第2話:真実
目が覚めた時、俺は知らない部屋のベッドの上に居た。
寝ぼけながら布団から抜け出し、状況を確認する。
「ここは……?」
見たところこの部屋には窓がいくつかあるが、その全てが格子状になっていた。扉も鉄格子で、その開閉部分には南京錠が掛けられている。
さながらここは牢屋のようだった。
部屋を再び観察すると、壁の端に並んだ棚に目が留まる。そこには、何やら触れてはいけないような危険そうな薬品らしきものが無数に並んでいた。
「ここは実験施設か何かか……?」
全く身に覚えが無く困惑していると、
「おお! 目が覚めたか! 随分長い間眠っていたから心配したんだぞ!」
ガハハ!と笑いながらおっさんが部屋に現れた。
確か、このおっさんは……
「アンタは……シェイド、とかいう名前の」
「ああ! そうだ! 覚えていたか! 俺はシェイド! シェイド・セルヴォルスだ! ところで貴様の名は何というのだ?」
「俺は黒鉄刃」
「ふむ……やはり転生者達と同じような名前をしておるのだな」
「転生者?」
“転生者”、ときたか。
魔法、力、聖王、聖女……それに転生者。
ここまで揃うとなると、まさかここは異世界だったりするのか?
でも、だとしたら俺はいつ異世界に来た?
気になることは多い。だが、今はそんな事を考えている場合ではない。
あれから何日経った?町はどうなった?ユキはどうなった?あと、俺は何故牢屋に入れられている?
まずはそれをこのおっさんに訊かないと。
「なあおっさん」
「おい、おっさんだと!? おいおいおいおい冗談はよしてくれよ。俺はまだ五十だぞ!」
「いやおっさんだろ」
「なんだと! このクソガキ!」
「ハハ、悪い悪い」
おっと挑発し過ぎたな。
そろそろ本題に入ろう。
「なあおっさん」
「はぁ……もうそれでいい」
どうやらおっさん呼びを妥協してくれたようだ。
「で? お前さんが聞きたい事って言うのは?」
「ああ、まず最初なんだが、俺は何故牢屋にいる?」
「牢屋? ん、ああ、この部屋か。この部屋はな、牢屋好きの女が管理してる部屋だから、牢屋チックなんだ」
「ってことはマジの牢屋じゃないのか? なんかあそこの棚に怪しげな薬がめっちゃあるから実験施設的な牢屋だと思ったんだが」
「クハハ! そうか! あの薬、見た目はかなり怪しいもんな! あの薬はな、ただのポーション……まあ治療薬みたいなやつだ。つまり、この部屋の役割は怪我人や病人を治療する所ってわけだ」
なるほど。医務室的なところか。
ん、じゃああの扉の南京錠は?
「南京錠を掛けてるのは何故なんだ?」
「あれはただの飾りだ」
飾りって。ってことは起きてすぐ部屋を抜け出せたってことかよ。まあ結果的にこのおっさんとすぐ会うことになったんだろうけどな。
次に行くとしよう。
「次だ。ここは何処だ?」
「ん? ここか? ここはディベル城。詳しいことは後で説明するが、一応ここが黒軍の本拠地だ」
黒軍?戦争でもしてるのか?
……まあ後で説明してくれるみたいだしな。とりあえずどんどん聞こう。
「次の質問だ。ユキ……白咲雪奈を連れ去った男、確か聖王とか言ったな。アイツは一体なんだ? それとユキは無事なのか?」
俺が一番気になってた事だ。
「ふむ、そうだな。まず前者だ。あやつは……聖王は今代の聖女、つまりお前さんの彼女と婚約の儀を交わす予定の者、だ。その正体は白軍を統治するノワーライグ王国の第一王子、デリス・ノワーライグだ」
は?待て。今、婚約って言ったか?
気になる単語は色々あった。だがそれよりもまずはそれを問い出さないと。
「婚約だって? 冗談はよしてくれ。何で関係の無いユキがそんな話に巻き込まれてるんだ」
「ああ、そうか。まず“黒”と“白”、この話をしないと始まらないな」
それから、おっさんにこの世界における、“黒”と“白”についての関係性や数百年続く戦争のことなどについて教えてもらった。
それを簡潔にまとめるとこうだ。
・“黒”と“白”、というのはそれぞれ“破壊”と“創造”のスキルを所有する人物を指す言葉だということ。
・このスキルを所有する人物は毎年一人ずつ現れ、それ以前にスキルを所有していた人はそのスキルを失うこと。
・それぞれの力を所有する人物が“黒軍”と“白軍”のリーダーとして君臨し、数百年もの間、毎年リーダーを変えながらずっと戦争を繰り返しているということ。
・リーダーが居なければ戦争ができないこと。
・今回は俺とユキが力の保有者だということ。
「つまり、あの聖王とかいうやつがユキを連れ去ったのは……」
「ああ。戦争するため、だろうな。それとさっきの続きになるが、白の力を所有する者、“聖女”や“聖王”なんて呼ばれているが、そいつらは、その時の軍を統治している一番位の高い者と夫婦になる誓いが立てられている」
「ッ……! ふざけるなよっ! 戦争に無理矢理参加させられる上に結婚相手まで勝手に決められるのか! クソっ……! クソっ!」
また……また守れないのか…?
いや、駄目だ。そんなの絶対駄目だ。今回はなんとしても救ってみせる。
例えこの身を滅ぼしてでも。
「早く、早く助けないと!」
「落ち着け、まだだ。まだ時間はある」
「落ち着けるか! 時間なんてそんなにあるわけ無いだろ!」
そうだ。今は九月。残り三ヶ月の間で、ユキは戦争に駆り出され、あの聖王とかいうやつと結婚させられる。
「時間が無いんだ……」
その場に膝をついて、泣きそうになる。
なんて……なんて俺は無力なんだ。
やっぱり助けられないじゃないか。残り三ヶ月で何ができる?
「うぅ、うぁぁ、うぁぁぁぁ!」
「はぁ、落ち着けよ。ちゃんと話を聞けって。助ける方法はまだある。」
「助ける方法がある……? だったら早くユキを助けてくれ! 頼む!」
「まあ落ち着け、ちゃんと順を追って説明する。まず、此処より北の地にある城、白軍の本拠地シュバルト城を目指す。結婚式はここで行われる。式が執り行われるのは半年後だ」
「半年後? 何でそんなことがわかるんだ?」
「ん、ああそれはだな……」
そう言っておっさんはズボンのポケットからくしゃくしゃの紙を取り出し、広げて見せた。
それにはこう書かれていた。
『聖女様現る! 聖王様との結婚は半年後!』
「と、まあこのように、ご丁寧に送ってきた訳よ」
「な、なるほどな。これを信じるなら確かに時間はまだあることになるな」
「そういうことだ。少なくとも半年間は時間がある。それまでに必ず救出すれば良い。だが、お前はあまりにも無力過ぎる。そんなんじゃ助けるもんも助けられんぞ」
「だ、だけど……そんな簡単に力が手に入る訳でもないだろ?」
「フッ……フハハッ! それがあるんだよ。しかも、もうお前はその力を持っている」
「もう持っている?」
もう持っている力、ということは……
思い当たる節は一つある。
「“黒”か?」
「ああそうだ。お前にはこれから半年間、黒の力を使いこなせるよう、特訓してもらう。俺が教えてやる! 俺の訓練は厳しいぞ?」
おっさんは、ガハハ!と豪快に笑いながら背中を叩いてくる。
特訓、か。ユキを助けるためだ。
例えどんな厳しい訓練だろうと耐え抜いてみせる!
次の投稿は明日の昼頃の予定です!
よろしくお願いします!