悪夢の終わり(3)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の新たな物語。
それから2日後の平成18年3月21日午後1時頃。東京から帰ってきた死獣神メンバーと未来は、雲雀の店に集まっていたが、剣菱兄妹の死という結末に落ち込んでいた。
過去、何人もの人に死を齎してきた死獣神の彼らでも、今回ばかりは精神的に堪えたようである。
「龍君、それにみんな……本当にあれでよかったの?」
「……未来さんの言うとおり、全部がいいわけじゃない。無理にでも止めてたら、京士郎さんの命は救えたかもしれない。だけど、それで京士郎さんがまた暴走したら、蒼子さんは犬死にだし、今度こそ正気を取り戻せなかったかもしれない。あの人を人のまま死なせるには、あぁするしかなかったんだ……」
彼と2度に渡り戦った龍の言葉を聞いた未来は頷くことしかできず、様々な後悔のせいで店内は重い空気に包まれていた。
「まぁでも、最後は2人仲良く地獄に落ちたんだ。きっと今頃、向こうで幸せになってるだろうよ」
「なんで地獄行きって決まっとんねん?」
「そうよ。京士郎さんは自分の意思でやってたわけじゃないし、蒼子さんも断腸の思いで依頼したけど、本当はあの人に死んでほしくなかった。2人ともすごくいい人よ。なのに……」
柚や雲雀らがそう反論するのを聞き、翔馬は深いため息をついてから、人の死に関する真理を述べた。
人間は周囲の環境や生まれ持った性分等によって、大なり小なり邪心をもっており、小さいとはいえ誰もが罪を犯す。それこそ、命を奪うような凶悪犯罪から嘘をついたり物を壊したりといったことまで。
故に、どんな聖人君子といえども、生まれてこの方罪を犯さない人間など存在しない。例外として無に帰すか転生する者もいるが、基本的に人間は皆、地獄に落ちる。
違いがあるとするなら、深いか浅いか。罰が多いか少ないかぐらいである。
「そっか……だったら、僕らもいずれ落ちるんだよね? 地獄の底に」
「あぁ。怖じ気づいたか?」
意地悪くそう聞かれた龍は、首を横に振った。
「そうなるってわかったところで、今更この仕事をやめれないよ」
「せやな。たとえ明日地獄に落ちるとしても、な」
龍と雲雀の答えは他の死獣神メンバーも同感だった。
そう。彼らは殺し屋。人を殺すことを生業としている彼らは、いつ恨みを買って殺されるかわからない。
だからといって、殺人依存症を患っているこの体を自制することなどできないし、やめたところで、地獄の底に落ちることに変わりはない。
死獣神は獲物を食らい続けるしか道がないのだ。
「じゃ、僕は先に帰るよ。会社の仕事が残ってるし、今回の報酬をみんなの口座に振り込まないといけないからね」
「報酬、ですか……なんか受け取りづらいですね」
「そうね。まるで蒼子さんと京士郎さんの遺産を相続してるみたい」
柚と澪の言葉で再び龍達が沈むのを見た武文は、余計な一言を言ってしまったと反省し、逃げるように雲雀の店を後にした。
今回の一件で、報酬と引き替えに苦い思いをした死獣神。後に地獄に落ちる者として彼らが今できることは、せめて剣菱兄妹の冥福を祈ることだけだった。
その中でも原因の1人として責任を強く感じている龍は、誰よりもそれを願っていた。
この一件がきっかけで、自身の中である変化が起き始めていることなど気付かないぐらいに………………
後味が悪い感じで終わりましたが、『骨の書』はこれにて終了です。
龍の中に起こった変化は、次回作以降で明らかとなります。




