まあものは試しだ。聞いてみるか。
「なあ神様よ。あんたと戦って、勝ったら許してくれる、なんてのはどうだ?」
『笑わせるな人間。我と戦うだと? そして勝つだと? あまり調子に乗るな。たかが人間如きが我に勝てると思うな』
「へぇ? 怖いんだ? 俺と戦って負けるのが。お前の言う、たかが人間如きに負けるのが。フッ、お前こそ笑わせるなよ! そんな腑抜けで神様名乗ってんじゃねぇぞ!」
ここは煽りまくる。
これにヤツが乗ってくれば、作戦は成功だ。
『ぐぬぬ、さっきから黙って聞いていれば! ああ、いいだろう! 受けて立つぞ人間!』
やべぇ、笑いが止まらねぇ。
まじかよ、こんな簡単な煽りに乗っかってくるなんてな!
「アハハハ! いいねぇ! じゃあ神様、早速やろうか?」
『その嬉しそうな顔が、すぐ絶望の顔に変わるのが楽しみだ!』
「それはこっちのセリフだけどな……っ!」
そう吐き捨ててすぐさま駆け出す。
「ハァァッ!」
俺は腰に装備していた短剣を抜き、神様に襲いかかる。
『フッ、これは何の茶番だ?』
ッ!?消えた?!恐らくこれは瞬間移動や転移の類だろう。
これなら師匠がいつもやってるから、対応はできる!
『死ね』
後ろから声が聞こえた直後、光線が放たれた。
それにいち早く気づいた俺はすぐに回避した。
再び神様に意識を向けようとするが、ヤツはまた瞬間移動で消えていた。
「チッ、逃げ足だけは早いな。そんなに怖いのか?」
『あまり図に乗るなよ人間!』
また後ろからだ。こいつ意外とワンパターンだな。
しっかりと放たれた光線を避け、短剣を構える。俺の読みが正しければ次も……
「後ろだ!」
『グアッ!』
今度はちゃんと当たった!こいつ、実体はしっかりあるんだな。
『ぬううう、人間如きが我に傷をつけるだと……!』
「フッ、あまり人間様を舐めてくれるなよ?」
『チィッ……もう手を抜くのはやめだ。所詮人間だからと舐めていたが、まさかここまでやるとは思わなかったぞ』
そう言いながら神様は、背中にある槍を取り出した。
『さらばだ、人間』
そう言った刹那、槍はすぐ俺の目の前にあった。
そんな……!速すぎる……!
クソっ、もう避けられない!
―――砕ケロ。
死を覚悟した時、目の前にあったはずの槍は跡形もなく砕け散っていた。
『なっ……何者だ。答えろ!』
神様が動揺している。
しかし……一体何なんだ?
―――我ハ破壊ノ神ナリ。
『破壊の神だと? 何故貴様が此処に居る?』
―――我ガ主ヲ守ル為、ダ。
『貴様の主だと? この人間が、か? 群れをなさない一匹狼の貴様が何故?』
―――黙レ、我ニ答エル義務ハ無イ。失セロ。
『なっ、グアァァァァァァァァ!』
一体何が起こっている?
謎の声が聞こえ、それが失せろと言った矢先に神様が闇に侵食され始めた。例えるなら、白色が黒色に塗り潰されてるような、そんなイメージだ。
『や、やめろ!グアァァッ!』
―――五月蝿イ。
『ガァァァァァァァァァ!』
すごい、神様を圧倒している。
とてつもない魔力が神様を襲っている。
『グァァ……許さん、許さんぞぉぉ……!』
そしてあっと言う間に神様は消えていった。
俺は謎の声の主に話しかけることにした。と、いうか助けてくれたお礼を言わないと。
「ありがとう、助かった」
―――礼ニハ及バヌ。
「それで、お前は一体何者なんだ?」
―――我ハ破壊ヲ司リシ神、名ヲ、黒神龍バルギリオス。主ト契約スル為ニ降臨シタ。
すると、目の前に一匹の龍が現れた。
全身はとても美しい黒色で、真紅の瞳や、巨大な身体なのにも関わらず、洗練されたそのフォルムに目を引かれた。
『サア、我ト契約シヨウ、“黒ノ王”ヨ』
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