青龍覚醒(3)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の転機の物語。
が、よほど悪運が強いのか、その命はまたしても救われた。
今や柚の理解者となりつつある未来が、割って入ったことによって。
黒猫は離れるよう警告したが、未来は断固拒否し、是が非でも動こうとしない。
庇う理由に見当もつかず、訳を聞くと、未来は自分の考えを述べ始めた。
「私、柚さんを見ていて思ったの。やっぱり、復讐はダメだって。だって、復讐のせいで柚さんは素直になれないし、過去にとらわれて前に進めない。そんなんじゃ幸せになんかなれない。黒蛇さんや柚さんの両親も多分、あなたがそうなることを望んでいないよ」
「知った風なこと言わないで! 未来さんがどう言おうと、この男だけは許せない! 私から大切なものを奪っただけでなく、汚い手を使ってまで私達を亡き者にしようとする。そんな人を許せるわけ――!」
「許せなんて言ってないっ!」
未来の口から出た予想外の言葉に、黒猫は一瞬フリーズした。
「許さなくていいよ。そりゃ誰だって、許せないことの1つや2つぐらいある。私だって、未だに黒龍さん達のことを許してないし。けど、復讐を果たしたところで、龍君やお父さん達は喜ばないだろうし、きっと虚しさだけが残る。だから私は、許さないまま幸せな日々を歩むことにしたの。その方が、みんなも喜ぶから」
その考えに、人類を敵対視するペガサスは舌を巻いた。
普通なら彼女と同じように復活し、第2の人生を送ることになったとしても、ほとんどの者は復讐を果たそうとするだろう。それだけ人間の心は脆弱だ。
しかし未来は、あえてその道を断ち、自らが幸せになって見返す道を選んだ。
それを追求するあたり、彼女の心は誰よりも強く、誰よりも正しい。
人でありながらそう心がける未来の姿勢に、ペガサスは心から嘆賞した。
「もちろん、それを押しつけるつもりはない。柚さんには柚さんの人生があるし、すぐには変えれない。でも、わかってほしいの。復讐以外の道があることも」
「そうだね。未来さんの言うとおりだ。復讐は強欲以外のほぼ全てを宿す邪心の塊。そんなのにとらわれていたら、幸せになんてなれない。黒猫。君も僕と同じ不幸せ者だったってことだ」
未来とペガサスからそう諭されて思い止まった黒猫は、静かに菊一文字零式・真打を納刀した。
「……そうね。でも……」
「わかってる。未来さんも言ってただろう? こんな奴許さなくていいし、自分の人生を変えるのは容易ではない。ただ、よく考えてほしいんだ。今の君には、復讐より先にやるべき事があるはずだよ。プロの殺し屋として、ね」
ペガサスがそう言って指差した先には、京士郎だけを見つめて命懸けで戦う青龍の姿があった。
「みたい、ね……いざって時のために見守らない、と…………うっ」
そう言い終わるか終わらないかというところで、黒猫は刀を支えにして膝から崩れるように座り込んだ。
よく見ると、足や脇腹に弾痕がある。オールデリートをする前後に放たれた銃弾が命中していたのだ。
深手を負っていたのに、涼しい顔をして源士郎を殺そうとしていたことを知った未来と朱雀らは、一刻も早く治療すべきだと思い、ペガサスに治療するよう求め、そうまでして頑張っていた彼女を叱った。
相手を恨んでも復讐に走らない。
未来のように考え、それを実行するのは、おそらく、ほぼ不可能でしょう。
本文でも書きましたが、それぐらい人の心は脆弱で、薄汚れています。良心より邪心が多くを占める生命体ですから。
『断言するな』とおっしゃる方もいるでしょう。そんなあなたに逆にお尋ねします。
あなたは何があっても復讐に走らないと、胸を張って強く言えますか? 親兄弟や大切な者を殺した犯人と対面し、のうのうと生きていると知っても尚それを貫ける自信がありますか?




